概論

COMMENT: 木管を取り扱ううえで覚えておくとよいのは、木管という物を一つの「木管族」として取り扱うのではなく、「オーボエ・イングリッシュホルン・ファゴット系(ダブルリード)」、「ピッコロ・フルート系」、「クラリネット系」の3グループに分けて考えるということです。弦楽器とは異なり、木管は音域ごとの特徴も楽器ごとに大きく異なっています。例えばフルートは低い音域では柔らかい音色になっていくのに対し、オーボエとファゴットは低音域で音が大きくなります。このように木管は音色の面でも音域の面でも多様性あふれる楽器ですので、それだけ良いアレンジをするのが難しくなります。第一章で述べた通り、初心者の内は本当に一台の木管楽器に3つの楽器(高音、中音、低音)が宿っていると考えるのが良いでしょう。音域ごとの違いはそこまで激しくはないものの、木管同士あるいは他の楽器群との組み合わせ方が音域によって異なってくるのは事実です。例えばフルートのメロディ一つとっても、それが高いか低いかで伴奏も変わってくるのです。
 これは、木管セクションは大規模な方が作曲も楽であることに通じています。同族楽器が使えるかどうかで、同じ音色を保てる音域の広さがまるで異なってしまうのですから。アルトフルート+フルート+ピッコロによる和音は、同じ和音を2フルート+2オーボエで鳴らすよりもよく溶け合い、バランスの整った音になります。
 あらゆる木管楽器の中で、初心者にとって最も扱いが難しいのはオーボエでしょう。オーボエは自然と「プリマ・ドンナ」の風情を醸し出す楽器で、正しく書かれたメロディを鳴らすには非常に良い音色であるのですが、オーケストラの他の楽器と溶け合わせるのが難しいのです(例外的に、柔らかく奏したミュートトランペットとは非常に良く溶け合います)。

 *印象的で感情豊かなメロディを演奏するためにどの楽器を使うかということは、前章で細かく議論したような楽器ごとの音色を元に考えます。とはいえ、かなりの部分がオーケストレーター個人の趣味に委ねられることになります。ここでは、木管楽器をユニゾンやオクターブ、あるいは3度、6度重複やそれらを組み合わせて使う場合について、少なくとも響きと音色の面からの最適解を示そうと思います。木管楽器をソロで使う例はどんな曲にもありますが、例えば次に示すものが典型例です。

木管楽器ソロの例

  1. ピッコロ: Serbian Fantasia, C; No. 36. Tsar Saltan, 216; Snegourotchka, 54.
  2. フルート: Antar 4; Servilia, 80; Snegourotchka, 79, 183; A Fairy Tale, L; Christmas Eve, 163; No. 37. Scheherazade, 第四楽章 Aの前(低音域のフルート2台).
    フルート(ダブルタンギング): Pan Voyevoda, 72; Scheherazade, 第四楽章 Vの後; No. 38. Ivan the Terrible, 第三幕 10の後.
  3. アルトフルート: No. 39. Legend of Kitesh, 44.
  4. オーボエ: No. 40. Scheherazade, 第二楽章 A; The May Night, 第三幕 Kk; No. 41. Snegourotchka, 50; Snegourotchka, 112, 239; The Tsar’s Bride, 108 (cf. No. 284); No. 42 & No. 43. The Golden Cockerel, 57 & 97.
  5. イングリッシュホルン: Snegourotchka, 97, 283 (cf. No. 26.); No. 44. Spanish Capriccio, E; No. 45. The Golden Cockerel, 61.
  6. 小クラリネット: No. 46. Mlada, 第二幕 33; Mlada, 第三幕 37.
  7. クラリネット: Serbian Fantasia, G; Spanish Capriccio, A; Snegourotchka, 90, 99, 224, 227, 231 (cf. No. 8.); The May Night, 第一幕 Xの前; Scheherazade, 第三楽章D; A Fairy Tale, M; The Tsar’s Bride, 50, 203; The Golden Cockerel, 97 (最低音域。cf. No. 43.).
  8. バスクラリネット: No. 47, No. 48. Snegourochka, 243 & 246-247.
  9. ファゴット: Antar, 59; No. 49. Vera Scheloga, 36; Scheherazade, 第二楽章冒頭 (cf. No. 40.); No. 50. The Golden Cockerel, 249; No. 51. Mlada, 第三楽章 29の前; No. 78.も参照のこと。
  10. コントラファゴット: Legend of Kitesh, 84の前, 289; No. 10.(コントラファゴット+ソロコントラバス)も参照のこと。

 木管楽器を重ねる際、最も自然な響きとなるのは、高い方からフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、の順(フルスコアの配置順と同じ)に配置されている時です。この順から外れてしまうと(ファゴットをクラリネットとオーボエより上にする、フルートをオーボエとクラリネットより下にする、あるいはさらにファゴットよりも下にする、等)いかにも回りくどい不自然な音質になってしまいますが、特殊効果を得たい場合には役に立ちます。ただし、このようなことを好き放題にやるのはお勧めしません。

COMMENT: オーボエをこの「自然な音域順」から除いてしまっても大きな問題はないでしょう。フルート、クラリネット、ファゴットの3つだけで完全な響きを得ることができます。すでに述べた通り、オーボエはうまく使うのが最も難しい楽器なのです。

ユニゾン重複

 二つの木管楽器をユニゾンで重ねると、次のような音質になります。

a) フルート + オーボエ: フルート単体よりも豊かで、オーボエ単体よりも甘い音質。そっと奏する場合、低音域ではフルートが、高音域ではオーボエがよく聴こえてきます。
例: No. 52. Snegourotchka, 113.

b) フルート + クラリネット: フルートよりも豊かで、クラリネットよりも鈍い音質。低音ではフルートが、高音ではクラリネットが目立ちます。
例: No. 53. Legend of Kitesh, 330; 同 339, 342.

c) オーボエ + クラリネット: それぞれの楽器単体よりも豊かな音質。低音域ではオーボエの暗く鼻にかかったような音が勝り、高音域ではクラリネットの明るく”胸声的”な音質が目立ちます。
例: Snegourotchka, 19; No. 54. Snegourotchka, 115; cf. No. 199-201. Legend of Kitesh, 68, 70, 84 (2オーボエ + 3クラリネット).

d) フルート + オーボエ + クラリネット: とても豊かな音質。低音域でフルート、中音域でオーボエ、高音域でクラリネットが目立ちます。
例: Mlada, 第一幕 1; Sadko, 58 (2フルート + 2オーボエ + 小クラリネット).

e) ファゴット + クラリネット: とても豊かな音質。低音域ではクラリネットの暗い音が、高音域ではファゴットの病んだ感じが目立ちます。
例: Mlada, 第二幕 49の後.

f) ファゴット + オーボエ と g) ファゴット + フルート
 これらの組み合わせ、あるいはファゴット + クラリネット + オーボエ、またファゴット + クラリネット + フルートといった組み合わせは、tuttiの場合を除いてほとんど使われません。tuttiの場合、この組み合わせは新たに余計なムードを作り出すことなく響きを増大できます。しかしこの組み合わせは、その音域が事実上第3オクターブに限られます。この音域の低い方の3音ではフルートの低音が目立ち、真ん中の3音ではファゴットの高音が目立ちます。中音域の弱いクラリネットがこの組み合わせで目立つことはありません。

h) ファゴット + クラリネット + オーボエ + フルート
 この組み合わせもf, gと同様に珍しいものです。音色は豊かですが、この音色を言葉で 説明するのは難しいです。各楽器の音は上で説明した組み合わせの場合よりもある程度分離して聞こえます。
例: Russian Easter Festival, 冒頭; No. 55. Snegourotchka, 301; The May Night, 第三幕 Qqq

 二つ以上の音色をユニゾンで重ねると、響きをより豊かにしたり、あるいは甘くしたり力強くしたりすることができますが、その反面で音色と表現の幅が狭まってしまうという難点があります。個々の楽器の特徴が、他と組み合わさることで失われてしまうのです。このため、重複というのは極めて注意深く扱わなければなりません。表現の多様性のみを必要とするフレーズやメロディは、音色の単純なソロ楽器に割り当てるべきです。このような重複によるリスクは、同じ楽器二つの重複の場合でも同様です。2フルート、2オーボエ、2クラリネット、2ファゴットなど、どれももちろん楽器の音色を全く変えることなく力強い音を得ることができますが、表現の幅は重複によって狭まってしまいます。重複している場合よりもソロの場合の方が、楽器は自由に歌うことができます。重複や混合音色は柔らかいパッセージよりも力強いパッセージ、またソロのような個々の音色が必要なく大さっぱな表現や音色で良いようなパッセージで多く用いられます。

COMMENT: メロディを同じ楽器でユニゾン重複する、つまり例えば2台のフルートで同じメロディを吹くというのは音色としてはなんら新しい混合音色を生むものではなく、むしろ調律が狂っているように聴こえやすくなります(弦楽セクションは大勢が同じものを演奏するのでいわゆる「コーラス効果」がかかりますが、2台ではコーラス効果には不十分です)。音量もそれほど増加するわけではなく、ソロのような深い歌心は得られなくなってしまいます。このような重複の過剰使用は初心者によくみられますが、避けるべきものです。ただし、これは同じ楽器2つ「だけ」を使う場合についてです。例えばヴァイオリンセクションに2台のフルートを重ねるというような重複は非常に良く用いられるものです。この場合、フルートの音色そのものはそれほど重要ではなく、ヴァイオリンの音色を和らげるということに意味があるのです。
 同じ楽器3つ以上、つまり例えばクラリネット4台などのユニゾンは、粗野で武骨な雰囲気を作りたい場合には役立つこともあります。これは吹奏楽ではかなり使われる手法です。

注:コンサートホールの規模が拡大しつつある現状において、「弦楽器とバランスをとるため」というだけの理由で全木管楽器を重複させるのを私がどれほど嫌いか、ここで述べておかなければなりません。芸術的な観点から言って、私はコンサートホールにもオーケストラにもその大きさに制限を設けるべきであると信じています。これを逸脱するような大規模なコンサートのための音楽は、その為に特別に作曲されるべきです。本書ではこのような場合を考えません。

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