COMMENT: 一般に、楽器群をまたぐような重複は次の2つに分けられます。1. 音色2つが溶け合って新しい音色が生まれるもの、2. 用いた楽器の音色に大きな差があり、そのコントラストが面白いもの。RKがこの節で説明しているのは主に前者で、これは音色を溶け合わせる方が技術的により難しく、解説が必要であるためであると思われます。
これら重複は決して柔らかい雰囲気を作るものではないことも併せて覚えておきましょう。音色の混合は、常に元より厚い音色を作り出します。

A. 木管と金管のユニゾン重複

 木管と金管の組み合わせは、金管が支配的となりますが複雑な響きを作り出します。この組み合わせで得られる響きは、もちろんそれぞれの楽器を単独で鳴らすよりもパワフルになりますが、それでいて金管単独の場合よりもわずかに甘い音となります。木管楽器同士の組み合わせの場合と同じように、木管楽器は金管に合わさることによってその響きを柔らかく澄んだものに変えます。このような重複の例はかなり多く、特にフォルテのパッセージでよく見られます。トランペットは最もよく重複に使われる楽器で、

Trumpet + Cl.
Trumpet + Ob.
Trumpet + Fl.
Trumpet + Cl. + Ob. + Fl.

のように重複されます。ホルンが重複される例はやや少ないですが、

Horn + Cl.
Horn + Fag.

という組み合わせがあります。トロンボーンやチューバも木管と重複することができ、

Trombone + Fag.
Tuba + Fag.

となります。イングリッシュホルン、バスクラリネット、コントラファゴットを金管楽器と重ねる場合でも、それぞれ自分の得意な音域にて上記と同じように組み合わせます。

COMMENT: 金管のほうが木管よりはるかに音量が出るのに、なぜ金管一台を木管一台で重複するのか不思議に思われるかもしれません。しかし実は、金管を木管で重複する主な目的は、金管の音色を滑らかにさせて突き刺さるような雰囲気を抑えることにあるのです。

Legend of Kitesh, 56: Trombone + Eng. Horn
*Mlada, 第三幕, 34の前: 3 Trombones + Bass cl.

 基本的に、木管を金管に加えることで、金管だけの場合よりも綺麗なレガートとなります。

B. 木管と金管のオクターブ重複

ホルンのオクターブ上をクラリネット、オーボエ、フルートで重ねるというのは、

1 トランペット | 8 | 1あるいは2 ホルン

が上手くいかない場合の代替手段としてよく用いられます。

COMMENT: 第三章「和声」で改めて述べられる通り、金管はその最高音域では他の楽器で置き換えることができません。木管が適切に金管を重複することで、必要以上に音色を変えることなく倍音を強めることができます。弦でオクターブ重複してもこうはいきません。

「上手くいかない場合」というのは、上のオクターブがトランペットに適さない音域であるにもかかわらずオクターブ重複で音色を豊かにしたい場合です。もしホルンが一台なら、上声部は2クラリネット、2オーボエ、2フルートで重複します。しかしホルンが2台でユニゾンしていた場合、特にforteのパッセージでは、上のオクターブは3あるいは4台の木管楽器で重複する必要があります。つまり
2 Ob. or 2 Cl. or 2 Fl. | 8 | 1 Horn
1 Ob. + 1 Cl. | 8 | 1 Horn
2 Fl. + 2 Cl. | 8 | 2 Horns
という重複の仕方になります。

COMMENT: これは、そもそも木管は金管ほど音量が出る楽器ではなく、しかも音量が大きくなればなるほどさらに金管が突出していくためです。

一台のトランペットを木管で上オクターブ重複する場合は3から4台の木管楽器が必要になります。ただし、最高音域ではフルート2台で事足ります。

 トロンボーンの上を木管楽器でオクターブ重複するのは控えましょう。トランペットの方が適しています。

COMMENT: ホルンが木管と金管の橋渡し的に使われる(総譜におけるホルンの位置からもそのことが見て取れる)のに対し、トロンボーンは金管以外の楽器群とは混ざり合いません。トランペットの方がまだ問題になりにくいですが、これは単にトランペットをオクターブ上で重複できる楽器が限られているためでしょう。

オクターブ重複の例

*Snegourotchka, 71: (Ob. + Cl.) | 8 | Horn.

*Legend of Tsar Saltan, 180の前: ((Ob. + Cl.) | 6 | (Ob. + Cl.)) | 8 | (Horn | 6 | Horn).


*金管と木管の混合音色によるオクターブ重複というものも紹介しておきましょう。

混合音色によるオクターブ重複の例

Mlada, 第三幕, 第三場冒頭: (Trombone. + Bass cl.) | 8 | (Tuba + C-fag.)

No. 78. Mlada, 第三幕, 25の後: (2 Cl. + 2 Horns + Trombone) | 8 | (Bass cl. + 2 Horns + Trombone). 金管は低音域を使用.

No. 79. Mlada, 第三幕, 35の前: 全体のユニゾン.


 メロディを3オクターブや4オクターブに渡って重複させる場合、音色のバランスを完全に整えるのは困難です。

3オクターブ以上の重複の例

*Scheherazade, 第四楽章, Wの後15小節目: Picc. | 8 | (2 Fl. + 2 Ob.) | 8 | 2 Trumpets.

*Legend of Tsar Saltan, 228: Picc. | 8 | (2 Fl. + 2 Ob.) | 8 | (Trumpet + Eng. horn).

C. 弦と木管の重複

 弦と木管の重複について説明するにあたって、まず基本的な規則を述べておく必要があると思います。この規則はメロディ、和声、対旋律、多声部書法のどれに対しても同じように成り立つものです。
 弦と木管の組み合わせは、どの組み合わせも良好です。というのは、木管が弦の響きや音色を増強し、一方で弦の方は木管の音色を柔らかくするからです。また、弦と木管の組み合わせでは、例えばヴァイオリンとオーボエ、ファゴットとチェロのように二つの楽器が等しいパワーを持っている場合、弦楽器の音が優勢になります。ただし複数の木管がユニゾンとなって弦楽器の一セクションと重なっている場合には木管優勢になります。原則として、どの組み合わせでもそれぞれを単体で鳴らした時よりも洗練された音になり、また弦楽器の方が元の特性を残します。

COMMENT: RKがここで「洗練させる」と言っているのは、むしろ「減衰」を意味しています。前古典期、つまりオーケストラを構成する楽器が現在の形に落ち着くより前には、木管が弦の人数を遥かに上回っていることがよくありました(詳細はAdam Carseによる「The history of Orchestration(オーケストレーションの歴史)」を参照のこと)。

ユニゾン重複

最良にして最も自然な組み合わせは、音域の似通った楽器同士による重複です。

Vln + Fl. (Bass fl., picc.)、
Vln + Ob., Vln + Cl. (small cl.)、

Vla + Ob. (Eng. horn)、
Vla + Cl., Vla + Fag.、

Vc + Cl. (Bass cl.)、
Vc + Fag.、

Cb + Bass cl.、
Cb + Fag.、
Cb + C-fag.。

 これらの組み合わせの目的は、(a)混合音色を得る、(b)弦の響きを強める、(c)木管の音質を和らげる、ということになります。

Snegourotchka, 5: Vc + Vla + Eng. Horn (No. 15も参照のこと)

Snegourotchka, 28: Vla + Ob. + Eng. Horn.

Snegourotchka, 116: Vln I + Vln II + Ob. + Cl.

Snegourotchka, 288: Vln I + Vln II + Vc + Eng. Horn (No. 17も参照のこと)

No. 80., The May Night, 第三幕, Bb: Vla + Cl.

No. 81., Sadko, 311: Vln + Ob.

No. 82., Sadko, 77: Vla + Eng. horn

No. 83., Sadko, 123: Vla + Eng. horn

Servilia, 59: Vln (G弦) + Fl.

Tsar Saltan, 30: Vln I + Vln II + 2 Cl.

No. 84., Tsar Saltan, 30の10小節目: Vc + Vla + 3 Cl. + Fag.

Tsar Saltan, 156-159: Vln (detachedデタシェ) + Fl. (legatoレガート)

The Tsar’s Bride, 10: Vla + Vc + Fag.

Antar, 第四楽章, 63: Vc + 2 Fag. Scheherazade, 第三楽章, H: Vla + Ob. + Eng. horn.

オクターブそれぞれの重複

弦同士がオクターブで重複しており、さらにその上下両方を木管でさらに重複しているような例は枚挙に暇がありません。またこのような重複に特別な注意点もなく、上述した基本的な方針に従って使用されます。

COMMENT: このような重複では音量が非常に大きくなり、一種のtutti(第四章参照)として扱わなければなりません。つまり、透明性よりも力強さと音の豊かさが重要になるということです。このような力強い音が必要な時ももちろんありますが、使いすぎれば一気に曲が単調になってしまいます。原則として、ある声部を重複する楽器が多くなればなるほど個々の楽器の特徴は失われてしまいます。音の透明性を損なわないための一つの手段として、ヘテロフォニックな重複を行うという手法が挙げられます。つまり、全く同一の形で重複するのではなく、一つあるいは複数の声部はリズムを単純化したり逆によりリズミカルにしたりするのです。コントラバスでは技術的な都合もあってリズムが単純化されることが多いですが、同じようなリズム変化を他の声部でやってはいけない理由はありません。ただし、メインの声部が最も目立つようにバランス調整しなければならないのは言うまでもありません。

次に示すのは、1から4オクターブに渡るメロディの例です。

COMMENT: これらの例ではそもそも音が非常に厚いため、木管楽器の絶対数そのものはそれほど重要ではないことに注意しましょう。

1オクターブの例

No. 85. Ivan the Terrible, 序曲冒頭: (Vln I + Vln II + 2 Cl.) | 8 | (Vla + Vc + 2 Fag.)

No. 86. Sadko, 3: (Vc + Bass cl.) | 8 | (Cb + C-fag.)

Sadko, 166: (Vc + Fag.) | 8 | (Cb + C-fag.)

Sadko, 235: (Vla + 2 Cl.) | 8 | (Vc + Cb + 2 Fag.)

The Tsar’s Bride, 14: (Vc + Fag.) | 8 | (Cb + Fag.)

The Tsar’s Bride, 81: (Vln I (div) + Fl.) | 8 | (Vln II (div) + Ob.)

The Tsar’s Bride, 166: (Vln I + Fl.) | 8 | (Vln II + Ob.). (No. 22も参照のこと)

3または4オクターブの例

Servilia, 93: (Vln + 3 Fl.) | 8 | (Vla + 2 Ob.) | 8 | (Vc + 2 Fag.)

No. 87. Kashtchei, 105: (Vln I + Picc.) | 8 | (Vln II + Fl. + Ob.) | 8 | (Vla + Vc + 2 Cl. + Eng. horn + Fag.)

Scheherazade, 第三楽章, M: (Vln I + Fl.) | 8 | (Vln II + Ob.) | 8 | (Vc + Eng. horn)

三度または六度での重複例

Servilia, 44: (Fl. + Ob. + Cl. + Vln (div)) | 3 | (Fl. + Ob. + Cl. + Vln (div))

No. 88. Servilia, 111: 弦と木管の三度重複.

No. 89. Servilia, 125: 同じ組み合わせで、三度及び六度重複.

Kashtchei, 90: No. 89と同じ.


 オクターブ重複の片側のみが別の楽器で重複されているような場合には、より一層の注意が必要です。ソプラノの音域でこれを行う場合、木管楽器でオクターブを演奏しておいて、その下側のみを単一の弦楽器群で重複するのがよいでしょう。つまり、
Picc. | 8 | (Fl. + Vln)

Fl. | 8 | (Ob. (Cl.) + Vln)
のような組み合わせです。

Tsar Saltan, 102: (2 Fl. + Picc.) | 8 | (Vln I + Vln II + Ob.). (No. 133参照)

*No. 90. Scheherazade, 第四楽章, U: 2 Cl. | 8 | (Vc. + 2 Horns)


低音域にあるメロディに甘く柔らかい音色が欲しい場合、チェロとコントラバスをオクターブで重複しておき、チェロのみをファゴットで重複しましょう。つまり
(Vc + Fag.) | 8 | Cb
という組み合わせです。特に木管楽器にコントラファゴットを含まない編成の場合には超低音域をコントラバスに任せることになるため、必然的にこの重複法を使わざるを得ないこともあります。

COMMENT: この重複法は、ベースラインが活発に動き回る場合にも非常に良く用いられます。ファゴットによりベースラインが刺激的になるのです。コントラファゴットではファゴットよりもはるかに唸るような音色が強調されてしまうため、使う機会は限られています。

編者注:古典的にはよく音のバランスを整えるために Fl | 8 | Vln や Ob. | 8 | Vc のような重複の仕方をしていましたが、これはオススメできません。というのは、木管と弦では音質が違い過ぎるからです。ただし音色の種類を増やそうという動きの結果、特にフランスの若い作曲家の間でこのような重複の仕方がまた流行ってきています。

No. 91. Tsar Saltan, 92: (Vla + Fag) | 8 | (Vc + Fag.) | 8 | Cb

D. 弦と金管の重複

弦と金管では音色が大きく異なるため、これらをユニゾンで重複しても木管と弦のように完全に溶け合うことはありません。これらをユニゾンさせた場合にはそれぞれの音色が別々に聴こえてきますが、最も良い結果を生むのは、音域が最も近い楽器同士の組み合わせです。つまり、
Vln + Trumpet、
Viola + Horn、
(Vc + Trombone) | 8 |(Cb + Tuba)(重く力強い音色を狙う時)
という組み合わせです。

COMMENT: ここは重要なポイントです。普通は複数の楽器を同時に鳴らすのは、音色の溶け合いを狙ってのことです。溶け合いにくい楽器の組み合わせで効果的なサウンドを作ることのできる例は比較的少ないといえるでしょう。

 ただしホルンとチェロの組み合わせはよく用いられ、これは美しく溶け合って柔らかい音色になります。

COMMENT: チェロが音に鋭さを、ホルンが荘厳さを与える組み合わせです。

Tsar Saltan, 29: Vln I + Vln II + Horn
*No. 92. The Golden Cockerel, 98: Vla (con sord.) + Horn

E. 三群の混合

 弦、木管、金管の全てを用いたユニゾン重複は弦+金管より一般的で、木管の参加によって音色はより豊かに、またよく溶け合うようになります。この場合、どの楽器群の音色が支配的になるかというのは、参加する楽器数によって変わってきます。最も自然かつ最も多く用いられるのは、次の組み合わせです。

Vln + Ob. (Fl., Cl.) + Trumpet、
Vla (Vc) + Cl. (Eng. horn) + Horn、
(Vc | 8 | Cb) + 2 Fag. + 3 Trombones + Tuba。

 このような重複は、大音量のパッセージ、あるいはpiano(弱音)かつ重い音色が欲しい時に用います。

COMMENT: 繰り返しになりますが、これらはtuttiの一種であって非常に力強い音を作り出すものです。このような重複は、使われる頻度に比例して効果が悪くなっていきます。おそらく、オーケストラの色彩感に関する最も重要な原則は、全ての音色を一度に使い切ってしまわずに後に「とっておく」ことでしょう。常に全楽器を鳴らすのではないのです。モーツァルトはこの点において非常に優れています。

No. 93-94. Snegourotchka, 218, 219: Vln I + Vln II + Cl. + Horn, Vln I + Vln II + Cl. + Trumpet.

Servilia, 168: (Vla + Trombones) | 8 | (Vc + Trombone + Bass Cl.) | 8 | (Cb + Tuba + Fag.). (No. 62も参照のこと)

No. 95. Snegourotchka, 325: (Vc + Vla + Fag. + Trombone) | 8 | (Cb + Fag. + Tuba)

Pan Voyeboda, 224: Vln + Fag. + Horn 及び Vln + Cl. + Trumpet (金管はストップ音)

*Mlada, 第三幕, 23の後: Vla + 2 Cl. + Bass trumpet.

*No. 96. Ivan the Terrible, 第三幕, 66の前: (Bass Cl. + Horn) | 8 | (Cb + C-fag. + Tuba)

*Ivan the Terrible, 序曲, 9の後4小節目: Vla + Vc + Eng. horn + 2 Cl. Bass Cl. +2 Fag. + 4 Horns (ホルンではメロディが単純化されている)

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