楽器群ごとの響きの比較と、異なる音色の組み合わせ

 音を持続させられる楽器群(弦、金管、木管)の響きを比較すると、大体次のような結論が得られます。

 最も大きな音を出せる楽器群は金管ですが、中でも強いのはトランペット、トロンボーン、チューバになります。強奏のパッセージの場合、ホルンはこれらの半分の強さしかありません。従って、これらの楽器がそれぞれ同じ音量を得るためには、トランペット一人に対し、トロンボーンなら一人、チューバなら一人、ホルンなら二人の奏者が必要になります。木管楽器の場合は、強奏ではそれぞれホルンの半分の強さしかないので、ホルン一人に匹敵する音量を出すためにはクラリネットでもオーボエでもフルートでもファゴットでも2人の奏者が必要になります。ただし弱奏の場合は、全ての管楽器(金管も木管も)の音量が等しくなります。

 弦楽器の音量は人数によって変わってしまうので木管楽器と比較するのは難しいですが、とりあえず中編成のオケであるとすると、まず弱奏のパッセージの場合、一つのセクション(第一ヴァイオリン全体、とか第二ヴァイオリン全体、とか)が一人の木管楽器と同じ音量になります。強奏の場合は、一つのセクションが木管楽器二人と等価になります(第一ヴァイオリン=フルート二人=オーボエ一人+クラリネット一人、等)。

COMMENT:バランス: ここに記されている「バランス計算式」はかなり大雑把なものであると捉えておくべきで、同じ動機を演奏している楽器同士の間でのみ成り立つものであると覚えておきましょう。というのは、我々は普通動きのあるフレーズを無意識に追いかけるものですから、例えばヴァイオリンにしても同じ音を伸ばし続けている場合よりも生き生きとしたフレーズを演奏しているときのほうが目立つことになります。このことが、オーケストラにおけるバランス計算を難しくする一つの要因になっています。また、木管と金管は音域ごとに音色や音量が大きく変化する楽器です。従って、例えば低音域のフルートをヴァイオリンと組み合わせる場合と、高音域のフルートをヴァイオリンと組み合わせる場合では、全く状況が異なってしまいます。

 音を伸ばせない楽器との比較は、楽器ごとに音量が大きく異なるので相当難しいです。音を伸ばせる楽器同士の組み合わせは、弦のピッチカートやcol legno、柔らかく奏したピアノ、チェレスタを容易にかき消します。一方、グロッケン、ベル、シロフォンの場合は、強奏することで他の楽器群の組み合わせにも容易に打ち勝つことができます。ティンパニやその仲間も強く鳴り響きますので、これらと同じように他の群に負けない音を出すことができるでしょう。

COMMENT: ただし、これらはいずれにせよ打楽器ですから、音はすぐに減衰して消えてしまいます。音色だけでなく音が持続できるかどうかという性質もオーケストラの楽器を区別する重要な要素です。

 複数の楽器群を重ねることで、楽器の音色は大きく変わります。例えば、木管楽器の一部を弦楽器と、残りを金管楽器と組み合わせる、というような場合を考えてみましょう。この場合、木管楽器は弦と金管を強めながら、弦をより厚くし、金管をより柔らかくします。ただし弦楽器は金管とそれほどよく混ざり合わないので、これら二つだけを同時に演奏した場合、あまりにハッキリと分離して聴こえてしまいます。異なる音色3つがユニゾンで重なると、豊かでまとまりのある音になります。

 全木管楽器、あるいはいくつかの木管楽器を弦楽器の一セクションと組み合わせると、弦の響きが和らぎます。例えば、

・2フルート+2オーボエ+第一ヴァイオリン
・2オーボエ+2クラリネット+ヴィオラ
・2クラリネット+2ファゴット+チェロ

のような組み合わせになります。

 このように弦楽器の一セクションが複数の木管楽器とユニゾンで重なると、甘くまとまりのある音になりますが、木管楽器らしい音色は失われません。一方で一つの木管楽器が全弦楽器あるいは弦楽器の組み合わせとユニゾンで重なると、弦の響きが木管の追加によって厚くなるものの、木管楽器らしい音色にはなりません。これは例えば、

・第一ヴァイオリン+第二ヴァイオリン+1オーボエ
・ヴィオラ+チェロ+1クラリネット
・チェロ+コントラバス+1ファゴット

のような組み合わせになります。

 ちなみに、弦楽器に弱音器を付けた場合には、その音色が木管とはっきり分かれてしまうため、なじみが悪くなります。では、音を伸ばせる楽器を撥弦楽器や打楽器と組み合わせるとどのようになるでしょうか。まず、管楽器(木管も金管も)は、pizzicato、ハープ、ティンパニ、その他の打楽器を強め、よりはっきりした音にします。この時、後者(pizz.~打楽器)は管楽器の音色に安定感をもたらします。しかしこれら撥弦楽器や打楽器を(普通の奏法の)弦楽器と組み合わせても、それぞれの音色が独立して聴こえてしまうため、よく混ざり合った音としては聴こえません。撥弦楽器と打楽器は素晴らしい組み合わせです。これらは完全に混ざり合い、従って響きと音量が増大するため、素晴らしい効果を得ることができます。

 弦楽器のハーモニクスはフルートやピッコロの音色とよく馴染むので、この組み合わせはオーケストラの高音域においてこれら二つの楽器群の懸け橋になります。さらに、ヴィオラの音色はなんとなくファゴットの中音域やクラリネットの最低音域に似ています。ですので、オケの中音域では、これらが重なったところを弦と木管の橋渡しとして使うことができます。

 ファゴットとホルンは、pまたはmfで演奏した時の音色が互いに似ているので、木管楽器と金管楽器の懸け橋となります。最低音域のフルートもppのトランペットに近い音がします。ストップあるいはミュートしたホルンとトランペットは、オーボエやイングリッシュホルンと音色が似ていますので、互いにかなり良く混ざり合います。

 さて、オーケストラの楽器群に関する概説の締めくくりとして、私にとって特に重要と思われる注意を書き加えようと思います。

 まず、音楽の主要部分は、音を伸ばすことのできる楽器(弦楽器、木管楽器、金管楽器)に請け負わせます。これはつまり、これら主要楽器が音楽の3要素、メロディ、和声、リズムを担うということです。音を伸ばせない楽器は、独立して使われることも時々あるとはいえ、ほとんどの場合は色彩感を増すことや飾りのために用います。特定の音階を持たない楽器は純粋にリズムをだすために使われます。

 弦楽器、木管楽器、金管楽器、撥弦楽器、音程のある打楽器、音程のない打楽器、という並び順で覚えておくことで、曲の部分部分でオーケストラのどの楽器を用いればよいか、色彩感と表現という観点から考えることができます。表現という観点では、弦楽器が最も表情に富んでおり、上の並び順に従って乏しくなっていきます。最後の音程のない打楽器では表現力は皆無で、色彩感のみに寄与する楽器群です。

 各楽器の一般的な印象からも同じ楽器順にたどり着くことができます。まず、弦楽器の音はほとんどずっと聴いていても疲れることがありません。弦楽四重奏や弦楽器群だけの組曲やセレナーデ(小規模な器楽曲)等が多く残されてきました理由はここにあります。また、弦楽器の一つの群を木管楽器に加えることで、パッセージに光沢が生まれます。一方管楽器では弦楽器と異なり、すぐに聴き手を疲れさせます。撥弦楽器やあらゆる打楽器でも同じであり、これらはずっと使い続けるのではなく適当に間隔をあけて用いなければなりません。

 最後に、混合音色ばかり使っていると、つまり二種類や三種類の楽器を組み合わせてばかりいると、それぞれの音色の特質が消え、結果として冴えない平べったい質感になってしまうのだと知っておきましょう。単純で基本的な組み合わせが無限の色彩感を生み出すこともあるのです。

COMMENT: オーケストレーションの初心者が陥るミスで最も多いのは、混合音色を使いすぎることでしょう。RKが書いている通り、混合音色の過剰使用は音色の輝きを失わせてしまいます。

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