オクターブ重複
メロディを二つの木管楽器でオクターブ重複する場合、自然な響きを得られる組み合わせは以下の通りです。
Fl. | 8 | Ob.
Fl. | 8 | Cl.
Fl. | 8 | Fag.
Ob. | 8 | Cl.
Ob. | 8 | Fag.
Cl. | 8 | Fag.
フルートとファゴットはその音域が離れているために、オクターブで重ねることはあまりありません。自然な順番から外れた配置、つまりファゴットをクラリネットやオーボエの上に置いたり、クラリネットをオーボエやフルートの上に置いたりといったことをすると、低音楽器が高音域を演奏し、高音楽器が低音域を演奏することになるため、その音域の乱れによって不自然な響きを作り出すことになります。結果として、二つの音色の関係が適切でないことが目立ってしまいます。
COMMENT: 高音域のフルートと高音域のファゴットを2オクターブ離して重ねてメロディにする(2オクターブの間に他の楽器を入れない)のは、モーツァルトが好んで用いた手法です。
例
No. 56. Spanish Capriccio, O. Fl. | 8 | Ob.
No. 57. Snegourotchka, 254. Fl. | 8 | Eng. horn
*No. 58. Scheherazade, 第三楽章 E. Fl. | 8 | Cl.
Sadko, 195. Fl. | 8 | Eng. horn
Pan Voyevoda, 132. Fl. | 8 | Cl.
Tsar Saltan, 39. Cl. | 8 | Fag.
No. 59. Vera Scheloga, 30. Cl. | 8 | Fag. 色々な作曲家による多くの音楽と同様の作例。
同じ音色の楽器二つのオクターブ重複、つまり2フルート、2クラリネット、2ファゴットなどによるオクターブは、絶対に避けよとは言えないまでも、決して推奨されるものではありません。これは、木管楽器の音は音域によって変わってしまうからです。ただし、弦楽器が(arcoでもpizz.でも)上下をそれぞれ重複している場合、特にそれが中音域の場合には、問題ありません。特に同音連打や長音のパッセージで良好な結果となります。
COMMENT: 同じ楽器2台によるオクターブ重複は音色の違いが大きくないため、比較的「余計な味付けのない」音になります。不連続的な伴奏と合わせれば、非常に良い効果を生むこともあります。
例
The May Night, 第一幕 T. Cl. I | 8 | Cl. II.
*Sadko, 159の後. Ob. I | 8 | Ob. II. 弦のpizz.で重複。
*Servilia, 21の後. Fag. I | 8 | Fag. II. 弦のpizz.で重複。
同族楽器によるオクターブ重複、つまり
Fag. | 8 | C-Fag.
Cl. | 8 | Bass cl.
Ob. | 8 | Eng. horn
Small cl. | 8 | Cl.
Fl. | 8 | Alto fl.
Picc. | 8 | Fl.
は常に良い効果を生みます。
例
Snegoutochka, 5. Picc. | 8 | Fl. (No. 15参照)
The Tsar’s Bride, 133. Picc. | 8 | Fl.
Tsar Saltan, 216. Picc. | 8 | Fl. (No. 36参照)
Sadko, 59の後. Small cl. | 8 | Cl.
Legend of Kitesh, 240. Fag. | 8 | C-Fag. (No. 21参照)
No. 60. Mlada, 第三幕 44の前. Ob. | 8 | Eng. horn
弦楽器の場合と同様、木管楽器でも超高音や超低音のメロディはオクターブで重複することが望ましいです。やはり超高音のメロディは一オクターブ下で、超低音は一オクターブ上で重複します。ということで、ピッコロは一オクターブ下をフルートやオーボエ、クラリネットで重複します。同様に、コントラファゴットは一オクターブ上をファゴット、クラリネット、バスクラリネットで重複します。
COMMENT: これは、超高音や超低音では中音域よりも音程を聴き取るのが難しくなるためです。
Picc. | 8 | Fl.
Picc. | 8 | Ob.
Picc. | 8 | Cl.
Fag. | 8 | C-Fag.
Bass cl. | 8 | Fag.
Cl. | 8 | Fag.
Cl. | 8 | Bass cl.
Fag. | 8 | Fag.
Fag. | 8 | Bass cl.
例
*Tsar Saltan, 39. Picc. | 8 | Ob.
*No. 61. Mlada, 第二幕 リトアニア人の踊り 32. Picc. | 8 | Small cl.
Sadko, 150. Picc. | 8 | Small cl.
*オクターブ重複で混合音色を用いることもあります。この場合でも上述の説明はそのまま使えます。
例
Pan Voyevoda, 134. (Cl. + Ob.) | 8 | (Cl. + Eng. horn) (No. 7参照)
No. 62. Servilia, 168. (2 Fl. + Ob.) | 8 | (2 Cl. + Eng. horn)
No. 63. The Tsar’s Bride, 120. (3 Fl. + Ob.) | 8 | (2 Cl. + Fag. + Eng. horn)
Mlada, 第三幕 41. (Fl. + Bass fl.) | 8 |(Cl. + Bass cl.)
3オクターブ以上に渡るオクターブ重複
3オクターブ以上に渡るオクターブ重複を用いる場合は、上述の規則に従い、また楽器の自然な音域順を守るようにしましょう。
3オクターブ
Fl. | 8 | Ob. | 8 | Cl.
Ob. | 8 | Cl. | 8 | Fag.
Fl. | 8 | Cl. | 8 | Fag.
Fl. | 8 | Ob. | 8 | Fag.
4オクターブ
Fl. | 8 | Ob. | 8 | Cl. | 8 | Fag.
このほか、混合音色が用いられることもあります。
例
No. 64. Spanish Capriccio, P: 4オクターブのメロディ.
Picc. | 8 | (2 Fl.) | 8 | (2 Ob. + Cl.) | 8 | Fag.
The Tsar’s Bride, 141: 3オクターブのメロディ
*Legend of Kitesh, 212: (2 Cl.) | 8 | (Bass cl.) | 8 | (C-Fag.)
*No. 65. Antar (第一版), 第三楽章冒頭: (Picc. + 2 Fl.) | 8 | (2 Ob. + 2 Cl.) | 8 | Fag. この例についてはCも参照。そちらはピッコロがオクターブ上になって4オクターブ重複のメロディとなっている。
*Mlada, 第三幕, 42の後: Fl. | 8 | Ob. | 8 | Eng. horn
No. 66. Scheherazade, 第三楽章G: Picc. | 8 | Cl. I | 8 | Cl. II
5オクターブにまたがるメロディは極めて稀ですが、そのような場合は弦楽器が参加します。
COMMENT: これらの例は木管楽器をソロの集まりではなく多人数のコーラスのように使う用法を紹介したものです。このような扱い方もいろいろな音色を生み出してくれるものです。ただし、一度に色々な音色を鳴らせば鳴らすほどその後は音色効果が薄れてしまうということを心にとめておきましょう。モーツァルトのオーケストレーションにおける最も単純でそして最も重要な原則は、「重要なソロを吹く管楽器は、その前にしばらく休ませておく」ということです。これにより、その音色は新鮮な空気を纏って入ってくることができます。これこそが、混合音色の多様を避ける重要な理由の一つと言えます。なお、この例のように異なる音色の管楽器を合わせる手法の大家といえば、ワーグナーでしょう。
三度あるいは六度による重複
3度や6度でメロディを重複するには、同じ音色の楽器を二つ重ねる(2 Fl., 2 Ob., 2 Cl., 2 Fag.)か、異なる音色の場合は自然な音域の順番を守って重ねることになります。
Fl. | 3 or 6 | Ob.
Fl. | 3 or 6 | Cl.
Ob. | 3 or 6 | Cl.
Cl. | 3 or 6 | Fag.
Ob. | 3 or 6 | Fag.
この順番が乱れてしまうと、つまり Ob. | 3 or 6 | Fl. や Cl. | 3 or 6 | Fl. や Fag. | 3 or 6 | Cl. のようになってしまうと、不自然な響きになってしまいます。三度の場合、音色の同一性という観点から一番良いのは同じ楽器をペアで使うことになります。六度の場合は音色が異なっているほうが良いですが、同じ音色でも全く悪くありません。また、次の例に示すように、三度と六度、あるいは三度と五度と六度が混ざり合って出てくることもあります。
COMMENT: 三度で重ねたフルートの二オクターブ下をファゴットの三度で重ねるというのがシベリウスの曲によく見られます。
例
Legend of Kitesh, 24: 異なる木管楽器がかわるがわるに演奏。
The May Night. 第三幕 G: Cl. | 3 | Cl.
Sadko, 279-280: Fl. | 3 | Fl. と Fl. | 6 | Fl.
No. 67. Spanish Capriccio, Vの前: 色々な木管楽器で三度や六度を演奏。
Servilia, 228: Fl. | 3 | Fl. と Cl. | 3 | Cl.
The Golden Cockerel, 232: (2 Fl.) | 6 | (2 Ob.)
*Sadko, 43: 全ての木管楽器がかわるがわるに演奏。シンプルな音色。
三度や六度のそれぞれにユニゾン重複がある場合、次のようにするのがオススメです。
(Fl. + Ob.) | 3 or 6 | (Fl. + Ob.)
(Fl. + Cl.) | 3 or 6 | (Fl. + Cl.)
(Fl. + Ob.) | 3 or 6 | (Fl. + Cl.)
(Ob. + Fl.) | 3 or 6 | (Fl. + Cl.)
etc.
訳注:4つめは (Ob. + Cl.) | 3 or 6 | (Fl. + Cl.) の誤り?ロシア語版、英語版共に(Ob. + Fl.) | 3 or 6 | (Fl. + Cl.)となっているが、その場合3つめとの差異なし?
また、次のように三つのユニゾン重複による三度(六度)重複も用いられます。
(Fl. + Ob. + Cl.) | 3 or 6 | (Fl. + Ob. + Cl.)
(Ob. + 2 Fl.) | 3 or 6 | (Ob. + 2 Cl.)
etc.
例
*No. 68. Christmas Eve, 187: (Ob.+ Cl.) | 3 | (Ob.+ Cl.)
Legend of Kitesh, 202-203: いくつかの混合音色の例。
三度と六度の共存
自明な配置、つまり
Fl. | 3 or 6 | Ob. | 6 or 3 | Cl.
Ob. | 3 or 6 | Cl. | 6 or 3 | Fag.
だけでなく、ユニゾン重複を含んだ複雑な配置として、
(Ob. + Fl) | 3 or 6 | (Fl. + Cl.) | 6 or 3 | (Ob. + Cl.)
という組み合わせが可能です。
次の例はなんとなくぼやけた感じのする複雑な組み合わせです。
例
No. 69. Legend of Kitesh, 35: Ob. | Ob. + Cl. | Cl. および Fl. | Fl. + Ob. | Ob.