概論
木管楽器による和声について考える前に、この章の始めに書いた基本原則をもう一度確認しておきましょう。
和声というものは、それが単純なものであれ装飾に溢れたものであれ、また対位法的に複雑に書かれたものであれ、常に全体を通してバランスの取れた響きを維持しなければなりません。具体的には以下のようにします。
COMMENT: RKが“バランスの取れた響き”と言っているのは、和音の溶け合いを意味しています。木管の場合は音色が一つ一つ異なるため、和音を溶け合わせて一体化するためには耳を「だます」必要があります。これは、特に小規模なオーケストラでは難しくなります。各楽器が二つしかなければ、同じ楽器だけで三和音すら鳴らすことができないからです。
1. 和声に参加する楽器は、常にそのパッセージの各声部を平等に演奏する。つまり、重複させるならどの声部も等しく重複させ、重複しないならどの声部も重複させない。ただし和声のうちの一声部を突出させたい場合は構わない。
COMMENT: これは、声部数を変えるとそこに注目が集まってしまうためです。
2. 各楽器の音域順に従う。ただし後で述べる交叉と囲い込みは問題ない。
3. 音色の特殊効果を狙うのでない限り、それぞれの楽器にとっての高音域同士や中音域同士のように、対応する音域を一致させて組み合わせる。隣接した音域でも可。
避けるべき(第二フルートは弱すぎ、オーボエは鋭すぎる)
COMMENT: 以前に述べた通り、一つの木管楽器には3つの楽器(低音、中音、高音)が備わっていると思って扱うのは非常に役に立つ考え方です。各音域の境界はそこまではっきりしているわけではありませんが、音域によって扱い方が異なるのは事実です。例えば高音域のフルートとオーボエは良く溶け合いますが、低音域のフルートとオーボエではうまくいきません。
4. 協和音(オクターブ、三度、六度)は同じ楽器(あるいは同族楽器)に割り当て、不協和音(五度、四度、二度、七度)は別の楽器に演奏させる(ただし不協和音を目立たせたい場合は別)。この規則は特に良く通る音域でオーボエを使う時に注意しなければならない。
4声および3声の和声
木管での和声の書き方に関しては、(a) 二管編成(2 Fl., 2 Ob., 2 Cl., 2Fag.)と (b) 三管編成 (3 Fl, 2 Ob., Eng. horn, 3 Cl., 2 Fag., C-fag.)のそれぞれの場合で別々に考えなければなりません。
A. 二管編成
1. 堆積法、2. 交叉法、3. 囲い込み法、の3つの重ね合わせがあります。堆積法では楽器の音域順が完全に守られているのに対し、交叉法と囲い込み法ではこれが少し乱れます。
COMMENT: 重ね合わせ以外の2つの手法は、耳を誤魔化して音を一体化するためのアレンジであるといえます。例えばもしオーボエが単にクラリネットの上に置かれていたとしたら、抱え込みや交叉に比べてそれぞれ別の音色として聴き取りやすくなるでしょう。
これら三つのうちのどれにするか考える際は、次の事柄に必ず注意を払いましょう。
a) まずある一つの和音については、その音域に注意します。つまりその和音の音域で柔らかく弱い音しかでない楽器を、強くてよく通る楽器と組み合わせるのはよくありません。
COMMENT: くりかえしになりますが、木管は音域ごとに異なる楽器が一台に収まっていると考えましょう。
b) 次に単一の和音だけでなく、一連の和声進行における各声部の進行にも注意しなければなりません。共通音を保持する声部をある一つの楽器に、動きを出す声部を別の楽器に割り当てるべきです。
COMMENT: というのは、その他の要素が同じなら聴き手は無意識に動きのある声部を追いかけるからです。
和音が4声の解離配置で書かれている場合、楽器の音域に従って堆積法で書くことになるでしょう。
COMMENT: こう書いてはありますが、木管による解離配置の和音が均質な音色として聴こえてくることはまずないといって良いでしょう。木管は、密集配置で書くのが基本です。
ある音色を解離配置で囲い込みたい場合は、上下でそれぞれ異なる音色を使う必要があります。
解離配置では、4声にそれぞれ異なる楽器を割り当てることも可能です。この場合、音色の面で均一にはなりませんが、問題ありません。さらにこの時、異なる音色で書かれた和音の音域が高くなればなるほど、音同士の解離が気にならなくなります。
COMMENT: 高音域、特に譜面にして第三線以上の音域では、フルート、オーボエ、クラリネットは自由に混ぜ合わせることができます。このような高音域では非常によく音が溶け合います。ただし、オーボエとクラリネットの最高音域(おおよそレより上、あるいは譜面にして上加線を2本必要とするあたりより上)は甲高くなりすぎますので避けましょう。
一方、密集配置では4声を全て別々の楽器に割り当てるのは避けるべきです。密集配置では、ある楽器の担当音がその楽器にとって高音域であるのに、別の楽器の担当音は(その楽器にとって)低音域になってしまうなど、各楽器にとっての音域の関係がかみ合わなくなります。
COMMENT: 初心者が最も良く陥るミス
注:オペラ「Mozart and Salieri」は唯一 1 Fl., 1 Ob., 1 Cl., 1 Fag.という編成で書かれていますが、この編成で木管の4声を成すためには上図のようにこれら4つの(異なる)音色を組み合わせるほかありません。
3声の場合でも同じ規則があてはまります。3声というのは、和声の根幹を木管で作っておいて低音部を他の楽器(例えば弦楽器のarcoやpizz.など)に任せるというような場合に最もよく使われてきたものです。木管で3声を作る場合、通常は同じ(あるいは同族)楽器2台に別の楽器を1台組み合わせるようにします。3声部全て別々の音色を割り当てることはありません。また、3声では堆積法が最も良い結果を生みます。
交叉法と囲い込み法(3声ではどちらも同じものですが)を使う時は、各声部を必ず正しく進行させる必要があります。
B. 三管編成
言うまでもないですが、3声の密集配置の場合は、同じ(あるいは同族)楽器を3つ組み合わせれば必ず良い響きとなります。
というわけで密集配置の4声の場合は堆積法が最も良く、同じ楽器3台に別の楽器1台を組み合わせて作ります。交叉法、囲い込み法も可能でしょう。音色の対応関係、また離れた声部の進行に常に注意を払いましょう。
一方、同じ楽器で解離配置の3声を鳴らすのはよくありません。
しかし、低音域側に拡張された同族楽器(Bass Fl., Eng. horn, Bass Cl., C-fag.)を最低音に置く場合には、解離配置の3声でもよい響きが得られます。
COMMENT: 繰り返しになりますが、基本的に木管は解離配置では良い響きとなりません。
そこで、解離配置でも4声の場合は同じ音色(同族楽器も含む)で3声を奏で、残り一つを別の楽器で演奏します。