訳注:この章から、金管楽器の略称が多く現れます。木管楽器に比べて初学者の誤解を生みやすいと思われますので、ここにまとめておきます。

略称 複数形
ホルン French Horn Chorno Corno Corni
トランペット Trumpet Tromba Tr-ba Tr-be (Trombe)
トロンボーン Trombone Trombone Tr-bn Tr-bni (Tromboni)
チューバ Tuba Tuba Tuba Tuba

COMMENT: 前章まではメロディについての議論、つまり前景についての議論でした。この章で扱う内容は、主に2つの点で前章までとは異なっています。つまり、まず和声は背景であるということ、そしてメロディではなく「和音」を扱うということです。言い換えれば、この章になって初めて複数の声部が同時に鳴っている音楽をオーケストレーションするということです。ここで重要となるのは、音色の溶け合いとバランスです。溶け合いが悪ければ和声が一つのまとまりとして聴こえてきませんし、バランスが悪ければどこかの声部が無意味に目立ってしまいます。

概論

 オーケストラの和声というものは、まず一つ一つの和音がバランスの取れた美しい配置になっていなければなりません。そして良い響きを得るためには、これに加えて各声部の進行が正しいこと、つまり濁りや禁則進行がないことも不可欠です。声部進行に誤りがある限り、完璧な響きを作り出すことはできません。

COMMENT: 言い尽くされてきたことですが、書いておきましょう。和声をきちんと習得していなければ、自信をもってオーケストレーションすることはできません。和声の習得は連続する和音を均等に書くことから始まるからです。和声の規則は元々は歌のために作り上げられてきたものですが、楽器の場合にも全く同じようにあてはまります。楽器の場合は楽器特有の手法がありますが、いずれにせよ基本原則が変わることはありません。

注:人々の中には、オーケストレーションというものを単に楽器や音色の選択の問題であると考えている人がいるようです。そのような人たちはあるスコアが今一つよく響かない時、その原因の全てを単に楽器の選択を誤ったためであると考えるようですが、これは誤りです。うまく響かないことの原因が各声部の扱い方の悪さにあるということが往々にしてあるのです。このような場合、どんな楽器を選択したとしても響きが改善することはありません。また同じように、一つ一つの和音のバランスや各声部の進行が適切な場合、そのパッセージは弦であれ木管であれ金管であれ同じようによく響きます。

 オーケストレーションにあたって、作曲家はラフスケッチの段階から明確な和声構造を意識しておかなければなりません。もしラフの段階で和声進行や声部数が曖昧なのであれば、直ちに曖昧な個所をなくさなければなりません。この作業は、曲の構成や要素を自分の中で明確にしたり、また自分が使おうとしているテーマやフレーズの正確な形やそこからくる制限をわかりやすくしたりするという意味においても重要なことです。和声進行に関わる声部数を変える、つまり4声を3声にしたり5声からユニゾンにしたりするのは、新しいテーマやフレーズを導入するタイミングに合わせなければなりません。これを破ってしまうと、思いもよらない難しい問題に出くわすことでしょう。例えば、4声で書かれたパッセージで途中から5声部に変えたりすると当然この第5声部のために楽器を追加しなければなりませんが、和音の響きというのはこのような安易な楽器の追加によって簡単に汚されてしまうのです。また、楽器を追加したことによって不協和音の解決や各声部の正しい進行が不可能になってしまうこともあります。

声部数について:重複(Duplication)

 ほとんどの場合、和声は4声で書かれます。「4声」というのは単にある和音やその進行が4パートで書かれているということだけでなく、根本的に和声を構成している要素が4声部に分類できるという場合も含まれます。一見すると5から8パートからなるような和声でも、普通は4声の和声が追加声部を伴っただけのものになっています。そしてこのような追加声部というのは、上三声のどれか一つあるいは複数を1オクターブ上でコピーしたものに過ぎません。バス声部もこのようなコピーが可能ですが、バスだけは下オクターブでの重複になります。それでは例を示しましょう。

COMMENT: 基本は四声としながら、より複雑な声部が足されている場合もあります。ただしその場合でも、RKが言うようにこれら追加声部は副次的な要素にすぎません。またあとで改めて説明します。

注:解離配置でオクターブ重複できるのはソプラノ声部とアルト声部のみです。これはテナー声部のオクターブ重複では密集配置が作られてしまうということと、バス声部の重複では響きが重たくなってしまうという理由によります。また次の例のように、例えバスを一オクターブ下で重複していたとしても本来のバス声部が上三声と混ざる音域にあるのは良くありません。

COMMENT: これは忘れられがちですが、重要なポイントです。バス声部を一オクターブ下(二オクターブ以上になることは稀)で重複していたとしても、その上側がその他の声部と交叉してしまうとバスの進行が不明瞭になってしまいます。

 バスと上声部の距離によっては、上三声の重複は部分的なものになるでしょう。

注:正しい重複の結果ユニゾンが生まれてしまうのは問題ありません。この場合確かに完全に均一な音色は得られませんが、各声部が正しい進行をしている限り違和感は生じません。

 上声部を囲う形になる連続オクターブは許されません。

 和音が第一転回形で進行している時、上三声を重複することで生じる連続五度は問題ありません。

COMMENT: RKがここで言っているのはそれぞれが独立した「本物の」声部に対してであって、重複によって増やされた声部のことではありません。

 属和音の転回形では、バスは上三声で重複できません。

COMMENT: ここまで言い切ってしまうと行き過ぎなように思えます。この規則の背景にあるのは、要するに取り扱いのデリケートな声部の重複には気を付けなければならない、ということです。このような重複は和声進行がぎこちなくなったり瞬間的なアクセントがついてしまったりする原因になりかねないと覚えておきましょう。

 この制限は7や減7の和音にも当てはまります。

 持続音やペダルポイントに関する和声法の規則はオーケストラを書く場合にもそのまま適用されます。刺繍音、経過音、逸音については、基本形を演奏する楽器と音色が異なり、かつそれが素早いパッセージの場合にはかなりの自由が許されています。

COMMENT: 音色が異なっている場合の自由度はかなり高くなります。

 次に示すように、あるフレーズとその基本形あるいは単純形といえるフレーズは同時に鳴らすことができます。

COMMENT: チェロのパッセージが素早く快活に動いている場合、重複するバス声部をこのように単純化することで演奏を容易にする例が多いです。

 オーケストラでは音色が豊富なため、上声及び内声におけるペダルノートはピアノ音楽や室内楽の場合よりも効果的です。

COMMENT: 音色の豊富さだけでなく、音がきちんと持続するというのも重要なポイントです。

 以上の方法論については、本書の第二巻(訳注:IMSLPのサイトに移動)に多くの例があります。

和音構成音の配置

 まず、自然倍音列と呼ばれる自然な音の並びは下図の通りです。

この倍音列は、和音をオーケストラでどのように鳴らすかを考えるための一つの指針になります。自然倍音列から類推されるように、低音側では音と音の間隔が広く、高音に行くにつれてこの感覚が狭くなっていくというのが自然な音の並びになります。

 バスとテナーの間は1オクターブ以内に収めましょう。また、上声部で倍音列が欠けることのないように十分注意が必要です。

COMMENT: これは、音色をよく溶け合わせるためです。間隔が空きすぎていると、距離感が異なって聴こえてしまいます。

 ただしトップノートに対する6度やオクターブ重複が効果的であることもあります。

 また、各声部が正しく進行した結果として上声の最高音と最低音の間隔が開いてしまうのは問題ありません。

 このような場合に楽器を追加してこの2つめの和音の隙間を埋めてしまうというのは、むしろ逆効果になります。

 以上からわかる通り、和声進行においては内声部をどのように埋めるかというのが最も重要な問題となるわけです。最も悪いのは、フォルテのパッセージで上声と低声部の間隔を広く取り過ぎて空虚な和音を作ることです(弱奏のパッセージではそういう配置も一応可能でしょう)。というわけで、反行進行によって上声と低声の間隔が徐々に開いていく場合、間の音域を埋めるための声部が徐々に増えていくことになります。

COMMENT: ピアノ曲をオーケストレーションする際にはこのことによく気を付けましょう。ピアノ曲では右手声部(上三声)と左手声部(バス)がオクターブ以上離れていることが非常に多いです。

 同様に、上声部と低声部の間隔が狭まっていく場合、中音域を埋めている声部が一つずつ減っていきます。

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