A. 弦楽器

 下の表は今日のオーケストラにおける弦楽器群の編成(人数)を示したものです。

  大編成 中編成 小編成
第一ヴァイオリン 16 12 8
第二ヴァイオリン 14 10 6
ヴィオラ 12 8 4
チェロ 10 6 3
コントラバス 8-10 4-6 2-3

 もっと大きな編成では第一ヴァイオリンが20人や24人にもなることもあり、その場合は他の弦楽器も比例して増えていきます。しかしそのような大編成になった場合、木管楽器の方も弦にかき消されないように強化する必要があります。反対に第一ヴァイオリンの数が8人に満たない場合というのもありますが、これはよくありません。これでは弦と木管のバランスが完全に崩れてしまいます。さしあたって、オーケストラを書く際には中編成を想定するのが望ましいでしょう。そうしておけば、大編成のオケで演奏された時にはより魅力的に聴こえるでしょうし、小編成のオケに演奏された時のダメージも最小限に抑えることができるはずです。

 弦楽器群が6パート以上必要な場合には、各セクションを2つや3つ、時には5つ以上に分けることができます。これをdivisi(略div.)といいます。基本的にはコントラバスはdivisiせず、それ以外の4パートから一つあるいは複数をdivisiします。この時、奏者は例えば席(譜面台、プルトとも。一つの譜面台を二人でシェアする)順に数字を割り振って奇数番目の席の奏者が上のパート、偶数番目の奏者が下のパート、となったり、あるいは各席の右側に座る奏者が上で左側の奏者が下を演奏する、という風になったりします。3つへのdivisiはより難しくなります。奏者の数が常に3等分できるとは限らないため、パート間のバランスを良好に保つのが難しくなってしまうからです。

COMMENT: divisiと重音奏法の使い分け: リムスキーは弦楽器の分割法を色々紹介していますが、divisiと重音奏法をどのように使い分ければ良いのかについては触れていません。重音奏法で演奏できるかどうかで使い分けるのは自明として、それ以外には次のように使い分けます。
  重音奏法: 強いアクセントが欲しい場合
  Divisi: 音を薄くしたい場合
 一台の弦楽器で同時に2音以上鳴らすと、必ず多少なりリズムが乱れます。特に3和音以上の場合は演奏前にちょっとした準備時間が必要になるでしょう。また、一台の楽器による和音が全く同時に発音するということはあり得ません。従ってこのような重音は、非常に速いフレーズに参加することもレガートが大事になるフレーズに溶け込むこともできません。一方、強いアクセントが求められている場合には、重音奏法による和音は音に強烈なパンチを与えてくれます。クラシックの作曲家がこのような重音奏法による4和音を速いパッセージに指定している場合、指揮者の方で2×2のdivisiに変更しているはずです。

とはいえ、演奏バランスを指揮者に任せてでも3つ以上のdivisiを使うべき場合というのは存在します。この時、divisiを指揮者任せにするだけでなく、どのように分けるかまで楽譜に書きこんでおく(Vln I, 1, 2, 3 desksとか6‘Cellos div. a 3など)のもいいでしょう。4つ以上にdivisiすることは稀ですが、弱音のパッセージの場合にはこれによってものすごく音量を落とすことができます。

注意:小編成のオーケストラでは、divisiによって分けられすぎたパッセージの演奏は難しく、得られる効果も想定と違ってきてしまいます。

 よく使われるdivisiのパターンは以下の通りです。

注:bとeが音質的にほとんど同じなのは自明でしょう。しかしそれでもbの方が好まれます。それは、第二ヴァイオリンの人数(14-10-6)がヴィオラのそれ(12-8-4)と実質的に同じで、かつ楽曲の中での役割も似ているためです。また、第二ヴァイオリンは第一よりもヴィオラに対して近い位置に座っているので、一体感が出やすいのです。

 divisiの様式については第二巻の曲例の中で全て見ることができるでしょう。必要に応じてまた説明していきます。ここでは、基本となる弦楽器群がどう変化させられるかということだけ掴んでもらえれば十分です。

 さて、弦楽器には、オーケストラで使われる他のどんな楽器群よりも多くの奏法があります。また強弱の連続的な変化も他の楽器群より得意で、その意味で奏法は無限大にあり得ます。レガート、デタシェ、スタッカート、スピッカート、ポルタメント、マルテラート、軽いスタッカート、サルタンド、といったボウイングそのもののやりかただけでなく、ボウイングする位置やボウイング方向(アップボウイング、ダウンボウイング)の変化によっても音色を変え得ます。また、フォルテッシモ、ピアニッシモ、クレッシェンド、ディミヌエンド、スフォルツァンド、モレンド、といったあらゆる強弱が可能です。このような膨大な表現のどれもが、弦楽器群ではたやすく行えるのです。

 ちなみに、これら弦楽器群は一台の楽器でも(つまり一つのセクションがdivisiすることなく)和音を鳴らすことができますから、弦楽器群は単にメロディだけでなく和声的にも使われます。

 運動性と柔軟性は弦楽器の中でヴァイオリンが一番高く、音域の低い楽器になるにつれて低下していきます。なお、実用的な最高音は下の通りです。

これより高い音を使う際には十分注意すべきで、ロングトーンやトレモロ、流れるようなフレーズ、それほど早くないスケール、同じ音の繰り返しといったところでのみ可能となります。超高音を含む跳躍は避けましょう。

注:早くて半音階的なパッセージを長く続けるというのは弦楽器に全く適していません。演奏が難しいばかりか、音も不明瞭でよくわからなくなります。そのようなパッセージは木管にやらせましょう。

 音域について補足ですが、低い方の三つの弦でやたらに高い音を出すことのないようにしましょう。具体的には、開放弦から見て1オクターブ上かもう一全音までにとどめるようにします。これらの音は、運指として既に第4ポジションに達しています。

 次に音色に着目しましょう。弦楽器特有の気品、暖かさ、また幅広い音域における音色均一性というのは弦楽器全てに共通した性質で、このことが、弦楽器群を他の楽器群よりも優れたものにしています。しかも、各楽器が(言葉では説明できないような)独特の音色を持っているのです。あえて言えば、ヴァイオリンの高音弦(E)は華やかな音ですし、ヴィオラの最高弦(A)というのはよりヒリヒリしていて、ほんの少し鼻にかかったような音になります。チェロの場合は、最高弦(A)は明るく、胸声のような音色を持っています。ヴァイオリンのA弦とD弦(真ん中二つ)、またヴィオラとチェロのD弦(二番目に高い弦)はなんとなく甘く、弱々しい音色です。巻線(ヴァイオリンのG弦、ヴィオラとチェロのG弦とC弦)の音色はややザラついています。一般的にコントラバスは全弦で同じような響きで、強いて言えば低い方の2つの弦(E弦とA弦)はやや鈍く、高い方の2つ(D弦とG弦)の方がやや通る音です。

注:通奏低音の場合を除いて、コントラバスが独立したパートを奏することはあまりありません。たいていの場合、チェロかファゴットにそのままあるいはオクターブ違いで重ねて使います。ですので、コントラバスの音が直接聴こえてくることはめったになく、弦ごとの音色の違いもそれほど気になりません。

 さて、弦楽器には、音を連続的につなげられるという稀有な能力、またビブラートによって生まれる暖かさや気品がありますので、メロディの表現力という点では他のセクションと比較にならないほど優れています。ただし、弦楽器群の音域というのは人声よりも広い(ヴァイオリンの最高音はソプラノの限界(下図a)より高く、コントラバスの最低音はバス(下図b)より低い)にも関わらず、これらの音域では音色の暖かさや表現力が失われてしまいます。また開放弦ではクリアで力強いサウンドが得られますが、表現の点では弦を押さえて出す音に劣ります。

 ちなみに、各弦楽器と人の声との出しうる音域を比べてみると、次のようになるでしょう。ヴァイオリン→ソプラノとアルト、それプラスかなり高い音;ヴィオラ→アルトとテナー、それプラスかなり高い音;チェロ→テナーとバス、それプラスすこし高い音;コントラバス→バスともっと低い音。

 音色の話に戻りましょう。弦楽器は、ハーモニクス、弱音器、あるいは他の特別な装置を使うことで共鳴の仕方や音色を変えられます。これは全弦楽器で共通です。

 ハーモニクスは今日では頻繁に用いられるテクニックですが、これによって弦楽器の音色は大きく変わります。柔らかなパッセージにおける冷たく透明感のある音、強く奏した時の冷たく華麗な音、あるいは表現がほとんどできないような音でもって、オーケストレーションを装飾することができます。ただしハーモニクスは響きが弱いですから、むやみに使うのは避け、また使う時には他の楽器にかき消されないように注意しなければなりません。また原則として、伸ばした音、トレモロ、あるいはところどころで音を華麗に装飾するような場合にのみ使います。極端にシンプルなメロディにおいてはほとんど用いられません。またハーモニクスの音色はフルートとよくなじむので、弦楽器と木管楽器の橋渡しのように言われることもあります。

 弱音器の使用も、音色を根本的に変えてしまいます。弱音器を付けることで、弦楽器の澄んだ歌うような音色は、柔らかなパッセージでは鈍い音に、強く奏すれば少しシュッとした音や笛のような音になります。いずれの場合も、音量はかなり低下します。

 ボウイングする場所も楽器の共鳴に影響を与えます。駒に近い位置で演奏する(sul ponticello; 主にトレモロで使う)と金属的なサウンドに、指板に近い位置で演奏する(sul tasto, flautando)とぼんやりしたヴェールのかかったようなサウンドになります。

注:弓の背中側で弾く(col legno)ことでも、音色を完全に変えることができます。この場合、サウンドはシロフォンとかpizzicatoを虚ろにしたような感じになります。音はほとんど持続しませんので、「音が伸ばせない楽器」の項で改めて議論します。

 弦楽器の5つのセクションは最初に述べたような人数で演奏されるわけですが、この人数配分はバランスの取れた音を作り出すようになっています。より弦楽セクションを強く聴かせたい場合は、第一ヴァイオリンを増やすようにします。というのは、第一ヴァイオリンが担当するのは和声の中でも特に重要な声部であることが多く、他の声部よりもはっきりと聴かせたいからです。そもそも、第一ヴァイオリンの人数が追加されることは珍しくありません。これによって、(一般論として)第一ヴァイオリンは第二ヴァイオリンよりもパワフルな音色になります。第二ヴァイオリンはヴィオラと共に副次的な声部を演奏するため、突出して目立つことはありません。チェロとコントラバスはよりはっきりと聴こえ、多くの場合オクターブでベースラインを奏します。

 まとめると、弦楽器群はメロディとしてはどんなパッセージも演奏することができます。すばやく途切れるようなフレーズもOKですし、全音階も半音階も演奏できます。3音とか4音の和音の演奏も難しくありません。表現の幅も無限大で、divisiによってパートを分けることも容易です。ということはオーケストラにおいて、弦楽器群はメロディ担当としても和声担当としてもとりわけ豊かな音資源と考えられるでしょう。

 最後にこの節のまとめとして、それぞれの弦楽器の音域を下図にまとめます。

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