※金管楽器の略称についてはこちらを参照 (第三章はじめに飛びます)  


木管の場合と同様に、金管の場合でも音と音の間に隙間ができないように密集配置にしましょう。

COMMENT: ただし木管楽器の場合とは理由が異なります。金管では、音色の溶け合いはそれほど問題になりません。それでも金管の解離配置は奇妙な音になってしまうのです。これは、金管は音色が非常に豊かなため、音と音の間隔が強調され過ぎてしまうためだと思われます。

4声の書法

 ホルンによる四重奏は4声の和声を鳴らすのにぴったりで、こうした4和音ではバランスも完全にとれており、バス声部をオクターブで重複する必要もありません。

注:この節では簡単のためにホルンとトランペットも実音で表記します。

COMMENT: ホルンで四声を鳴らす場合、気を付けなければならないのは次の2点のみです。
1. バス声部があまりに急速に動くのは良くありません。ホルンは低音域ではかなりゆっくりとしか動けません。チューバもホルンと同じように丸みを帯びた音色ですので、ホルンに加わったりそれ単独でバスを成したりできますが、チューバの方がホルンより機敏に動くことができます。全体が強めのパッセージでは、チューバはホルンより一段階弱く指定しましょう。
2. 全体的な音域はテナーからアルトの音域に合わせましょう。ホルンはそれ以上の高音域や低音域の演奏に適した楽器ではありません。

 なにかバスをオクターブで補強する必要があるような場合でも、トロンボーンやチューバで重複することはほとんどありません。トロンボーンやチューバでは響きが強すぎるからです。その場合、詳しくは後で説明しますが、ファゴットでオクターブ重複することになります。また、トロンボーンとチューバの四重奏で密集配置を鳴らすことはそれほど多くありません。普通、第三トロンボーンはチューバとオクターブでバス声部を形作り、上三声は大抵トロンボーンの残り2パートにトランペット1台かホルン2台(ユニゾン)を合わせて作ります。これがバランスの取れた響きを得るための組み合わせなのです。

COMMENT: 低音域の密集配置では、ホルンよりトロンボーンの方がよく通る音になります。

 また私がよくやる金管の組み合わせは、2ホルンとチューバでバスのオクターブを作っておいて上三声をトロンボーンに任せるものです。これは本当に優れた組み合わせだと思っています。

 高音域で4声の和声を書く際、高い方の2声にトランペットを使う場合には、残り2声は各一台のトロンボーンを使うか、4台のホルンを2台ずつにして作ります。

COMMENT: トランペットとトロンボーンを合わせる場合、音色の溶け合いが悪くなる心配はまずないと言っていいでしょう。ホルンもトランペットやトロンボーンとよく溶け合いますが、ホルンを使うとより柔らかく丸みを帯びた音になります。

 トランペットが3台使える場合は、高い方の3声をトランペットに、バス声部をトロンボーン一台かホルン二台(ユニゾン)にします。

COMMENT: ホルンを2台ユニゾンにする理由は、ホルンの出せる最大音量はトランペットやトロンボーンのそれより弱いためです。従って、このようなホルンのユニゾン重複が必要なのは大音量のパッセージにおいての話で、全体が弱音で奏されていればその必要はありません。

 囲い込み法も使うことができて、単一和音では次のようになります。

 連続した和声進行においては、囲い込みの使い方は次のようになります。

3声の書法

 3声で最も良いのはトロンボーン、ホルン、トランペットのどれか1種類を三台使うものです。複数の音色を使いたい場合、ホルンは2台ユニゾンにしてバランスをとらなければなりません。

COMMENT: 繰り返しになりますが、ホルンを2台重ねなければならないのは大音量のパッセージにおいてのみです。

多声部に渡る和声の書法

 全金管を使う場合、ホルンは2台ずつユニゾンにしてバランスをとる必要があります。次の例は8声の場合です。

COMMENT: 各声部が対位法的に書かれていて全声部のバランスが等しくなければならない場合には、このようなホルンのユニゾン重複は重要です。一方、ホルンの声部が他より重要でない場合には、1声部1台でも問題ありません。

 ここから声部数を減らしていく場合、例えば次のように楽器を減らすことになります。

 二度や七度の不協和音は異なる楽器で鳴らすのが良いでしょう。

COMMENT: これは、聴き心地が良く、豊かで調和のとれた音を得るための方法です。より緊迫した音が欲しい場合には、例えば2台のトランペットを不協和音に置くようなアレンジが非常に有効です。

 トランペットが二台しかないようなオーケストラを想定してこのような和音を書く場合には、ホルンを二台ユニゾンにすることができません。その場合には、次のようにホルンの音強指定を他よりも一段強くして音量バランスをとるアレンジが考えられるでしょう。

 上記の例に限らず、ホルン2台をユニゾンに使えない場合にはこのような強度指定を忘れないようにしましょう。

 解離配置の和音が幅広い音域に渡っている場合には、ホルンをユニゾンにする必要はありません。和音の書き方は2つとか3つの合唱団を合わせた巨大なコーラスのためのコラールを書く場合と似たものになるでしょう。

COMMENT: このように、音の間隔を埋めるのが目的の場合は、ホルンは各声部1台で十分です。これは、ホルンは丸みを帯びた「厚い」音色だからです。

金管の重複

 最も多くみられる金管の重複は、トランペットやトロンボーンの和音をホルンで重ねるものです。ホルンの柔らかく丸みを帯びた音色は、音を強めると同時に、トランペットやトロンボーンの突き抜けるような音色を和らげてくれます。

COMMENT: ホルンによる和音の重複は、同じコードであれば音の配置が異なっていても問題ありません。

 一方、トランペットとトロンボーンを同じように重ねるのはあまり行われません。これは、この組み合わせでは金管の中でも特にパワフルな楽器同士を重ねることになるからです。

 オーケストラを書く際、金管は2オクターブとか3オクターブに渡る持続音によく使います。このことはきちんと覚えておくべきことです。このような持続音は一般に2台のトランペットか、ホルンを2台か4台使ったオクターブ(2オクターブも可)で鳴らします。またトランペットとホルンを組み合わせてオクターブを作ることもあります。

 トロンボーンは音色が重たいため、このように使うことは稀です。従って2オクターブに渡る場合は次のようにします。

 この例では内声だけがユニゾン重複しているためにバランスが崩れていますが、音色が混ざり合うことで和音に一体感が出ますので、このアンバランスは相殺されます。

金管による和声の例

a) 金管だけで独立して和声を作る例
Snagourotchka, 74: 3 トロンボーン、2ホルン.

Snagourotchka, 140: 3 トロンボーン、2ホルン。異なる楽器群による和音が交互に演奏される(No. 244も参照のこと).

Snagourotchka, 171: 全金管。その後3トロンボーン (No. 97も参照のこと).

Snagourotchka, 255: 4ホルン (ストップ音).

No. 129. Snegourotchka, 289の前: 4ホルン.

Snegourotchka, 289: 全金管.

*Sadko, 9の前: 全金管(囲い込み).

No. 130. Sadko, 175: 混合音色(重ね合わせ)。3ホルン + 3トランペット.

Sadko, 338の前: チューバ以外の全金管.

No. 131. Sadko, 191-193: 全金管.

No. 132. Christmas Eve, 180の前: 全金管(弱音器付き).
Christmas Eve, 181: 4ホルン + 3トロンボーン + チューバ (No. 237も参照のこと).

*The Tsar’s Bride, 178: 弦と金管が交互に演奏 (No. 242も参照のこと).

*No. 133. Tsar Saltan, 102の7小節目: 2トランペット、2トロンボーン + 4ホルン(重ね合わせ).

Tsar Saltan, 230: 全金管、厚い書法(第二巻の最後にある和音表より、Ex. 12を参照).

*Servilia, 154: 様々な金管.

*Legend of Kitesh, 130: 3トランペット、1トロンボーン、1チューバ.

No. 134. Legend of Kitesh, 199: 短い和音(重ね合わせ).

No. 135. The Golden Cockerel, 115: ホルン、トロンボーン(囲い込み).

b) 金管が和声の骨格を構築する例
No. 136. Snegourotchka, 79の6小節目: 4 ホルン.

Snegourotchka, 231: 3トロンボーン。柔らかく甘い音 (No. 8も参照のこと).

Antar, 64-65: 4ホルン。その後3トロンボーン (No. 32も参照のこと).

*Scheherazade, 第一楽章, A, E, H, K, M: 異なるパワーと音色による和声骨格 (No. 192-195も参照のこと).

No. 137. Servilia, 93: 全金管.

*No. 138. Tsar Saltan, 127: 4ホルン + 3トロンボーンとチューバ。全て弱音器付き (con sord.)でpp指定.

Tsar Saltan, 147の前: 全金管。ff指定。(2オーボエとイングリッシュホルンは特に重要でない).

*Pan Voyevoda, 136の9小節目: 4ホルン、その後トロンボーンと2ホルン.

*No. 139. Legend of Kitesh, 158: トランペット、トロンボーン.

No. 140. Legend of Kitesh, 248: 3トロンボーン.

Legend of Kitesh, 362の前: 全金管.

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