各声部の取り扱い -和声の構成要素としての声部-

和声骨格の装飾

 まず、メロディが和声外音(非和声音)や装飾音を含んでおり、その外音がある程度の長さを持っているとき、このメロディをその基本形(非和声音や装飾音を含まない形)で重複するのはよくありません。

 ただしこの例においても上に記した声部(メロディ声部)を一オクターブ下げたとすれば、音のぶつかりが回避され不協和音であるとは感じにくくなります。オクターブ下げたとしても速度の遅いパッセージでは不協和音であると感じやすく、素早いパッセージであればあるほど音のぶつかりは気にならなくなります。

COMMENT: 一般則として、不協和な2和音が音域的に離れれば離れるほど、不協和音の鋭さは薄れます。また音域が近い場合、ある音色では他の楽器の場合よりはるかに尖った音に聴こえるということがあります。例えば、トランペット2台による短二度は弦楽器の場合より耳障りになります。

とはいえ、どれくらいの長さまでが許されるのか、という厳密な規則を定めることはできません。確かなことは、和声音(つまり今回なら第三音のE)は近接する非和声音よりも目立って聞こえるということくらいです。また声部がさらに増えた場合、つまり例えばメロディを3度や6度で重複しているような場合、元の和声進行に対して根音の異なる和音をさらに足していることになるので、不協和音の問題はより複雑になります。

 さて、以上のことは確かに問題ですが、オーケストラの場合には非常に良い解決策があります。そう、音色の多様性の活用です。和声骨格を演奏する楽器とメロディを演奏する楽器の音色に違いがあればあるほど、非和声音が不協和音としてぶつからなくなります。この効果がみられる最も良い例として、歌声とオーケストラの組み合わせが挙げられます。また、弦、木管、撥弦、打楽器、のペアも良好です。一方、木管と金管の音色差はこのようなぶつかりを回避するのには不十分です。したがって木管と金管によるペアの場合には和声骨格の方をメロディと一オクターブずらすのが普通で、また音量としてもメロディよりも控えめにします。

和音による和声骨格の例

No. 264. Pan Voyevoda, 序奏.

Legend of Kitesh, 序奏. (No. 125及びNo. 140も参照のこと)

*Mlada, 第三幕, 10.


和声骨格が装飾的な動きを伴うこともあります。この場合、同時に鳴っているメロディの動きに縛られず、自由に動いたほうがよいでしょう。

*No. 265-266. Tsar Saltan, 103-104, 128, 149, 162-165 (下記も参照).


 単純で動きのない和声骨格、例えば主和音や減7の和音骨格に対して、全くキャラクターの異なる和音を被せることもあります。

No. 267. Legend of Kitesh, 326-328: 弦による骨格の上に木管とハープ.

No. 268-269. Kashtchei the Immortal, 33, 43.

No. 270. Mlada, 第二幕, 17の前, 18, 20.

No. 271. The Golden Cockerel, 125: 増五度のアルペジオによる骨格の上に、減7の和音.


 二種類のメロディがほとんど重なって鳴っているような場合、つまり二種類のメロディが休符を挟んで切り替わる瞬間や、片方が小さくなりながらもう片方が大きくなっていくようなフレーズでは、必然的に伴奏の方も異なる和音を同時に鳴らすことになるため、原理的に不協和音が生じることになります。しかし、メロディの切り替えに合わせて伴奏の音色も同時に変えることで、聴感上はこの不協和音が気にならなくなります。

COMMENT: これはつまり、音の距離感が和声の聴こえ方に影響を与えるということです。

Legend of Kitesh, 34, 36, 297. (No. 34及びNo. 231も参照のこと).

No. 272-274. Tsar Saltan, 104, 162-165. (147-148も参照のこと).

*Russian Easter Fete, Vの前.


 「不協和音や非和声音のうち、何が許容され何が良くないのか」という問いに答えを出すのは、作曲において最も難しい問題の一つであると言えるでしょう。もっと細かく、どのくらいの時間なら許されるのか、となるともう決まった答えはまったく得られていません。この時、もし芸術的な感覚に全く耳を貸すことなく、音色が異なってさえいればいくら音がぶつかってもいいなどと考えてしまえば、出来上がるのは耳障りな不協和音だらけの曲になってしまうでしょう。最近のいわゆるポスト-ワーグナー派 (post-Wagnerian) はこのような不協和音を積極的に使用する方向で新しい音楽を模索していますが、あのやり方には疑問を抱かざるを得ません。あのような音楽は聴いていて不快なだけでなく音楽的な感性をも殺してしまい、ひいては「単独で聴いて心地よいものなら、それを2つ組み合わせたとしても必ず良いものになる」という不自然な結論を招いてしまいます。

人為的な装飾効果

 あえて「人為的」と呼ぶのは、オーケストレーションの手法の中でもある種の聴覚上の欠点や錯覚を利用した効果です。ただし既に確立された効果をここに列挙するつもりはありませんし、また今後出てきそうな効果を予測するつもりもありませんので、ここではせいぜいこれまでのついでとして、私がこれまで使ってきたものをいくつか紹介するに留めようと思います。例えばハープによるグリッサンドやアルペジオがこれに該当します。これらでは同時に鳴っている他の楽器とは異なる音、つまりぶつかるはずの音も出してしまいますが、グリッサンドは短く終わらせるよりも長い方が派手でよく響くので、他と異なる音も出していることを承知の上で、長いグリッサンドを好んで使用します。

Snegourotchka, 325. (No. 95も参照のこと).

No. 275. Pan Voyevoda, 128.

*Scheherazade, 第三楽章, Mの5小節目. (No. 209も参照のこと).

*Russian Easter Fete, D. (No. 248も参照のこと).

注: No. 276として、弦楽器による異名同音的なグリッサンドというのも付け足しておきます。

*No. 276. Christmas Eve, 180の13小節目: チェロによるグリッサンド.

リズムの強調や色彩感を増すための打楽器の使用

 オーケストラの一部がリズミックなフレーズを演奏しているのであれば、そこには必ず打楽器も加えてやるべきでしょう。ちょっとした細かいリズムであれば、トライアングル、タンバリン、カスタネット、小太鼓が適していますし、強烈でシンプルなリズムであれば、大太鼓、シンバル、ゴングが適したものになるでしょう。これら強い打楽器の打点は、必ず1. 強拍、2. (シンコペーションであれば)アクセントの強い部分、3. (飛び飛びの)sfz、のどれかに重ねるようにします。トライアングル、タンバリン、小太鼓は様々なリズムを打つことができます。また、他の楽器群とは無関係に打楽器が自由にリズムを打つこともあります。

 音色の色彩感という意味では、打楽器と最も相性がいいのは金管と木管になります。

COMMENT: リズミカルなパッセージでは、アタックのはっきりした金管(特にトランペットとトロンボーン)が候補に挙がってきます。弦のpizzicatoも非常によいリズム楽器と言えます。一方、打楽器(ヴィブラフォンやベル等)を弦と合わせて色彩感を高めるというのも、今日では非常に一般的です。

トライアングル、タンバリン、小太鼓は高音域と相性が良く、シンバル、大太鼓、ゴングは低音域と良く交ざり合います。

COMMENT: つまり、打楽器の音域はその音楽の音域に合わせるべきだということです。高音楽器を低音打楽器と合わせたり、その逆をやったりすると、変わった音になってしまいます。ただし、それがコントラストを得るために意図したものであれば、こうした組み合わせも問題ありません。

最も良く用いられる組み合わせとして、1. 木管とヴァイオリンによるトリルにトライアングルとタンバリンのトレモロを重ねる、2. トランペットとホルンが和音を伸ばしているところに小太鼓かシンバル(バチで打つ)のトレモロを重ねる、3. トロンボーンによる和音かチェロとコントラバスによる低音を伸ばしているところに大太鼓かゴングのトレモロを重ねる、というものが挙げられます。また、大太鼓、シンバル、ゴング、トレモロの小太鼓は、ffで演奏するとオーケストラのtuttiすら凌駕してしまうということを覚えておきましょう。

COMMENT: トランペットとティンパニの組み合わせも古くから用いられています。

*打楽器の作例は、総譜や本書第二巻から簡単に見つかると思います。

*Scheherazade, pp. 107-119, 及び第四楽章の多くのパッセージ.

*Antar, 40, 43. (No. 29, No. 73も参照のこと)

*Spanish capriccio, P (No. 64も参照のこと): 第四楽章にあるカデンツも参照のこと. ここでは多くの打楽器が参
加しており、学習の価値がある。

*Russian Easter Fete, K. (No. 217も参照のこと)

*The Tsar’s Bride, 140.

*Legend of Kitesh, 196-197: 「ケルジェネツの戦い」(“The Battle of Kerjemetz”)

*Pan Voyevoda, 7172.

音色の節約:各音色の使用頻度

 オーケストラの全ての楽器を長時間鳴らし続けるのは、音楽的な意味でも耳への疲労という意味でもよくありません。最も長く聴いていられるのは弦楽器で、次いで木管、金管、ティンパニ、ハープ、pizzicato、そして打楽器、の順に続きます。さらに打楽器の中でも、トライアングルが最も長時間聴いていられ、次いでシンバル、大太鼓、小太鼓、タンバリン、ゴング、の順となります。また、チェレスタ、グロッケン、シロフォンはより短い時間しか使えないと覚えておきましょう。これらはメロディを演奏できる楽器ではありますが、何度も何度も使われるには音色が特徴的すぎます。ピアノとカスタネットもやはりそう何度も使うべきではありません。本書では民族楽器(ギター、ドムラ、ツィター、マンドリン、オリエンタルタンバリン、小タンバリン等)については触れていませんが、これらがオーケストラに組み込まれることもあり、民族音楽的な美しさを求める時に時々使用します。

 オーケストラの楽器は、上に記した順で使用頻度が高くなります。しばらく休んでいた楽器が改めて入ってくるとその音色は際立って聴こえ、音楽に新鮮な風を送ることができるでしょう。トランペット、トロンボーン、チューバは時折非常に長い休止(tacet)を与えられることがあります。打楽器は時々しか使わないもので、全打楽器が同時に使われることは事実上皆無と言えます。同時に使うのはせいぜい1つから3つでしょう。ただし民族舞踊や民族音楽の場合には打楽器をもっと自由に使うことがあります。

 ホルン、トロンボーン、チューバが長い休みから復帰する際には、音量にインパクトを持たせなければなりません。これはppかffでなくてはだめで、単なるpやfでは効果が薄れてしまいます(ただし色彩感のない単調な演出を狙ってmpやmfを使うことはあります)。この考え方はもっと応用がきいて、mfやmpで曲を始めたり終わらせたりするのは良くありません。本書の作例の範囲では一曲を通した各音色の使用頻度まで示すことはできませんし、長い休みの後で復帰することでその楽器が目立ったりすることも例として紹介できません。ですので、これらについてフルスコアを検証することを忘れてはなりません。

COMMENT: ここで述べられているアドバイスは単純ですが、最も役に立つアドバイスの一つです。音色の新鮮さは、エキゾチックな色彩感などよりもよほど大切です。例えオーボエ一台にしても、数分間使わずにいたならば非常に効果的に聴こえてきます。これはひとえに、オーボエの音色が新鮮だからです。
 また、ここでは作曲に関してもう一つ重要なことが述べられています。つまり、どのような効果が得たいのかを明確にしなければならない、ということです。適当に作られた曲など、なまぬるい音になるだけです。

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