弦の和音は、divisiと重音をどう使い分ける?
弦楽器に和音を任せるとき、音符を決めただけでは、欲しい響きまでは決まりません。一人の奏者が複数の音を弾く重音奏法と、奏者を分けて別々の音を担当するdivisiでは、発音の仕方も、一つの音を支える人数も違うからです。
強く打ち出す和音なのか、薄くつながる和声なのか。その役割から考えると、使い分けの理由が見えてきます。
和音の使い分けでは、演奏可能かどうかに加えて、発音の勢い、音のつながり、一音を支える人数を見ていきます。まず欲しい響きを決め、その響きに合う奏法と人数配分を選びましょう。
同じ和音でも、音を鳴らす仕組みが違う
たとえば一つのセクションに二つの音を与える場合、全員が両方の音を弾く方法と、奏者を二組に分けて一音ずつ弾く方法があります。前者が重音、後者が二分割のdivisiです。
譜面に並ぶ音高が同じでも、各奏者の仕事は同じではありません。重音では一人が複数の音をまとめて扱い、divisiでは分かれた奏者がそれぞれの声部を受け持ちます。
この違いから、二つの判断を分ける必要が出てきます。第一は、その音の組み合わせを重音として演奏できるか。第二は、演奏できるとして、その重音の性質が音楽に合うかです。
「弾ける和音だから重音にする」だけでは後者が抜けます。反対に、和音が書かれているから機械的にdivisiにするのも、和音を強く打ち出す可能性を初めから捨てることになります。
強いアクセントを求めるなら重音、音を薄くしたいならdivisiが選択の目安になります。これは、すべての場面で片方を優先する規則ではありません。奏法の選択に先立って、和音のどの性質を聴かせたいかをはっきりさせるための出発点です。
重音の「ずれ」は、アクセントにも制約にもなる
一台の弦楽器で複数の音を鳴らすと、発音に多少の時間的なずれが生じます。とくに三音以上の和音では、全音が完全に同時に鳴り出すとは考えられず、弾く前の準備も必要です。
鍵盤上の和音を一つの塊として想像するだけでは、この立ち上がりを見落とします。
ところが、その性質は必ずしも欠点ではありません。フレーズの要所で強いアクセントを作りたいときには、重音による打ち出しが力になります。ここで欲しいのは、各音を別々の旋律として滑らかに追わせることよりも、和音全体に勢いを与えることです。
多少の発音のずれを含む鳴り方が、音楽の狙いと結び付く場面なのです。
一方、非常に速い音の連続や、レガートを大事にしたいフレーズでは、同じ性質が制約になります。強い一撃として有効な和音を、そのまま細かな音価で並べても、必要な準備や発音の仕方が消えるわけではありません。
速いパッセージでは、四音の和音を二音ずつのdivisiへ変更すると、各奏者が受け持つ音を減らして流れに参加させられます。
ここから引き出せる判断は、「強い音が欲しいから重音」と即決しないことです。アクセントが必要でも、その前後の速さやつながりと両立するかを見ます。短く区切られた和音なのか、一連の流れに参加する和音なのかによって、同じ音の組み合わせでも選択は変わります。
divisiで増えるのは声部であって、奏者ではない
divisiの利点は、セクションを分けて声部を増やせることです。通常の五つの弦楽セクションで六声以上を演奏したいときには、各セクションを二つ、三つ、必要ならさらに細かく分けられます。
ただし、声部が増えた分だけ奏者が追加されるわけではありません。一声部を支える人数は減ります。
仮に十二人のセクションを二等分すれば、それぞれ六人です。これは人数の説明であり、音量が正確に半分になるという計算ではありません。しかし、一つの音を全員で弾いていた状態と、各音を六人ずつで弾く状態を同じ厚みとして扱えないことは明らかです。
音符が増えて譜面が密になっても、一音ごとの支えはむしろ小さくなります。
この点は、divisiによって音を薄くしたい場合には目的に合います。弱いパッセージでは、細かな分割そのものを音量を落とす手段として使えます。したがって、人数の減少を常に避けるべき損失と見る必要はありません。
分割後の薄さを欲しいのか、それとも厚みを保ったまま声部だけ増やしたつもりなのかを区別することが大切です。
また、上の弦を分け、下の弦を分けずに残した場合には、弦楽器群の内部の釣り合いも変わります。ここでの中心は重音とdivisiの選択なので、低音との具体的な調整は「上の弦をdivisiにしたら、低音だけ重くなった?」で扱います。
分割の指定は、一つの五線の中だけで完結するものではないのです。
二分割と三分割では、人数の問題が違う
二分割には、譜面台ごとに割り振る方法と、一つの譜面台を使う二人で分担する方法があります。譜面台ごとに奇数と偶数で上下の声部を分ける方法、あるいは右側の奏者と左側の奏者で分ける方法です。
どちらも、divisiという指定を実際の奏者の配置へ置き換える考え方です。
三分割になると、人数がきれいに三等分できるとは限りません。十人を三組に分けるなら、全組を同じ人数にはできないという単純な問題が生じます。譜面上では三つの声部が同じ見た目で並んでいても、実際に受け持つ人数は揃わないことがあります。
三声を同じように聞かせたいときには、この人数の違いも見込んでおきましょう。
だからといって三分割を避けなければならないわけではありません。必要な響きがある場合には使い、そのうえで演奏上の配分を考えます。どの譜面台を使うか、あるいは六人のチェロを三分割するか、といった具体的な指示を譜面に書き込むこともできます。
指揮者に調整を任せる部分があっても、作曲者が意図する分け方まで曖昧にする必要はないのです。
人数の配分を細かく指定することは、強弱記号を細かく増やすこととは別の働きを持ちます。まず何人が各声部を担当するのかという土台を明確にし、そのうえで響きの均衡を考える。
三つ以上の声部が必要な場合には、この順番で譜面を読み直すと、音符だけを見ていたときには気付きにくい条件が見えてきます。
図で比べる「どのセクションを分けるか」
次の図で、複数のセクションを分割する組み合わせを比べてみましょう。とくにbとeを比べると、どちらもヴィオラを分けていますが、組み合わせるのが第二ヴァイオリンか第一ヴァイオリンかで異なります。
両者の音質はほとんど同じですが、実際の配分としてはbが好まれます。
理由は、第二ヴァイオリンとヴィオラの人数が比較的近く、音楽の中での役割も似ていることです。さらに、図の前提となる配置では第二ヴァイオリンの方がヴィオラに近く、一体感を得やすいという利点があります。
これは、同じ音をどの楽器名へ割り当てるかだけでなく、奏者集団の人数、役割、位置まで含めて分割を選んでいる例です。
図を読むときは、すべての型を暗記するより、変更すると何が変わるかに注目すると役立ちます。第一ヴァイオリンを分ける案から第二ヴァイオリンを分ける案へ移すと、どの集団の人数が減り、どの集団が元のまま残るのか。
この見方なら、図を自分の曲へ当てはめる際にも、型の外見だけを移すことになりません。

小編成では、細かく分けた後の姿まで考える
小編成のオーケストラで細かいdivisiを多用すると、演奏が難しくなり、想定した効果とも違ってきます。大きなセクションなら複数の奏者で支えられる声部でも、少人数では一声部に残る人数がわずかになるからです。
「divisiを指定すれば同じ響きが小さくなる」とだけ考えるのは不十分です。
同じ三分割でも、十二人を分ける場合には一声部四人、六人を分ける場合には一声部二人になります。分割数が等しくても、一つの声部を支える人数は違うのです。ここで実際の譜面に生かしたいのは、特定の人数を絶対条件にすることより、分割前のセクションの大きさによって分割後の条件も変わる、という視点でしょう。
たとえば、三声を必要とする理由が和声の各音を保つためなら、まず三声それぞれを誰が受け持つかを見ます。薄い弱音の効果が目的なら、その薄さが意図に沿うかを考えます。
どちらも三分割ですが、点検すべき中心は違います。分割数そのものを効果の名前のように扱わず、人数と音楽上の役割を一緒に確認することが必要です。
和音の音高から、発音と持続まで読み直す
最後に、一つの和音について三つの問いを立ててみましょう。まず、強く打ち出すのか、薄くつなぐのか。次に、その速度と前後のつながりに重音の発音が合うか。そしてdivisiを選ぶ場合、分けた各声部に何人が残り、周囲の声部との釣り合いがどう変わるかです。
この順番なら、演奏可能な音高を選んだ後にも考えるべきことがあると分かります。
とくに、短い和音でうまくいった書き方を長く伸ばしたい場合は、改めて検討が必要です。発音の瞬間に力があることと、すべての声部が持続して均衡することは別だからです。
この点は「弦の短い和音を、そのまま長く伸ばしてもいい?」で、持続する和声の問題として説明しています。
重音とdivisiを選ぶとは、和音を簡単に弾けるようにするだけの作業ではありません。同じ音符から、どのように立ち上がり、どれほどの厚みを持ち、どのようにつながる音を作るかを決める作業です。
和音を一度音符の集合から奏者の仕事へ読み替えると、奏法の指定にも具体的な理由を持たせられます。
弓で奏する和音と、弦をはじく和音では、発音や続けられる速さが異なります。奏法を替えるときの判断は、ピッツィカートは、弓で弾く旋律をそのまま置き換えられる?をご覧ください。
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この記事は『管弦楽法の基本』の記述・補足に基づく解説です。参照:管弦楽法の基本 第一章 「オーケストラにおける楽器群について」 弦楽器。Amazonへのリンクにはアソシエイトリンクを使用しています。

