【会話で学ぶ】静かな曲に緊張感を出すには?弦の旋律とトレモロ伴奏の分担

緊迫した場面を作ろうとして、つい音量を上げてしまう。けれども今は、静けさを保ったまま切迫した旋律を聴かせたい。原典が《皇帝の花嫁》練習番号84について示す弦の配分を手掛かりに考えます。

クマニコル:博士、弦で緊迫した場面を書きたいのですが、強くすると、すぐ大きな山場のようになってしまいます。まだ静かなままにしたいんです。

リムコフ博士:クマ君、「劇的であること」を大音量だけに任せなくてもいい。《皇帝の花嫁》には、苦悩に満ちた劇的な旋律を、第一ヴァイオリンがピアニッシモで奏する例があるよ。

クマニコル:ピアニッシモなのに劇的なんですね。では、伴奏をほとんど無くして、旋律だけにするのでしょうか。

リムコフ博士:その例には和声的な伴奏がある。中音域を第二ヴァイオリンとヴィオラのトレモロが受け持ち、低音をチェロが支えている。小さくすることと、伴奏の役割をなくすことは同じではないんだ。

第1ヴァイオリンの旋律と、内声のトレモロ・低音を分ける

《皇帝の花嫁》練習番号84について、原典本文が説明する担当関係です。音符を再現した譜例ではなく、楽器と役割を整理した表です。

役割・位置楽器と鳴らし方
旋律第一ヴァイオリン。苦悩に満ちた劇的なピアニッシモの旋律。
中音域の和声的伴奏第二ヴァイオリンとヴィオラ。ともにトレモロ。
低音チェロ。上の旋律と中音域の伴奏を下から支える。

クマニコル:第一ヴァイオリンもトレモロにするのではなく、旋律は旋律として歌わせるんですね。

リムコフ博士:そこを分けて見よう。聴いてほしいのは第一ヴァイオリンの線で、第二ヴァイオリンとヴィオラは和声の背景を作っている。すべての弦に同じ仕事をさせる必要はない。

クマニコル:トレモロにすれば、その和声が別の旋律のように聞こえるのですか。

リムコフ博士:この例では和声的な伴奏だよ。細かい動きがあっても、別の主旋律を次々に加えているわけではない。旋律の流れと、背景にある動きとを分担させているんだ。

クマニコル:伴奏を動かしたいからといって、新しい旋律を増やす必要はないんですね。

全員をトレモロにすれば、もっと緊張する?

クマニコル:ならば、チェロも第一ヴァイオリンも、全部トレモロにするともっと効果が強くなりませんか。

リムコフ博士:それは別の配分になるね。いまの例の良さを考えるなら、まず何が旋律で、何が中音域の和声で、何が低音なのかを保って読むことだ。指定を全員へ広げることが、効果を深めることと同じとは限らない。

クマニコル:中音域だけがその動きを受け持っていることにも意味がある。トレモロという言葉だけ抜き出すと、見落としますね。

リムコフ博士:そうだね。それに、トレモロの和音も持続する和声として釣り合いを整える必要がある。細かく反復しているから、音の配置や声部間のバランスを考えなくてよいわけではないよ。

クマニコル:静かに指定しても、背景が旋律を隠してしまったら困りますね。

リムコフ博士:そのとおり。弦には広い強弱表現の幅があるけれど、旋律を聴かせる条件は配分の中に作る。第一ヴァイオリンの線が前にあり、その後ろに和声があるという関係を確認しよう。

トレモロにしたら、不安な音楽が完成するわけではない

クマニコル:静かな緊張感には、第二ヴァイオリンとヴィオラのトレモロ。この組み合わせを覚えておきます。

リムコフ博士:候補として覚えるのはよいが、どんな旋律でもそれだけで同じ感情になると思ってはいないかな。

クマニコル:たしかに、明るい曲へ同じ伴奏を付けても、同じ苦悩が生まれるとは言えませんね。

リムコフ博士:この例では、苦悩に満ちた旋律と、その和声、弱い響き、各部の担当が一緒に働いている。学びたいのは、特定の奏法を感情の印にすることではなく、劇的な旋律を小さな響きのまま支えられる配分なんだ。

クマニコル:自分の曲で試すなら、何から決めますか。

リムコフ博士:まず、どの線を聴かせたいかを決める。その旋律を第一ヴァイオリンに置く案なら、第二ヴァイオリンとヴィオラへ和声のトレモロ、チェロへ低音を配る形を検討できる。ただし、音域や和声進行は自分の旋律に合わせて確かめよう。

強くする前に、各部の仕事をはっきりさせる

クマニコル:静かだから迫力がない、と決めつけず、旋律と伴奏の関係を作るんですね。伴奏には動きがあっても、主役まで一緒に揺らす必要はない。

リムコフ博士:うん。今回の答えは、第一ヴァイオリンの弱い旋律を、中音域のトレモロとチェロの低音で支える配分だ。音量を上げる前に、こうした役割の組み合わせで、求める静かな緊迫感へ近づけるかを考えてみよう。

持続する弦の和音の書き方は、「弦の短い和音を、そのまま長く伸ばしてもいい?」で、原図とともに解説しています。

出典:『管弦楽法の基本』第二章「メロディ」弦楽器によるメロディ、第一章「弦楽器」、第三章「弦楽器による和声」。作曲場面を設定した会話は、記述をもとに構成しています。

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