弦の短い和音を、そのまま長く伸ばしてもいい?
弦で短く鳴らした和音がよく響いたので、同じ音をそのまま長く伸ばす。音符の長さを変えるだけに見えますが、弦の和音では、奏法とバランスを改めて考える必要があります。
とくに、一人が三つ、四つの音を鳴らす和音は、短いアクセントとして扱うことが基本です。長く保ちたいなら、何の音を残し、誰が受け持つかを決め直します。短く打つ和音と、持続して聞かせる和音は、同じ配置のまま交換できるとは限りません。
最初に、和音の役割を決める
短い和音は、アクセントやリズムを強調するために使われます。メロディの一部に合わせて鳴らすことで、その瞬間へ力を加えることができます。この場合、和音は一瞬の出来事として働きます。
持続する和音では、鳴り始めた後も、それぞれの音が響きの中に残ります。和声の背景を保つ役割なら、各声部の釣り合いや、全体のまとまりが重要になります。始まりの勢いだけでは、長い響きを整えられません。
したがって、同じ和音を使う場合も、短く強調したいのか、長く支えたいのかを先に決めます。使いたい音名だけでなく、時間の中でその音が何をするかを考えるのです。
三音、四音の和音は、短い打撃として考える
一人の弦楽器奏者が三音、四音の和音を鳴らす場合、すべての音を同じように長く保つのではなく、素早く鳴らす和音として扱います。短い音符で書いた和音を、全音符へ置き換えるだけでは、同じ構成音がそのまま持続するとは考えられません。
短いアルコの和音は、フォルテやスフォルツァンドで、木管の支えを伴うときに効果を発揮します。ここでは、細かな声部の釣り合い以上に、和音自体の響きと、弦で容易に演奏できる形かどうかが重要になります。
この「容易さ」は、音域の中にすべての音があるというだけでは判断できません。同時に鳴らす和音として、奏者が扱いやすい組み合わせであるかを考えます。単音なら出せる音を集めたから、和音としても同じように使えるとは限らないのです。
短ければ、どれだけ速く並べてもよいわけではない
短い和音という言葉から、三音、四音の和音を細かく連続させればよい、と考えないようにしましょう。重音の和音を鳴らす前には、正しい位置を取るための準備が必要です。
そのため、四重和音を十六分音符で滑らかにつなぐような書き方は、短いアクセントとしての性質に合いません。一つ一つが短くても、間に必要な準備の時間がない場合があります。
音の長さと、音から次の音までの余裕は別です。 アクセントを打つ和音なのか、連続した滑らかな線なのかを区別します。重音とdivisiの選択については、弦の和音の分け方の記事で詳しく説明しています。
どのセクションも同じ和音にする必要はない
短い重音の和音は、一般に第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ヴィオラが受け持ちます。それぞれが、演奏しやすく、よい響きを得られる音の組み合わせを担当します。
低い側では、チェロに三音、四音の和音を任せることは稀で、通常はコントラバスとともに最低音を支えます。上の弦と同じ密度の和音を、すべてのセクションへ並べる必要はありません。
これにより、上の和音による強調と、下の支えを分担できます。総譜の各段を均等に厚くすることではなく、全体として必要な和音の響きを作ることが目的です。
長く伸ばすときは、声部の釣り合いを整える
持続する和音では、音のバランスを整える必要があります。これは、ゆっくり伸ばす場合だけでなく、トレモロで和音を保つ場合にも当てはまります。音を細かく反復していても、和声として持続していることに変わりはありません。
弦の各セクションが自然な音域順に並び、密集配置の四声と、その一オクターブ下のバスを作る形は、均等な響きを得るための基本になります。弦の和声を組み立てる際の、よく使われる土台です。
短い和音では目立ちにくかった偏りも、持続すると響きの中に残ります。一つの声部だけが強い、低音だけが重い、内声が弱いといった関係を、音の長さを変えた後に改めて確認してください。
持続する音は、重音かdivisiかを選ぶ
長く鳴らす和音では、各パートを二音の重音にしたり、奏者を分けるdivisiを用いたりします。三音、四音を一人に任せた短い和音と、同じ前提で考えないことが大切です。
divisiでは、一つのセクションの奏者が複数の声部へ分かれます。そのため、音符が増えても、一つ一つの音を担当する人数は減ります。音の数が増えることと、各声部が強くなることは同じではありません。
上の弦だけを分けたときには、分けていないチェロやコントラバスが重くなりすぎる場合があります。これは持続和音のバランスに直接関わる問題です。詳しくは、上の弦をdivisiにすると低音が重くなる理由で扱います。
和音の始まりと、その後を分ける方法
短い和音を打った後に、上の一音または二音だけを残す方法があります。最初に鳴らす構成音と、その後に持続する構成音を分ける書き方です。
これなら、和音の始まりには強いアクセントを作り、その後には別の持続した響きを保てます。ただし、下の音が消えた後に何が残るかを、最初から設計する必要があります。
「三音、四音を長く伸ばせないなら、何となく上だけ残せばよい」ということではありません。持続部分にも、音の釣り合いを保つ条件があります。始まりがよく響いても、その後の和音が片寄っていれば、全体としては整いません。
原図で、短い音と残る音を見分ける
次の原図は、和音の上側を保つ書き方を示しています。左にはスフォルツァンドの後に弱くする指定があり、右にはフォルテのトレモロの例があります。どの音に長い音価やタイが付き、どの音が短く終わるかを見てください。

第一・第二ヴァイオリンでは、下側の短い音と、上側の長く残る音が書き分けられています。ヴィオラやコントラバスも合わせて、最初の一瞬と、その後に続く和音がどう変わるかを読みます。
右の例では、上の音にトレモロの記号が付いています。トレモロに変えたから、最初の和音の全構成音を同じように保てるわけではありません。どの音が残るかという設計は、やはり必要です。
この図を使って考えるときは、「最初に鳴る音」と「その後に鳴り続ける音」を二つの状態として分けてください。一つの和音記号ではなく、時間とともに変わる響きとして読むことが、奏法とバランスを結び付ける鍵になります。
トレモロは、バランスの問題を免除しない
持続音をトレモロへ変えると、響きの動き方は変わります。しかし、和声を保つ役割で使うなら、どの声部が強く、どの声部が弱いかという問題は残ります。
二音の重音や二音のトレモロをフォルテで使う場合には、演奏しやすい形を考えることも重要になります。譜面の上で整った進行に見えるだけでなく、弦楽器として扱える書き方にする必要があります。
つまり、持続の長さ、和声の進行、演奏のしやすさを別々に放置できません。どれか一つを満たせば完成ではなく、その和音の役割に応じて、三つを合わせて考えます。
中音域が足りないときにも、持続の条件を見る
持続和音で上声とバスが離れ、中音域が薄い場合には、ヴァイオリンやヴィオラを二音の重音にして、必要な音を受け持たせる方法があります。このときも、短い三音、四音の和音を置くのとは、奏法の条件が異なります。
同じ場所をdivisiで埋めるなら、分割によって一声あたりの人数が減ることを考慮します。音域の空白を埋めるという目的は同じでも、重音とdivisiでは、残る音の力が変わります。和音の構成音をそろえるだけでなく、それぞれの音がどれだけの力で持続するかまで確認する必要があります。
短い和音を長くしたいときの判断
まず、和音のすべての構成音を持続させたいのか、上声だけを残せば目的を満たすのかを決めます。全音を長く保ちたいなら、各セクションへの配分やdivisiを含めて、持続に合う書き方を考え直します。
上の一音、二音だけを残すなら、残った音と、ほかのセクションの音を合わせて確認します。下の短い音が消えた後に、どこが支えとなり、どの声部が前に出るかを見ます。
次に、トレモロにするか、通常の持続音にするかを選びます。どちらでも釣り合いは必要です。最初のアクセントと、その後の和声を別々に点検することで、音価を伸ばしただけでは分からなかった問題を見つけられます。
同じ和音でも、別の役割なら書き直す
短く鳴らして成功した配置は、その短さを含めて効果を持っています。そこから音を長くすることは、単なる小さな変更ではなく、和音の役割を変える場合があります。
だからこそ、短いアクセントに合う重音を、長い背景へそのまま持ち込まないことが大切です。始まりの力が欲しいのか、長く均等に支えたいのか、あるいはその両方を時間で分けたいのかを考えます。
弦の和音は、音名だけでなく、音の続き方によって書法が変わります。鳴り始めの一瞬と、その後に残る響きを分けて設計すること。 そうすれば、短い和音の勢いを生かしながら、持続する部分も無理なく整えられます。
短い発音と持続する響きの役割を分ける考え方は、sfzからpへ変化させる場面にも応用できます。詳しくは、sfzからpへの変化を、楽器の配分で作るには?をご覧ください。
弦の重音とdivisiによる和声を詳しく学ぶには、『管弦楽法の基本』の書籍版・PDF版へ。
この記事は『管弦楽法の基本』の記述・補足に基づく解説です。参照:弦楽器による和声。重音とdivisiの奏法上の性質については、第一章の弦楽器の節も参照しています。Amazonへのリンクにはアソシエイトリンクを使用しています。

