概論
自然倍音列、つまりバルブ機構の発明以前から金管楽器が自由に使えた音ですが、これは以下の通りになります。
そしてこれを使うと、次の二声の和声を書くことができます。
ここにリズムが加わることで、ファンファーレ、トランペット・コール、フローリッシュと呼ばれるフレーズやテーマが生まれてきました。このようなフレーズは金管楽器の音色に最も適しています。
COMMENT: 現在でさえ、金管がいくつかの音だけを用いてリズミックな演奏をする場合、金管は常に活気づいて聴こえます。このようなフレーズはよく打楽器がリズムを重ねます。一般的に、金管はアタックの歯切れが良いため、リズミックなモチーフは金管にふさわしいものとなります(ただし低音域のホルンは例外)。
現代ではバルブ機構がありますので、この音列は(楽器を持ち替えることなく)あらゆる調で演奏可能です。また、自然倍音列に無い音もいくつか演奏可能になったことで、ファンファーレやフローリッシュの可能性はさらに広がり、表現の幅も大きくなりました。
これらのフレーズは、それがソロであれ二声や三声であれ、大勢のトランペットとホルンに演奏させることが多いですが、時にトロンボーンに割り当てられることもあるでしょう。中音域以上のホルンとトランペットにおける豊かで透き通った響きは、このようなフレーズに最もマッチします。
COMMENT: トロンボーンがソロ楽器として使われることは幾分まれで、「群れ」で扱うことが多くなります。3台あるいは4台のトロンボーンをユニゾンにして落ち着いたメロディを演奏すると、非常に気高い雰囲気を得ることができます。
例
Servilia, 20: トランペット.
Christmas Eve, 182: ホルン、トランペット.
Verra Scheloga, 序曲の始め、また45の後: ホルン、トランペット.
Ivan the Terrible, 第三幕3: コルネット.
Snegurotchka, 155: トランペット.
No. 70. Legend of Kitesh, 65等: 3 トランペット、4 ホルン.
Pan Voyevoda, 191: 2 トロンボーン、トランペット.
*The Golden Cockerel, 20: 2 ホルンと トランペット | 8 | ホルン (次節も参照)
ファンファーレを初めとして、金管の音色に最も適しているメロディというのは転調を伴わない全音階によるメロディです。このとき、長調では活力に満ち意気揚々としたキャラクターに、短調では暗く悲観的な感じになります。
COMMENT: 繰り返しになりますが、このようなアレンジは自然金管楽器時代の流れを汲むもので、現代でも良く用いられます。
例
No. 71. Sadko, 342: トランペット.
Sadko, 181の前: トロンボーン (No. 27も参照のこと).
No. 72. Snegourotchka, 71: トランペット.
Russian Easter Fete, M: トロンボーン.
Spanish Capriccio, E: ホルンのオープンとストップ音を交互に使用 (No. 44も参照のこと).
Ivan the Terrible, 第二幕, 17の前: バストランペット、少し後に3 ホルン.
Mlada, 第二幕, 33: バストランペット (No. 46も参照のこと).
ホルンは弱奏によって暖かくロマンチックな音色を出しますので、これもメロディ演奏に活躍するでしょう。
COMMENT: メロディにおけるホルンの役割は主にアルト/テナーの音域で、ソプラノやバスではありません(初心者が犯しがちな間違い)。
例
The May Night, 序曲13.
Christmas Eve, 1.
Snegourotchka, 86.
Pan Voyevoda, 37.
No. 73. Antar, 40.
半音階や異名同音を含むメロディは金管楽器に適しません。しかし、時にはこのようなメロディが金管に割り当てられることがあります。この例はワーグナーにみられるばかりか最近のイタリア写実主義派の曲では乱用されているとさえいえます。ただし、ファンファーレの形をとった活力あるフレーズは、例え半音階を含んでいたとしても金管で抜群に美しく響きます。
COMMENT: 現在では金管を半音階的に使うことが非常に一般的ですが、大きな跳躍を含む半音階的なメロディは未だに良くありません(一オクターブあるいは五度の跳躍がたまに出てくるのは比較的演奏しやすいです)。金管は他の楽器に比べて遥かに跳躍が苦手なのです。演奏者がそれほど熟練していない場合、このような音はまともに鳴らないかそもそも音にならないでしょう。また、金管は準備なしに突然高い音から始まるメロディも苦手であることに留意しましょう。
例
No. 74. Scheherazade, 第二楽章 D.
大雑把に言って、金管楽器には情熱や甘さを表現する力が欠けています。ですので、そういったキャラクターを持つフレーズを金管に割り当てると、病的で無味乾燥なものとなってしまいます。エネルギッシュなフレーズ、あるいは単純で雄弁なフレーズこそが金管楽器の大切な持ち味です。
COMMENT: ワーグナーやマーラーなどの音楽には、これに反するパッセージが非常に多くあります。
金管のユニゾン、オクターブ、三度、六度
金管楽器というのはそもそもが表現の幅を広げることを期待して使うものではないため、同系の楽器はソロあるいはユニゾンで用いられることになるでしょう。3トロンボーンや4ホルンのユニゾンは頻繁に見られるもので、これらは極めて力強く、またよく響く音色となります。
例
Snegourotchka, 5: 4ホルン(No.15も参照のこと).
Snegourotchka, 199: 4ホルンと2トランペット.
Sadko, 175: 1,2,3トランペット.
No. 75. Sadko, 305 (注): 3トロンボーン.
No. 76. The May Night, 第三幕冒頭: 1,2,3,4ホルン.
Legend of Kitesh, 第一幕最後: 4ホルン(No.70も参照のこと).
No. 77. Scheherazade, 第四楽章p.204: 3トロンボーン.
Mlada, リトアニア人の踊り; 6ホルン(No. 61も参照のこと).
編者注:RKはここを次のように校正している。305の5~9小節目、また306の5~9小節目では3本のクラリネットがユニゾンで奏し、またトランペットはffでなくfの指定になっている。第二巻では、これらパッセージの冒頭がRKの要望に従って修正されている。
金管楽器はどれも共通して均質な力強い響きを持っており、音色としては低音での暗い音色からグラデーションを描いて高音での輝かしい音色へと徐々に移り変わる楽器です。このため、同系の金管楽器によるオクターブ、三度、六度配置は常に満足のいく結果をもたらします。また同じ理由によって、異種の金管楽器を組み合わせる場合にも(ただし音域の自然な順番が守られている、つまり
トランペット | 2 ホルン
トランペット | トロンボーン
トロンボーン | チューバ
2 トロンボーン | (トロンボーン + チューバ)
2 トランペット | 2 トロンボーン
2 ホルン | チューバ
となっている場合において)、それぞれがユニゾン重複を伴っているか否かにかかわらず、やはり良い結果を生み出します。別の方法としては(それほど高い信頼性があるわけではありませんが)、高音部のホルンをオクターブユニゾンでトロンボーンと重ねるという手があります。
2 ホルン | 8 | 1 トロンボーン
または
4 ホルン | 8 | 2 トロンボーン
COMMENT: RKが書いている通り、金管は木管のように音色の溶け合いが問題になることはありません。金管を書く上での主な注意点は、その重さです。金管はほんの少しで十分なのです。
例
Sadko, 120の前: トランペット | 8 | トランペット.
Sadko, 5: 2 トランペット | 8 | 4 ホルン.
Snegurotchka, 222: (2 トロンボーン) | 8 | (トロンボーン + チューバ).
Ivan the Terrible, 第三幕 10: (1 トロンボーン + トランペット) | 8 | (2 トロンボーン). (No. 38参照)
The Golden Cockerel, 125: トランペット | 8 | トロンボーン.
Snegurotchka, 325-326: トロンボーン | 8 | トロンボーン. (No. 95の一部)