複数弦楽セクションのユニゾン

a) 第一ヴァイオリン+第二ヴァイオリン

いうまでもなく、音色に変化はありません。ただ、人数が増えることでより力強く豊かな音色になり、普通は何か木管のメロディを重複するのに使います。ヴァイオリンの人数が増えることで木管ばかりが目立つのを防ぐことができ、音色は弦楽器らしさが残ったままより豊かに大きくなります。

No. 12. Scheherazade, 第三楽章冒頭: 第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンによるcantabile。 はじめはD弦、その後A弦。

The May Night, 序曲 D: p(弱音)の素早いメロディ。Cantabileに始まり、その後オクターブユニゾンに変化して華やかな装飾を伴うようになる。

No. 13. The Golden Cockerel, 170: 弱音器付きの第一ヴァイオリン+第二ヴァイオリン

b) ヴァイオリン+ヴィオラ

この組み合わせでも特に音色は変化しません。ヴァイオリンの方が強く残り、全体として豊かで充実した響きになります。

No. 14. Sadko, 208: 第一ヴァイオリン+第二ヴァイオリン+ヴィオラ(G弦)。ppの静かなcantabileのメロディ。アルトとテナーのコーラスがユニゾンで重なる。

The Golden Cockerel, 142: 同じ組み合わせ

c) ヴィオラ+チェロ

チェロの音色がメインで残り、豊かで満ち足りた響き。

No. 15. Snegourotchka, 5: 春の幽霊。ヴィオラ+チェロ+イングリッシュホルン。No. 9と同じメロディでmfのcantabile。ただし、より明るい調性を求めてNo. 9より三度高くなっており、音色もより輝かしい。イングリッシュホルンを加えてもその混合音色に本質的な違いはなく、チェロが頭一つ抜けて目立つ。

No. 16. The Golden Cockerel, 71: 弱音器付きヴィオラ+チェロ。

d) ヴァイオリン+チェロ

ヴィオラ+チェロに似た響き。チェロの音色が勝り、ヴィオラ+チェロよりさらに充実した響き。

No. 17. Snegourotchka, 288: 湖への春の訪れ。第一ヴァイオリン+第二ヴァイオリン+チェロ+イングリッシュホルン。No. 9, 15と同じcantabileのメロディ。イングリッシュホルンの音色は全体に溶け込んでいて、チェロの音色が主体となっている。響きがさらに力強くなっている。

No. 18. The May Night, 第三幕L: ルサールカ(水の精)達のコーラス。ソロのチェロとヴァイオリンの組み合わせにより、ヴァイオリンの音色にチェロの質感が加わっている。

e) 第一ヴァイオリン+第二ヴァイオリン+ヴィオラ+チェロ

アルトからテナーの音域でない限り、これらすべてをユニゾンで重複することはできません。このユニゾンでは、それぞれの楽器の充実した響きが一つにまとまり、アンサンブルとしての複雑な音色へと深化します。その音色は、フォルテでは非常に張り詰めた力強い音色、ピアノでは極めて充実した豊かな音色となります。

No. 19. Scheherazade, 第二楽章P: ffによるエネルギッシュなフレーズ。

Mlada, リトアニア人の踊り, 36の前

Mlada, 第三幕, 40: クレオパトラの踊り。東洋調の装飾を伴うcantabile。

f) チェロ+コントラバス

豊かで充実した響きをもたらす組み合わせ。超低音域のフレーズに時折使われます。

No. 20. Sadko, 260: 絶え間ないforteのフレーズ。激しい曲調。

No. 21. Legend of Kitesh, 240: ppのフレーズ。不吉で恐ろしい曲調。

COMMENT: この節では、本書で初めて「複数の楽器の自然な組み合わせ」についての話が登場しました。ほぼ同じ音色の楽器を組み合わせる場合、合唱の場合を元にして考えるのが有用です。というのは、合唱は音域ごとに4つのグループに分かれており、何も考えずともよく溶け合った音色を得ることができるからです(ただし弦楽器の場合コントラバスが独立した声部を演奏するのは非常に稀で、基本的にはチェロの一オクターブ下をなぞります)。重複として最も安全なのは隣り合った音域の声部を重複させることで、例えばVln. 1 +Vln. 2やVla. + Vc.などの組み合わせになります。隣り合っていないパートを重複に使うと、より特徴的な音色になります。これは、このような重複ではどうしても片方の楽器は出せるぎりぎりの音域を使うことになるからです。このような特徴的な音色を作り出す(それだけ目立つようになる)重複は前景にあたるパッセージに使うのが普通で、それぞれの組み合わせに特有の音色をよく理解して使わなければなりません。

弦楽器のオクターブ重複

訳注:この節より、原著にはオクターブ関係を示すために 第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、8 のような表記が現れます。しかし、パソコンやモバイルを初めとする様々な端末で同じように表示するため、本サイト上ではこれを「第一ヴァイオリン | 8 | 第二バイオリン)」のように表記致します。この例では、第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンが八度(1オクターブ)離れて重なっていることを意味します。片側が複数の楽器で演奏される場合には、(ヴァイオリンソロ2人) | 8 |(第一ヴァイオリン+フルート1)のようにカッコ書きで複数の楽器を示します。。
なお、PDF版および書籍版では上の画像のような表記となっています。

a) 第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンのオクターブ

これは非常にありふれた組み合わせで、あらゆるメロディに使われます。とくにメロディが超高音域の時によく現れるでしょう。すでに述べたように、ヴァイオリンは人のソプラノよりも高い音域では音色の豊かさを欠いていきます。また、ヴァイオリンによる超高音のメロディはそのままだと他のアンサンブルからあまりにも浮いて聴こえてしまいます。この問題は第一と第二ヴァイオリンをオクターブ重複させることによって解決でき、この重複では豊かな表現力と充実した音色を得ることができます。これを用いた例は非常に多く、以下にそのいくつかを示します。ほとんどが息の長い、表現に富んだフレーズです。

COMMENT: RKがここに書いていることは、より広い視点で捉えるべきものです。つまり、ヴァイオリンに限らず、超高音域はオクターブ重複なしに多用してはならないのです。超高音域は容易に耳を疲れさせ、オクターブ重複がない場合には他と全く異なる距離感にあるように聴こえてしまいます。

No. 22. The Tsar’s Bride, 166: cantabile, piano。

The Tsar’s Bride, 206: Cantabile, mezzo-piano; 低い方がソプラノの歌とユニゾンになっている。

Scheherazade, 第三楽章, J: ト長調のcantabile。dolceかつcantabile(No. 12と同じ)。

No. 23. The Legend of Tsar Saltan, 227: 反復を伴うメロディ。dolce, espress. e cantabile。

Sadko(交響的絵画), 12: 第一+第二ヴァイオリン(ともに弱音器付き)。短いダンスのフレーズ。pp。はじめはヴィオラ、続いてヴァイオリンで演奏 (No. 6を参照のこと)。

No. 24. Sadko(オペラ), 207: おそらく珍しい例。ヴァイオリンが出せる限界近くの超高音を演奏。

注:このフレーズは難しいですが、それでも十分に演奏可能です。第一ヴァイオリンのうち一つか二つの席さえ上のオクターブを演奏できていればよく、他の奏者は下のオクターブの演奏で問題ありません。こうすればヴァイオリンの最高音における甲高い感じが抑えられ、より澄んでいて感じの良い音になるでしょう。同時に低い方のオクターブにおける表情豊かな質感が強調されます。

*The Golden Cockerel, 156.

*The Golden Cockerel, 165.

*Antar, 第一楽章, 11.

*No. 25. Ivan the Terrible, 第三幕, 63.

b) divisiしたヴァイオリンによるオクターブ

divisiした第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンの片声部同士によるオクターブ重複では奏者の数が半分になるため、メロディに使うにしては音量が限られてしまいます。これは特に小編成のオーケストラで顕著です。それでも木管が弦楽器を重複している時やメロディが十分高い音域の時には、このような重複も時折使われます。

COMMENT: あるいは、あえて透き通った薄い音が欲しい場合、例えばdivisiしたフレーズが前景に来てはいけないような場合等にも使えます。

Snegourotchka, 166: 第一ヴァイオリン | 8 | 第二ヴァイオリン. mezzo-forte expressivo。クーパヴァ (ソプラノ) の歌を一部重複。フルートとオーボエ各一台がこのメロディを重複。

No.26. Snegourotchka, 283: 花のコーラス(Chorus of Flowers)。 (ヴァイオリンソロ2人) | 8 | (第一ヴァイオリン+フルート1). 二つのオクターブにおけるppのcantabileで、女声(ソプラノⅠ)のコーラスと共に動く。その後イングリッシュホルンに受けわたす。第一ヴァイオリンのソロ二人のみが上側を演奏し、その他の第一ヴァイオリンとフルートは下側を演奏する。全体的にppであるためソロは十分目立つはず。

c) ヴァイオリンとヴィオラのオクターブ

ヴァイオリンがヴィオラとオクターブで動くのはよくある手法で、特に下側のオクターブがヴァイオリンのG線(最低弦)の限界を超えてしまう時に多く用いられます。

1. ヴァイオリン(第一または第二) | 8 | ヴィオラ

Snegourotchka, 137, 第一幕の最後: piano(弱音)の急速なメロディ。


2. (第一ヴァイオリン+第二ヴァイオリン) | 8 | ヴィオラ

3. 第一ヴァイオリン | 8 | (第二ヴァイオリン+ヴィオラ)

この二つは完全に同じではありません。2.は上声部をより輝かしくしたいときに使われますし、3.は下声部に豊かでcantabileな質感を足したいときに使われます。

No. 27. Sadko, 181の前: 上記2の組み合わせ。素早く生き生きとしたパッセージ。Forte。同音連打を含むフレーズ。
No. 28. Snegourotchka, 137, 第一幕の最後: 上記3の組み合わせ。Cantabileのフレーズ。フルートとクラリネットに受け渡す(No.8を参照のこと)。

d) ヴィオラとチェロのオクターブ

ヴァイオリンが他のことに使われてしまっている時の特殊な用法。

*Legend of Kitesh, 59: ヴィオラ | 8 | チェロ。 ファゴットにより重複。

e) ヴァイオリンとチェロのオクターブ

かなり表情豊かなパッセージ、それもチェロがA弦かD弦(高い方の2つの弦)で奏す必要のあるパッセージで用いられます。ヴィオラとチェロのオクターブ重複よりもよく響く音色になります。これを用いている例はかなり多いです。

No.29. Antar, 43: (第一ヴァイオリン+第二ヴァイオリン) | 8 | チェロ. 東洋調のcantabile。

Scheherazade, 第三楽章H: 第一ヴァイオリン | 8 | チェロ. cantabile mezzo-forte appassionato (No. 1.参照)。

*No. 30. Scheherazade, 第三楽章Pの前: 第一ヴァイオリン | 8 | (第二ヴァイオリン+チェロ) 及び (第一ヴァイオリン+第二ヴァイオリン) | 8 | チェロ. 一つ目の編成は珍しい。

Pan Voyevoda, 134: ノクターン「月の光」。 第一ヴァイオリン | 8 | チェロ. cantabileのメロディ。 はじめはチェロのみで奏される (No. 7参照)。

The May Night, 第三幕B, C, D: (第一ヴァイオリン+第二ヴァイオリン) | 8 | チェロ. メロディックなforteのフレーズ。

f) チェロとコントラバスのオクターブ

低音は普通この組み合わせで演奏され、この例は至る所にあります。場合によってはコントラバスのパートがチェロよりも単純化されることもあります。

Snegourotchka, 9: 春の精のアリア。

g) ヴィオラとコントラバスのオクターブ

この組み合わせが現れることは稀で、チェロが何か他の使われ方をしている時にのみこの組み合わせが出てきます。

No. 31. Legend of Kitesh, 223.

h) オクターブの上下がそれぞれユニゾン重複

オーケストラの中音域にメロディがある場合、このメロディを第一と第二ヴァイオリンに受け持たせ、さらに一オクターブ下をヴィオラとチェロで重ねることがあります。この組み合わせはよく見られ、どこか厳粛な雰囲気の美しい音質を得ることができます。

Snegourotchka, 58, 60, 65, 68: 同じメロディ。最初の二回はppでその他の重複なし。その後mfとfで繰り返すが、こちらはさらに木管で重複。

Mlada, 第二幕, 「リトアニア人の踊り」の始め: 生き生きとしたpのテーマ

Ivan the Terrible, 第二幕, 28.

注1: メロディが超高音域、例えば第五オクターブの真ん中あたりにあるような場合、このメロディは普通オクターブ下で重複します。一方、メロディが超低音(第一オクターブの真ん中より下あたり)にある場合、これはオクターブ上を重ねます。

Sadko, 207. (No. 24を参照のこと)

注2: ヴァイオリン以外は、同じ楽器をdivisiすることでオクターブにするのは基本的に避けましょう。 つまり、ヴィオラI | 8 | ヴィオラII, チェロI | 8 | チェロII, コントラバスI | 8 | コントラバスIIは全て良くありません。 この場合、上と下の音で使う弦が変わってしまい、音色の均質性が損ねられます。

注3: ただし次の組み合わせは時折見られます。
(ヴィオラ+チェロI) | 8 | (コントラバス+チェロII)

次へ

(一つ戻る)

(目次に戻る)

(管弦楽法の基本トップに戻る)