COMMENT: 弦による和声は最も書くのが簡単で、バランスもとりやすいです。そのため、クラシックのオーケストレーションでは弦の和声が「核」になります。
まず、和声を成す声部は互いに良いバランスになっていなければならないというのは明らかでしょう。しかし、一瞬あるいは短時間鳴るだけの和音では、長く鳴っている和音に比べてこのバランスの重要性が低くなります。ですので、音が長いか短いかに応じて別々に考えることにしましょう。まず短時間の和音の場合、声部を増やすために、弦楽器群の各楽器が重音や3音、あるいは4音に及ぶ和音を演奏することがあります。対して長く鳴らす和音の場合、各パートはせいぜい重音のユニゾンかdivisiに限られます。
A. 短い和音
弦楽器では3和音あるいは4和音は素早く鳴らすことしかできません。
注:3または4和音を鳴らした場合でも、上声部2つは長時間鳴らし続けることが可能なのは確かです。しかしこれはいきなり考えるには複雑なので、あとで考えることにします。
Arcoでの短い和音は、それがフォルテまたはsfで奏され、しかも木管楽器でサポートされている時にのみ良く響きます。重音奏法によって2~4和音を鳴らす場合、バランスや音の間隔、また各声部の正しい進行といったものはそれほど重要でなくなります。まず考えるべきなのは和音自体の響き、そしてその和音が弦楽器でどれくらい容易に演奏できるかということです。またこのような和音はガット弦で出すのが最もパワフルになります。さて、普通このような重音奏法による和音は、第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ヴィオラに任され、各セクションの担当音は演奏が容易かつ良好な響きが得られるように割り振られます。低音域については、チェロが3, 4和音を奏することは稀で、普通はコントラバスを伴って和音の最低音を演奏することになります。コントラバスによる和音はチェロに輪をかけて珍しいですが、裸弦でオクターブを演奏することはあるかもしれません。
COMMENT: このような短い和音はアクセントとして使われます。このような和音を鳴らすためには、正しいポジションをとるために少し時間がかかるため、あまり高速で鳴らすことはできません。例えば4重和音を16分音符で滑らかにつないで演奏することはできません。
例
No. 97. Snegourotchka, 171. (140の前と200の前も参照のこと)
*Spanish Capriccio, Vの前. (No. 67も参照のこと)
Scheherazade, 第二楽章, P. (No. 19も参照のこと)
No. 98. Tsar Saltan, 135. (141と182の前も参照のこと)
メロディの一部に合わせて和音を加えることでアクセントやリズムを強調することもあります。
例
No. 99. Snegourotchka, 126の前. (326も参照のこと)
B. 持続またはトレモロによる和音
持続時間が長かれ短かれ、あるいは持続の代わりにトレモロを用いる場合であれ、和音を持続する場合には音のバランスが完全に整っていなければなりません。各弦楽セクションのパワーは当然揃っているものとして考えると、和声が各セクションの自然な音域順に合わせて書かれている時、密集配置の4声(+オクターブ下のバス)が均等に響くことはいうまでもないでしょう。
COMMENT: このようにアレンジするのが普通で、他の手法よりはるかに使用頻度の高いアレンジです。
上声部がバスからかなり離れていて中音域がスカスカな場合、中音域を埋めるためにはヴァイオリンとヴィオラのどちらかまたは両方を重音(2和音)にする必要があります。時々、このためにdivisiを用いることがありますが、このような場合にはdivisiは避けるべきです。というのは、ある声部はdivisiしているのに別の声部がdivisiしていないという場合、音量がアンバランスになるためです。ただし、次のように全ての弦楽器を同じようにdivisiして6声や7声の和声が書かれている場合には全く問題ありません。
Vln I (div.) | Vln I (div.) | Vln II (div.) | Vln II (div.) | Vla (div.) | Vla (div.)
COMMENT: ヴィオラだけdivisiする(その他のパートはdivisiしない)のは非常に一般的なアレンジです。ヴィオラパートは中音域の声部に埋もれているため、このアレンジは聴感上受け入れられます。全弦をdivisiするのはドビュッシーの曲に多く見られ、精緻で洗練された響きを生んでいます。
上三声部の和声がこうしてdivisiによって厚くされている場合、divisiしていないチェロとコントラバスは少し重たくなりすぎます。ですのでこれらのパートは休ませておくか、奏者数を減らすよう指示しておく必要があります。
2和音を持続させる場合や2音のトレモロをフォルテで鳴らす場合は、各声部の進行は常に和声法による規則通りになるわけでなく、最も演奏しやすいように作ります。
例
No. 100. Christmas Eve, 161: 全パートdivisi.
No. 101. Christmas Eve, 210: Vla (div.) と Vc (div.) による四声.
No. 102. Snegourotchka, 187-188: 4声。Vln I, Vln II, Vla, Vc.
Snegourotchka, 243: 4ソロ Vc (divisi)
Scheherazade, 第二楽章冒頭: 4ソロCb (divisi). (No. 40も参照のこと)
The Tsar’s Bride, 179: 全弦による和音 (No. 243も参照のこと)
No. 103. Legend of Kitesh, 8: 弦による和声
Legend of Kitesh, 240: (No. 21参照)
Legend of Kitesh, 283: 弦による和声 (No. 2も参照のこと)
No. 104. The Golden Cockerel, 4: 弦による和声
The Golden Cockerel, 125: 弦がゆるやかにリズムを打って和声骨格を成す (No. 271も参照のこと)
次の例に示すように、フォルテあるいはsfpの和音で上声の1音か2音だけを伸ばし続けるという場合にも、音のバランスを保つことは重要です。これは持続の代わりにトレモロにしても同様です。