フルTuttiと部分Tutti

 「tutti」というのは普通全楽器を同時に使うことを意味しますが、「全」楽器というのはあくまで相対的なもので、必ずしも文字通り全ての楽器が参加するということを意味しているわけではありません。そこで、議論を明確にするために、これをフルtuttiと部分tuttiに分けて考えましょう。フルtuttiとは、弦、木管、金管の全てのメロディ楽器を組み合わせることを言います。一方部分tuttiというのは、金管楽器が一部しか参加しないもので、例えば2ホルンだけとか2トランペットだけ、あるいは2ホルンを1台か3台のトロンボーンと組み合わせてその他の楽器(チューバ、トランペット、残り2台のホルン)は使わない、というようなものを指します。

4 ホルン | ・・・・ | ・・・・
or
2 ホルン | 2トランペット | ・・・・
or
2 ホルン | ・・・・ | 3 トロンボーン
など

COMMENT: このtuttiの区別は完全に明快であるとは言えません。部分tuttiのよりシンプルな定義は、2つの楽器群がひとかたまりになって使われることです。例えば、オーボエのソロが弦楽器と一緒に動いているだけでは部分tuttiとは呼びませんが、弦楽器群による和声が木管群による和声を伴っていれば部分tuttiとなります。

 どちらのtuttiでも、木管楽器の全てを使うかどうかはパッセージの音域と雰囲気によって変わってきます。例えば、超高音域ならピッコロを加えるのが不可欠でしょうが、低音域ならフルートは不要になります。この場合でもtuttiと呼びます。ティンパニやハープなどの音を持続させない楽器が参加しても問題ありません。

 Tuttiに参加する楽器が増えるにつれ、オーケストラで可能な表現は多彩になっていきます。これは本当に膨大なものになるため、全ての組み合わせについてここで考えるのは不可能です。ですので、ここではフルtutti及び部分tuttiの例をいくつか示すことで、読者の皆様が自分なりの結論に達することをお手伝いしようと思います。これらの例のいくつかはフルtuttiと部分tuttiの両方に該当します。また、一般にtuttiはフォルテとかフォルテッシモのパッセージで使うものであり、ピアニッシモやピアノで使うことはほとんどないことを確認しておきましょう。

COMMENT 1: 一見矛盾しているようですが、同時に演奏する楽器が増えれば増えるほど、アレンジの可能性は狭まってしまいます。これは、全ての楽器が聴こえるようにしようと思うと、その中で最も音量の出る楽器(金管といくつかの打楽器)に合わせてその他の楽器の音域が決まってしまうためです。例えば木管の上声部が金管群と一緒に演奏しようと思うと、木管は金管よりも高音域側に配置せざるを得ません。

COMMENT 2: 本文にある通りtuttiはフォルテのパッセージで使うのが普通ですが、tuttiで柔らかい音を出すことによる、奇妙で恐怖感を煽る音は他で替えがきかないものです。これを初めて用いたのはベートーヴェンの交響曲第九番第一楽章と思われます。

Snegourotchka, 61, 62: 部分tutti及びフルtutti
Snegourotchka, 231: 部分tutti. トランペットなし (No. 8も参照のこと)
No. 204. Snegourotchka, 216: フルtutti
Snegourotchka, 325-326: フルtutti及びコーラス(No. 8も参照のこと)
Sadko, 3, 223, 239: フルtutti (No. 86も参照のこと)
No. 205-206. Sadko, 173, 177: フルtutti及びコーラス. 異なるアレンジ。
No. 207-208. Christmas Eve, 184, 186: フルtutti. 2回目にのみ歌が入り、オーケストレーションも異なる。
*The Tsar’s Bride, 序曲, 1, 2, 7: フルtutti及び部分tutti (No. 179-181も参照のこと)
*The Tsar’s Bride, 141: フルtutti.
*The Tsar’s Bride, 177: フルtutti
Pan Voyevoda, 186, 188: フルtutti
*Antar, 65. No. 32も参照のこと
*No. 209. Scheherazade, 第三楽章, M: 次も参照→第一楽章A, E, H, 第二楽章K, P, R, 第三楽章G, O, 第四楽章G, P, WからY (No. 193, 194, 19, 66, 77).
*Spanish Capriccio, B, F, J, P, V, X-Z. No. 3も参照のこと
*Russian Easter Fete, F, J, Lの前, Y, 終わりまで.
*交響曲第三番, 第一楽章D, R-T, X, 第二楽章A, E, 第四楽章A, H, S.
*Sadko, 第三幕, 12. No. 258も参照のこと.

*Tuttiによる和音の例としては、第二巻末尾の譜例を参照せよ.

管楽器によるtutti

 多くの場合、木管楽器と金管楽器は自分たちだけで好きなだけtuttiを作っていられます。木管楽器に関しては本当に木管楽器だけで大丈夫なこともありますが、ホルンを伴うことの方が多いです。金管が単独でいて木管を伴わないこともありますし、この2セクションのほとんどすべての楽器が参加する場合もあります。ティンパニを初めとする打楽器が参加するのは非常によく見られるパターンで、これはトルコ行進曲と呼ばれるものを形作る組み合わせです。木管楽器でtuttiを作り、さらにそのうち重要であろう声部をチェロとコントラバスのpizz.がサポートするというのもよく見られるもので、これは他の弦楽器やハープを参加させるのでも代用できます。pizz.(あるいはハープ)が加わることによって、木管の持続音はよりハッキリしたものになります。木管とホルンによるtuttiはフォルテでもそれほど力強いものではありませんが、金管によるtuttiは抜群にパワフルな音を出します。次の例では、弦楽器や木管によるペダルノートも現れますが、これはtuttiの基本的な特徴になんら影響を与えません。

COMMENT: このような色々なタイプの部分tuttiを使い分けることは、全体的なサウンドを切り替えるのに非常に重要です。もし常に全楽器群が鳴っていたら、遅かれ早かれ色彩感が感じられなくなるでしょう。

No. 210-211. Snegourotchka, 149, 151: これら二つを比較せよ

Tsar Saltan, 14, 17, 26. (No. 182-184も参照のこと)

Pan Voyevoda, 57, 186, 262.

No. 212. Ivan the Terrible, 第二幕, 19: 第三幕の5も参照のこと

*No. 213-214. Legend of Kitesh, 294, 312: これら二つを比較せよ

*No. 215. The Golden Cockerel, 116. 82及び84も参照のこと

*Antar, 37. (No. 65も参照のこと)

Pizzicatoによるtutti

 弦楽セクション全体によるPizzicatoがある種のtuttiを作ることがあり(ハープやピアノで補強されることもあります)、木管のサポートのもとでは非常に力強い音を出すことができます。木管のサポートがない場合には非常に強いという訳にはいきませんが、それでも相当に華々しい音になります。

COMMENT: このアレンジは、打楽器的なサウンドに面白みを見出すものです。これによって木管に打楽器的な要素を加えても良いですし、あるいは息の長いパッセージにこれを加えることでコントラストを演出しても良いでしょう。

No. 216. Snegourotchka, 128の前. 153及び305の前も参照のこと

*No. 217. Russian Easter Fete, K. UVも参照のこと

Spanish Capriccio, A, C, Sの前, Pの前. No. 56に示したOも参照のこと

Mlada, 第二幕, 15.

*Sadko, 220. No. 295も参照のこと

*Legend of Kitesh, 101.

*No. 218. The May Night, 第一幕, The Mayor’s Song (村長の歌): arcoとpizz.の組み合わせ。

1から3声部のtutti

 オーケストラのおおよそ全体がユニゾンあるいはオクターブで一つか二つだけの声部を演奏する、というような場面はよく見られるものです。このようにしてメロディを演奏する場合、通常通り声部を重複してシンプルなオーケストレーションをするというのが一つの方法です。あるいはtuttiをメロディの飾りとして用いることで、音色にコントラストを付けることもできます。このようなフレーズではtuttiに持続音を加えることもあります。

COMMENT: このような飾り気のないアレンジはほんの少し使うに留めましょう。

Snegourotchka, 152の前, 174, 176.

The Tsar’s Bride, 120-121. (No. 63も参照のこと)

The Golden Cockerel, 215.

*No. 219-221. Legend of Kitesh, 142, 144, 147: 3声部のtutti. それぞれ異なるアレンジ.

*Legend of Kitesh, 138, 139: 1声部のtutti.

弦楽器のsoli

 あるフレーズが木管や金管のソロ(普通は各楽器の第一奏者)に任される例は枚挙に暇がないのに対し、弦楽器がソロで使用される例は極めて稀です。第一ヴァイオリンやチェロによるソロはまだ見かけるほうですが、ソロのヴィオラとなると本当に稀、コントラバスのソロはほぼ皆無といっていいでしょう。

COMMENT: RKの時代と比べると、ヴァイオリンとチェロ以外の弦楽器によるソロもよく使われるようになりました。

さて、ソロというものは、フレーズや表現に特に個性が求められる場合に使われるものです。これは例えば、想定しているオーケストラのレベルを超えた難しいテクニックが必要なフレーズの場合などです。この時、ソロは比較的弱い音になりますので、伴奏は軽くて透き通ったものでなくてはなりません。注意すべき点として、ソロだとしてもヴィルトゥオーソ的な極端に難しいフレーズは避けるべきだと言えます。これをしてしまうとソロ楽器に注目が集まり過ぎてしまいます。

COMMENT: ここは重要なポイントです。ソロパートがあまりに華やかだと、作りかけの協奏曲のように聴こえてしまう可能性があります。

また弦楽器の場合、セクション全体によるユニゾンとソロでは音色が大きく異なることも覚えておきましょう。このため、弦楽器では特に個性的な表現や難しい技術を必要としない場合にも、単に音色を変えるためにソロを使うことがあります。ソロ楽器を二つ合わせる(つまりヴァイオリン2台によるsoli等)ことも可能ですし、かなり稀なケースですがソロ弦楽器による四重奏を使う場面もあるかもしれません。

COMMENT: この違いが、音量ではなく音質の違いからくるものであることを押さえておきましょう。ソロの演奏はセクションによる演奏とは全く異なり、音楽に寄り添うようなロマンティックな雰囲気を作り出します。これは、「個」対「群」の違いによるものです。

ヴァイオリンソロ:
No. 222-223. Snegourotchka, 54, 275.

The May Night, pp. 64-78.

Mlada, 第一幕, 52; 第三幕, 19の前

*A Fairy Tale, W.

*Scheherazade, 第一楽章, C, G. 及び各楽章冒頭のパッセージ.

*Spanish Capriccio, H, K, R, 及びp. 38のカデンツァ.

*No. 224. Legend of Kitesh, 310: ヴァイオリンソロ. 伴奏は弦セクションsul ponticelloと木管による和声.

Snegourotchka, 274, 279: ヴァイオリン2台によるsoli. (No. 9も参照のこと)

ヴィオラソロ:
No. 225. Snegourotchka, 212.

Sadko, 137.

*No. 226. The Golden Cockerel, 163. (174, 177も参照のこと)

チェロソロ:
Snegourotchka, 187. (No. 102も参照のこと)

Christmas Eve, 29の前, 130.

Mlada, 第三楽章, 36.

*The Golden Cockerel, 177, 180. (No. 229も参照のこと)

コントラバスソロ:
*No. 227. Mlada, 第二幕, 10-12: 第一弦が低く調律された特殊な例.

ソロ四重奏:
Christmas Eve, 222: Vln., Vla., Vc.., Cb.

*No. 228. Tsar Saltan, 248: Vln. I, Vln. II, Vla., Vc.


 *弦楽器のソロを木管でユニゾン重複するパターンも覚えておきましょう。木管による重複の目的の一つは、弦のソロを(特に低音域と高音域において弦ソロの音色を変えないままに)より澄んでいて大きな音にさせることです。もちろん、音色の変化を狙って重複することもあります。

COMMENT: このようなソロはかなり珍しく、弦一人だけの時のような独特のロマンティックさは得られません。

*Mlada, 第二幕, 52: Vln. + Fl.; 第四幕, 31: Vln. + Fl. + Harp.

*Christmas Eve, 212: 2 Vln. + Fl. + small Cl. (No. 153も参照のこと)

*Pan Voyevoda, 67: 2 Vln. + 2 Ob.; 2 Vla. + 2 Cl.

*Legend of Kitesh, 306: Bass cl. + C-fag. (No. 10も参照のこと)

*Legend of Kitesh, 309: Vln. + Fl.

*No. 229. The Golden Cockerel, 179: Vln. + Picc.; Vc. + bass cl.


 *第二章で示した通り、ヴァイオリン2台によるsoliやソロヴァイオリン + Fl. (Picc.)という組み合わせは、高音域にあるメロディを重複するのに適している場合が多いです。

(No. 24.) Sadko, 207: おそらく珍しい例。ヴァイオリンが出せる限界近くの超高音を演奏.

*No. 230. Russian Easter Fete, p. 32: 2 Vln. soli (ハーモニクス)

*No. 231. Legend of Kitesh, 297: 2 Vln. Soli + Picc.

次へ

(一つ戻る)

(目次に戻る)

(管弦楽法の基本トップに戻る)