合唱の伴奏

 コーラスは一つのサウンドとして一体化し、ソロの歌よりもはるかに力強い音を出せるため、伴奏にもソロの伴奏をするときほどの注意は必要ありません。むしろ、あまりに繊細な伴奏はコーラスの響きを悪くしてしまうとさえ言えます。基本的には、合唱を含む場合でもオーケストレーションにあたっては楽器だけの場合と同じ規則に従うことになります。いうまでもなく音強記号は歌と楽器で同じにしなければなりません。音楽的に必要なのであれば、オーケストラの方を混合音色にしたり同じ楽器2つをユニゾンで重ねたりする(2 Ob., 2 Cl., 4 ホルン, 3トロンボーン等)のは全く問題ありません。楽器で合唱を重ねるのも良い結果になることが多いです。cantabileのフレーズでは、単にそのまま重複するだけでなく、オーケストラの方をよりメロディックに装飾して重ねる事もあります。

Ivan the Terrible, 第二幕, 3-6; 第三幕, 66-69.

The May Night, 第一幕, X-Y; 第三幕, L-Ee, Ddd-Fff.

Snegoutotchka, 61-73, 147-153, 323-328.

Mlada, 第二幕, 22-31, 45-63; 第四幕, 31-36.

The Christmas Night, 59-61, 115-123.

Sadko, 37-39, 50-53, 79-86, 173, 177, 187, 189, 218-221, 233, 270-273.

The Tsar’s Bride, 29-30, 40-42, 50-59, 141.

Tsar Saltan, 67-71, 91-93, 133-145, 207-208.

Legend of Kitesh, 167, 177-178.

The Golden Cockerel, 237-238, 262-264.

*オーケストラが合唱の伴奏をしている例は本書の他の部分にも多くあります。


 合唱が不連続的に叫ぶような場合やレチタティーヴォのフレーズの場合には、必ずしもこれを楽器で重複するのが良いとは言えません。このような場合は、楽器の方は単に和声的に歌声をサポートするほうが良い結果となります。

 デクラメーションでは同じ音程の音を繰り返すことがありますが、このような同音の連続がこれといってきちんとしたリズムや和声を構成しているわけではない場合、オーケストラがこれを重複してしまうのは良くありません。オーケストラの方は、そこに内包されたメロディと和声の骨格をなぞるべきです。合唱の方は、オーケストラに比べてリズムが単純化されることもあります。

No. 293. The Tsar’s Bride, 96.

No. 294. Ivan the Terrible, 第一幕, 75.


 合唱だけで完結できるアカペラのパッセージはオーケストラで重複しないことも多いです。こうした場合、オーケストラの方は単に持続音で伴奏するか、あるいは合唱とは独立して多声部的に展開することで伴奏を作ります。

No. 295. Sadko, 219.

*Tsar Saltan, 207.

*Legend of Kitesh, 167. (No. 116も参照のこと)

*The Golden Cockerel, 236.


 混声合唱の伴奏は重いオーケストレーションがふさわしいですが、男声だけの場合には混声よりもやや軽く、女声だけの場合には男性だけの場合よりさらに薄い伴奏であるべきでしょう。また、合唱のためのパッセージを書いている時は、合唱パートが何人で構成されているのかを常に意識していなければなりません。というのは、シナリオによってはコーラスの人数を少なくしなければならないことがあるからです。曲全体を通して大体何人くらいのコーラスが必要なのかは、あらかじめ総譜に記しておくのが良いでしょう。

No. 296. Ivan the Terrible, 第二幕, 37.

*Sadko, 17, 20.

*Legend of Kitesh, 61. (No. 198も参照のこと)

注: 例えコーラスが大編成の混声合唱であっても、四管編成のような大編成のオーケストラによるffにはかき消されてしまうということも忘れないようにしましょう。


 コーラスが舞台上ではなく袖から歌う場合には、伴奏はソロが舞台上で歌う時と同程度に軽くなくてはなりません。

*Ivan the Terrible, 第一幕, 25-26, 90; 第三幕, 13-14.

*The May Night, 第一幕, Xの前; 第三幕, Bbb-Ccc.

*No. 297. Sadko, 102.

*Legend of Kitesh, 54-56. (No. 196, 197も参照のこと)

ソロと合唱の組み合わせ

 アリアやレチタティーヴォを合唱と組み合わせる際には、合唱の書き方に相当の注意を払わなければなりません。女声のソロと男声合唱、あるいは男声のソロと女声合唱という組み合わせであれば、ソロとコーラスで声質が異なっていますので、ソロは十分に目立って聞こえます。しかし、ソロとコーラスが同じ性別であったり、あるいはコーラスが混声合唱であったりする場合は、ソロを目立たせるのは少し難しくなります。このような組み合わせの場合は、ソロはコーラスよりも高音域を歌うべきで、音量としてもソロはa piena voce、コーラスはpianoで歌うことになります。ソロを目立たせるため、ソロはできるだけ舞台の前側(フットライトの近く)に立つようにし、コーラスは後ろ側に回ります。伴奏のオーケストラは、合唱ではなくソロに合わせて書きましょう。

No. 298. Snegourotchka, 143.

Ivan the Terrible, 第二幕, 37. (No. 296も参照のこと)


コーラスが舞台袖から歌っている場合は、ソロはひとりでに目立って聞こえます。

Ivan the Terrible, 第一幕, 25-26.

*The May Night, 第三幕, Ccc.

*Sadko, 102, 111.

楽器の舞台上・舞台袖への配置

 アリアや楽器を舞台上や袖に置くというのは、かなり昔から行われてきています(例えばモーツァルトはDon Giovanniの第一幕フィナーレにて弦楽オーケストラを舞台上に配置しています)。さらに19世紀の中頃には、金管合奏や金管と木管の組み合わせがステージ上に現れるようになりました(Glinka, Meyerbeer, Gounodなど)。しかし、最近の作曲家はこのように楽器を舞台上に乗せるのを止めてしまいました。これは、楽器を舞台上に乗せるのは観客の側からしても良いことがなく、多くの古典オペラに見られる荘厳な舞台装置の中で楽器が悪目立ちしてしまっていたからです。現在ではこのように楽器をステージ上に上げるのは、オペラの場面の一部として楽器の登場がふさわしい場合に限られています。一方、舞台袖に楽器を置くのは、観客から見えないところですので、問題はより単純になります。ただし最近の音楽家にとって、楽器を舞台袖に上げるかどうかというのは、美的感覚に基づいて判断される類のもので、ミリタリーバンドの場合よりも大きな影響があります。基本的に楽器がオーケストラピットから出ていく場合にはステージ袖に置かれ、舞台上に上げるのは楽器自体を小道具として観客に見せたい時だけです。オペラによっては、ステージ上に見えている楽器はその時代の楽器を模したレプリカであることもあります(MladaのSacred horn等)。オーケストラによる伴奏の力強さは、舞台袖に置かれた楽器に合わせて調整しなければなりません。ただしこれについて本書で全ての例をきちんと紹介するのは不可能です。ここでは舞台袖から演奏する例をいくつか紹介するに留めますので、これ以上のことは総譜を見て勉強するようにしてください。

a) トランペット
 Servilia, 12, 25.
 *Legend of Kitesh, 53, 55, 60.
 *Tsar Saltan, 139とそのあと.

b) ホルン(狩猟用ラッパとして)
Pan Voyevoda, 38-39.

c) トロンボーン(オーケストラだけ舞台上に行かせる)
Pan Voyevoda, 191.

d) コルネット
Ivan the Terrible, 第三幕, 3, 7.

e) Sacred horn (いろいろな調を持つ自然金管楽器)
Mlada, 第二幕, pp .179以降.

f) 小クラリネットとピッコロ
No. 299-300. Mlada, 第三幕, 37, 39.

g) パンフルート
[異なる音を出す管を複数組み合わせた木管楽器。特殊な半音階スケール(シ♭, ド,  レ♭, ミ♭, ミ, ファ#, ソ, ラ)を出すようになっており、これがグリッサンドのような効果を与える]
Mlada, 第三幕, 39, 43. (No. 300も参照のこと)

h) ハープ (エオリアンハープの効果を模して)
Kashtchei the Immortal, 32とその後 (No. 268, No. 269も参照のこと)

i) リュラー (竪琴に似た楽器。減7の和音でグリッサンドできるように特別に製作・調弦したもの)
Mlada, 第三幕, 39, 43. (No. 300も参照のこと)

j) ピアノ (グランドまたはアップライト)
Mozart and Salieri, 22-23.

k) ゴング (教会の鐘を模して)
Ivan the Terrible, 第一幕, 57とその後

l) 大太鼓 (シンバルなし。大砲の音を模して)
Tsar Saltan, 139とその後

m) 小ティンパニ (第三オクターブのレ♭)
Mlada, 第三幕, 41とその後 (No. 60も参照のこと)

n) ベル(いろいろな調で)
Sadko, 128, 139.
No. 301. Legend of Kitesh, 181とその後. 241323及び323の後も参照のこと.
*Tsar Saltan, 139とその後.

o) オルガン
No. 302. Sadko, 299-300.


 金管に比べると、木管や弦が舞台上や袖に上がることは稀です。ロシアのオペラでは、RubinsteinのGoriouchaで弦が舞台袖に置かれていますし、SerovのHostile Powerではこれによって素晴らしい効果が得られています。Hostile Powerでは弦だけでなくEsクラリネットも用いられており、これが祭りの席で鳴らされる横笛を模しています。

編者注:小さなオーケストラが袖に収まっている例もあります。The May Night, 第二幕, 第一場, M-Pでは、2 picc., 2 cl., 2 horns, 1 trombone, タンバリン、4 Vln, 2 Vla, 1 Cb.という編成のオーケストラが袖から演奏しています。

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