著者による前書き(最終版に対する前書きからの抜粋)
本書を執筆する上で私が目指したのは、現代オーケストレーションを支える基礎を伝えること、それも、よくある教科書とは幾分異なった視点からこれを解説することです。私自身、自作のオーケストレーションにあたってはこの基礎に従っていますし、若き作曲家たちに私の考えの一部を伝えたいとの思いもあって、本書における作例は私自身の曲から選び出しました。譜例を載せられなかった作品についても、拙作のどこを参照すればよいか示してあります。これらの作例は、良いオーケストレーションとそうでないものの違いを伝えるために誠心誠意選び抜いたものです。ある曲を作る目的やモチベーションを知ることができるのは作曲者本人以外ありえませんし、作曲家の意図を伝えるのが評論家の間でよく行われているとはいえ、彼らの評価は控えめで敬虔なばかりで、とても私を満足させるものではありません。評論家は単純なフレーズに対してまで深淵な哲学や極めて詩的な意味を持たせようとするのですから。またそれが偉大な作曲家の場合にはその名声に目が眩み、悪例を良例として紹介してしまうこともあります。この場合、不注意や無知といった単なる技術不足に由来するパッセージを強引に好意的に解釈しようとして評論がおかしなことになるだけでなく、問題のあるフレーズに称賛を与えてしまうことにすらなります。
本書では、読者は既に楽器法について熟知しており、様々なオーケストラ作品に対する知識もある程度持っているものと仮定しています。そのため、本書では運指法や音域、発音機構といった技術的な問題には第一章で少し触れる程度で済ませています。もし楽器法についての知識が不足しているのであれば、ジュヴァールの教科書などを読むことをお勧めします。
本書では、1. 異なる楽器群に属する音色(あるいは全楽器群の音色)の組み合わせ方、2. 望む通りの音量や一体感を出すための種々の手段、3. 声部の分割、4. 色彩と表現の多様性、という技術的な事項について、主に私のオペラ作品を通して見ていくことになります。
和訳者による前書き
本書は、Nikolai Rimsky-Korsakov (1844-1908)著、Maksimilian Steinberg (1883-1946)編、Edward Agate (1880–1940)英訳による、「Principles of Orchestration」を底本として、その本文を和訳したものです。ただし部分的にロシア語原著を参照しました。「本文を」と書いたのは、原著は第一巻の本文と第二巻の譜例集に分かれており、本書で和訳の対象としたのはそのうち第一巻のみであるためです。第二巻についてはほとんど文章が書かれておりませんので、和訳しておりません。また恐れ入りますが、第二巻の譜例集は本和訳書には(PDF版にも書籍版にも)一切添付しておりません。これは、現在ではペトルッチ楽譜ライブラリー (IMSLP: http://imslp.org/wiki/Main_Page)から自由に(合法に)ダウンロードできる環境が整っているためです(第二巻への直接リンクはこちら)。また本文中で使用した図の大部分は、IMSLPで公開されているPDFに適宜修正を加えたものです。また、本書はAlan Belkin氏及びAndy Brick氏による補足も訳されていることを付け加えておきます。これは、既に著作権の保護期間を過ぎた英語版に対し、Garritan (現MakeMudic)社がそのホームページで第四章までを全文公開するにあたり付記されたものです。MakeMusic社及び両氏に翻訳の許可を求めましたところ、ご快諾頂きました。このうち、A. Brick氏による補足は、「アルトフルート」についてのもので、これについては第一章にて訳注という形で紹介させて頂きました。一方、A. Belkin氏によるコメントは非常に多岐に渡っているため、
COMMENT: A. Belkin氏によるコメント
という形で紹介しています。
さて、原著の著作権者は全員1940年代までに亡くなっていますから、2019年8月時点で原著の著作権保護期間は満了しています。
注:現行の著作権保護期間は70年+戦時加算約10年ですが、保護期間が50年から70年に延長されたのは2018年のことであり、本書の保護期間はそれ以前に終了しています。また、著作権法によれば一度パブリックドメインとなったものはこの保護期間の延長にかかわらずパブリックドメインであり続ける、と定められています。
一方、この和訳本については、訳者である平沢奏太が著作権を所有し、公開後70年(現行法で)は著作権法により保護されます。従いまして、あらゆる形での二次配布、無断転載、正当な範囲を超えての引用、その他これらに準ずる行為を固く禁じます。
本書の翻訳にあたってはtwitterなどを通じて多くの方のご支援を頂きました。特に、MichaelMori(@MichaelMikamori)様、ぐら(@gurasansan3)様にはDMにて多くのご助言を頂きました。この場を借りて、改めて御礼申し上げます。
最後に、翻訳には細心の注意を払っておりますが、万一内容の理解に影響を与える重大な誤訳や訳抜けなどございましたら、ご容赦の上、平沢までご連絡頂ければありがたく思います。検討の上、訳文の修正及び修正したという事実の周知など、必要な対応をおこなって参ります。本書がオーケストレーションを志す全ての人のお役に立つことを願います。
2019年8月13日 平沢奏汰
email: sotahirasawa.rk@gmail.com Twitter: @nico_bosatsuP