2. 金管楽器

 木管楽器の場合と同じように、金管楽器群の編成は毎回同じでなく、曲によって異なります。木管楽器の二管、三管、四管編成に対応して、金管楽器の編成も3つに大分類されます。

二管編成 三管編成 四管編成
2 トランペット I, II. 3 トランペット I, II, III. (II-小トランペット)
  (III-アルトトランペット) 3 トランペット I, II, III.
  または (III-アルトトランペット
  2 コルネット I, II. またはバストランペット)
  2 トランペット I, II.  
     
4 ホルン I, II, III, IV. 4 ホルン I, II, III, IV. 6または8 ホルン I~VIII.
     
3 トロンボーン 3 トロンボーン I, II, III. 3 トロンボーン I, II, III.
     
1 チューバ 1または2 チューバ[注3] 1 チューバ

 表における記号の意味は木管の表と同じです。どの編成も、これをもとに作曲家の好みによって変わり得ます。劇場やコンサートルームのための音楽では、トランペットやトロンボーン、チューバがほとんど使われないか、使うとしてもエキストラとして扱われることがあります。上の表は典型的な例であり、実際に今日の最も一般的な編成になります。

注1: 上に挙げた楽器のほかにも、ワーグナーは「The Ring」でいくつもの楽器を取り入れました。特に目立つのは、テナーチューバとバスチューバのカルテットや、コントラバストロンボーンです。このような楽器の追加は他の楽器群を押しつぶすことがありますし、そうでなくともその他の金管楽器の効果を弱めてしまいます。このため、作曲家たちはこのような追加楽器の使用を控えてきましたし、ワーグナー自身も「Parsifal」では楽器の追加を行っていません。一方で最近の作曲家(リヒャルト・シュトラウス、スクリャービン)はトランペットを5台に増やしています。

注2: 19世紀の中ごろから自然金管楽器はオーケストラから消え、バルブ楽器に取って代わられました。ただし私の2つ目のオペラ「The May Night」ではいくつかの調性の自然ホルンと自然トランペットが使われており、ストップ奏法で最適な音高となるようになっています。ただしこれは自身の練習のためにわざわざやってみたに過ぎません。

注3: 三管編成における2チューバは編集者による追記。例としては後年のGlazounovによる「Finnish Fantasia」など。

COMMENT:ワーグナーチューバ: ワーグナーチューバの真の意義は、Toveyが次のように指摘しています。ワーグナーは金管を、ホルン、トランペット+トロンボーン、チューバという3つのサブセクションから成り立っているものというような扱い方をしており、ワーグナーチューバはこの3つのサブセクションのそれぞれを完璧に均質な音色にするのに役立つ、というものです。後でRKも述べている通り、ホルンは木管と重い金管の橋渡しに使われることがあり、音域をきちんと考えてあればこれらをよく溶け合わせることができます。

 金管楽器は木管楽器よりもはるかに柔軟性に劣っていますが、金管はそのパワフルな響きで他の楽器群の効果を高めてくれます。金管楽器同士の音の強さを比べると、トランペット、トロンボーン、チューバはおおむね同じ、コルネットは近いですが完全に同じとまでは行きません。ホルンはフォルテではこれらの大体半分くらい、ピアノでは他の金管楽器がそっと吹いた時と同じくらいになります。したがってバランスの取れた響きを得るためには、ホルンの強弱記号は他の金管楽器群よりも一段階強く指定するべきです。例えばトランペットとトロンボーンがppのときにホルンはpという風に。フォルテの場合は、最適なバランスを得るために、一台のトランペットやトロンボーンに対して2台のホルンが必要になります。

 金管楽器はその音域や音色がかなり似通っていますので、木管楽器のように声区の議論は必要ありません。基本的には、高い音になるほど輝くような音質になりますし、低くなればその輝きが減少しながら音量も小さくなります。ppでは響きは甘くなり、ffでは堅くてパチパチときしんだような音色になります。金管楽器は音量をピアニッシモからフォルテッシモに増大させたり、その逆をやったりということがとても得意で、sf > pの効果は素晴らしいものがあります。

 音色の特徴や音質について、次の事柄を付け加えることができるでしょう。

(a1) トランペット(B♭―A): 明るくよく通る音色で、フォルテでは熱のこもった音になります。ピアノの場合、高音では豊かで澄んだ音、低音では危険を感じるような荒れた音となります。
(a2) アルトトランペット(F): 私が開発した楽器で、初めて使ったのはオペラ-バレエ「Mlada」。低音域(トランペットの第2及び第3倍音の音域。音域表参照)では、より豊かで明るい、いい音を出します。普通のトランペット2台に1台のアルトトランペットを合わせると、普通のトランペットを3台用いるよりも滑らかで揃った響きが得られます。Mladaでその美しさと利便性に満足したものですから、その後も定期的に使っています。その場合、木管は三管編成です。

注:普通の劇場やコンサートルームの一部でアルトトランペットを使うのが難しい場合に備えて、私は低い方の4音とその隣の半音は使わないようにしています。これによって、アルトトランペットのパートをB♭とかAの(普通の)トランペットで演奏することができるようになります。

(a3) 小トランペット(E♭―D): これも私が開発した楽器で、やはり「Mlada」において超高音を楽に出すために初登場しました。音質と音域はミリタリーバンドのソプラノコルネットに似ています。

(b) コルネット(B♭―A): 音質はトランペットに似ていますが、より柔らかで弱い音になります。最近は劇場やコンサートルームで見かけることは少ないですが、美しい楽器です。熟練した奏者はトランペットでコルネットのような音を出すことやその逆ができます。

(c) ホルン(F): 音質は柔らかく詩的で、美しさにあふれています。低音域では暗くて派手、中音域以上では丸くて豊かな音です。中音域の音質はファゴットの中音域に似ていて、これらはよく溶け合います。このため、ホルンは金管と木管の橋渡しとしての役割を果たします。バルブシステムがあるにもかかわらずホルンは運動性が悪く、けだるくのんびりしたような演奏に聴こえます。

COMMENT:ホルン: オーケストレーション初心者がホルンを使うときに最もよく陥るミスとして、ホルンをバス楽器として扱ってしまうということが挙げられます。ホルンはテナーからアルトの音域にあたる楽器です。ホルンをバスに使えるのは、動きの遅い時や動きのないペダルトーンの時のみです(このような場合には、ファゴットを最低音域で使うよりも柔らかい音を出すことができるという点で、ホルンのほうが優れているでしょう)。

(d) トロンボーン: 低音域では暗く荒れた音、高音域では輝かしく勝ち誇ったような音です。ピアノでは豊かですが幾分重く、フォルテでは力強く堂々とした音になります。バルブトロンボーンはスライドトロンボーンよりも運動性が良いですが、それでも圧倒的にスライドトロンボーンが好まれます。これはスライド式の方が音色も良く均質であるということが一つと、何よりトロンボーンの音色に素早いパッセージを担当させることが稀であるためです。

(e) チューバ:厚く、ざらざらした音で、トロンボーンよりも特徴に欠けます。しかし低音での強さと美しさに優れています。コントラバスやコントラファゴットと同じように、チューバは自身のセクション(金管)のバスパートをオクターブ下で重ねるのに極めて便利です。バルブがあるので、柔軟性はかなり高いです。

 金管楽器群は、その響きがセクション全体で均一で、木管楽器とは異なり感情をこめて歌うことに長けているわけではありません。とはいえ、最大表現音域は各楽器の中音域に見て取れます。ただし木管におけるピッコロやコントラファゴットと同じように、両端の音域にあたる小トランペットとチューバには最大表現音域を考えません。シングルタンギングによる素早くリズミカルな同音連打はどの金管楽器でも可能ですが、ダブルタンギングはマウスピースの小さい楽器、つまりトランペットとコルネットでのみ可能です。この二つは素早いトレモロも容易にこなせます。木管楽器の場合と同様に、息継ぎには注意しましょう。

 金管楽器の音色は、ストップやミュートによって変えられます。ストップはトランペット、コルネット、ホルンでのみ可能です(トロンボーンやチューバでは、形状的に手をベルに入れられません)。ミュートはオーケストラで使用する全ての金管に装着可能ですが、チューバをミュートすることはほとんどありません。ストップとミュートの音色は似ていますが、トランペットではミュートの方がストップより良い音になります。

 ホルンではストップとミュートのどちらも可能ですが、単音や短いフレーズならストップ、長いフレーズならミュートを使用します。この二つの違いについては、私からこれ以上詳しく説明することは避け、読者の皆様自身の手で知識を蓄えるとともに、その経験に基づいた個々人の見解が生まれる余地を残そうと思います。とりあえず、どちらの方法でも音の輝きが減り、フォルテではきしんだような音に、ピアノでは柔らかくぼんやりした音になることだけ押さえておきましょう。また、響きは相当小さくなって、もともとの澄んだ音色からオーボエやイングリッシュホルンに似た音色に変化します。楽譜としては、ストップ音(con sordino)は音符の下に+記号を付して指定します。元に戻す(senza sordini)ときに○を付すこともあります。ミュートされた金管楽器は距離感を演出することができます。

COMMENT:金管のミュート: 金管はミュートをつけると音色がかなり変化します。従ってミュートした金管は新しくそういう音色の楽器が追加されたかのように扱うのが良いでしょう。

 金管の音域は次の通りです。

自然倍音は白玉で表記し、第何倍音かを付記しました。上側の線は最大表現音域を表します。

*どの楽器でも第七倍音は使い物にならないので省いています。
**トロンボーンにこのオクターブのシ(♮)はありません。

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