2. 音階を持つ打楽器、鍵盤楽器
2-1 ティンパニ
ティンパニはどんな劇場にもオーケストラにも欠かせないもので、打楽器群の中で最も重要であるとさえ言えるでしょう。ベートーヴェンの頃(ベートーヴェン含む)までは主音と属音に調律された二台のティンパニが使われてきましたが、19世紀半ば以降は西ヨーロッパとロシアにおいてその規模が拡大し、作品全体を通して3台とか4台のティンパニが必要になってきました。その場で素早く調律のできるティンパニには高価なためになかなかお目にかかれませんが、ネジ式のティンパニなら良いオーケストラのほとんどで3台は所有しているはずです。また、3台のティンパニを自在に操れる良いティンパニストであれば、3台のうち少なくとも一つは適当な長さの休息中に自由に調律しなおすことができるものです。
COMMENT:ティンパニ: 今日では、プロのオーケストラは間違いなく自由に調律可能なティンパニを使っています。
ベートーヴェンの頃は、その調律音域はサイズに応じて
と考えられてきました。今日ではティンパニの種類やサイズが多岐にわたっているために高音側の限界を明確に定義するのは難しいですが、おおむね次の音域に収めておけば良いでしょう。
注:非常に小さい見事なティンパニが私の「Mlada」の為に開発されました。このティンパニは第4オクターブのレ♭まで出すことができます。
ティンパニは雷鳴のようなfortissimoからほとんど聴こえないくらいのpianissimoまであらゆる強弱を出すことができます。トレモロでは大抵のクレッシェンド、ディミヌエンド、スフォルツァンドピアノ(sfp)、モレンド(morendo)が可能です。
Timpani coperti (muffled drums)という指示があった場合、適当な布をドラムの革の上に置くことで、音を鈍く弱くします。
2-2 ピアノとチェレスタ
オーケストラでピアノを使うのは(ピアノ協奏曲を除いて)、ほぼ間違いなくロシア流派によるものです。
(英訳者注:RKのオペラ「Sadko」とムソルグスキーの「Boris Godounov」はこの点においてとりわけ興味深い)。
COMMENT:チェレスタ: 通常チェレスタはオーケストラに在籍するピアニストが演奏しますが、ピアノとは全く異なる効果が得られるものです。ピアノはアクセントを表現するのに特に役に立つ楽器ですが、チェレスタは静かな音と組み合わせることで、様々な音色に優しさや煌めきを付加することができます。
ピアノを使う目的は音色にあって、単独で、あるいはハープと組み合わせることで、グズリやリングベルのような民族楽器の音色を模倣することができます(グズリの模倣はGlinkaがやっている)。なお、ピアノがオケの一部として使用される(ソロでない)場合には、グランドピアノよりもアップライトピアノが好まれますが、最近はこうした使われ方はチャイコフスキー以降徐々にチェレスタ(celesta)に取って代わられつつあります。チェレスタはピアノの弦の代わりに小さな金属板が装着された楽器で、演奏時にはハンマーがそれを打つことでグロッケン(鉄琴;glockenspiel)に非常によく似た明るい音色を出します。ただしチェレスタが指定されている曲でチェレスタが使えないような場合には、グロッケンではなくアップライトピアノで代替します。
2-3 グロッケン(鉄琴;Glockenspiel)、チューブラーベル(鐘;Bells)、シロフォン(木琴;xylophone)
グロッケン(Glockenspielまたはcampanelli)は金属棒を組み合わせたもので、バチで叩くものだけでなく鍵盤付きのものもあります。前者の方が性能が良く、響きもいいため、今日ではバチで叩いて演奏するのが普通です。グロッケンの使い方はチェレスタと似ていますが、グロッケンの方がより輝かしい音色でよく通ります。中空の円盤や金属管からなる大きな鐘 (英訳者注:最近では、チューブラーベルは金属板を吊りさげる形になってきており、これは極めて澄んだ音を出します。これは持ち運びも容易です。)や、教会にある本物の鐘(中くらいの大きさのもの)はオーケストラというより劇場での使用に適している物でしょう。
シロフォンは木の板や筒を組み合わせた楽器で、小さなハンマー2本で叩いて使います。音色はカタカタした感じで、力強く突き抜けるようなサウンドになります。
COMMENT:マリンバ: マリンバは木琴系の音を低音域に拡張するのに非常に一般的に使われる楽器になりました。
ここで、以上のような「音階を持つ打楽器群」の一員として、弦楽器の奏法の一つであるcol legnoを付け加えておきましょう。これは弦楽器(ヴァイオリン~コントラバス)を弓の弦ではなく、弓の背中、木側で擦る奏法です。音色はシロフォンに近く、奏者の数が多い方が良い音色になります。
チェレスタ、グロッケン、シロフォンの音域は次の通りです。
3. 特定の音階を持たない打楽器
この節で考えるのは、例えばトライアングル、カスタネット、小ベル、タンバリン、ムチや杖、小太鼓、シンバル、大太鼓、ドラ(中国の鐘)といった、特定の音程を持たず、曲を装飾するためだけの楽器群です。これらは音自体に音楽的な意味がないので、今後適当に触れていきます。上に挙げた中で、最初の3つが高音、続く4つが中音、最後の2つが低音の楽器となります。このような音の高さに関する理解は、音程のある打楽器と合わせて使う時に役立つでしょう。
COMMENT:打楽器と他の楽器との組み合わせ: 打楽器を他のオーケストラ楽器と組み合わせるための基本原則は、音域をそろえる、ということです。例えばベースラインの楽器と組み合わせるならバスドラム、ティンパニ、タムタム等になりますし、ピッコロならチェレスタやシロフォン等との組み合わせになります。この原則を破ってしまうと、二つの音色が混ざり合わずに聞こえてくることになり、打楽器とオーケストラ楽器との関係性が見えなくなってしまいます。