ピアノ譜を管弦楽にすると、中間が空っぽに感じるのは?
ピアノでは充実していた和音を、そのまま管弦楽へ配ったのに、上の旋律と低音の間が空っぽに感じられる。楽器は増えたのに、響きが一つにまとまらない。そんなときは、右手と左手の距離を、そのまま総譜へ持ち込んでいないか確認してください。
ピアノ曲では、右手の上三声と左手のバスが、一オクターブ以上離れていることがよくあります。管弦楽へ移す際には、この中間の音域をどう扱うかが重要になります。音符をすべて楽器へ割り当てることと、オーケストラの和声を配置することは、同じ作業ではありません。
右手と左手を、二つの楽器群へ配るだけでは足りない
右手を木管、左手を低い弦へ、というように分けると、各楽器の担当は決まります。しかし、それだけでは、二つの群の間にある音域をどうまとめるかまでは決まりません。
元のピアノ譜に音が書かれていない場所を、そのまま空けておけばよいとは限らないのです。特に強く鳴らす場面では、上声と低声を広く離しすぎた配置が、空虚な響きにつながります。
そこで、右手と左手という見た目の区分から一度離れ、上声、内声、バスがどのような関係にあるかを見ます。ピアノの二段を、オーケストラの二群へ機械的に置き換えるのではなく、和声の線として読み直すことが必要です。
まず、基本となる声部を取り出す
中間を埋める前に、和声の基本形を明確にします。どの音が上声で、どの線が内声で、どこがバスなのか。さらに、同じ線をオクターブで重ねている箇所がないかを確認します。
音符が多くても、基本は四声で、一部が重複されている場合があります。逆に、単純な和音に見えても、各声部の進み方が曖昧なら、追加の音を考える前に整理する必要があります。
この段階を省くと、空いたところへ音を足すたびに、どの声部を補っているのか分からなくなります。基本の線と、その重複を分ける考え方は、パート数と声部数についての記事で詳しく説明しています。
「隙間」は、単に譜面の余白ではない
和音の中間が空いているかどうかは、紙面上で音符が離れているかではなく、実際の音高と役割で判断します。別々の譜表に書かれていても近い音域の場合があり、同じ譜表でも広く離れている場合があります。
また、上と下が離れているというだけで、すべて同じ問題になるわけではありません。弱い音の場面で特殊な広がりを求める場合と、フォルテで充実した和声を求める場合では、必要な配置が違います。
まず、どの強さで、どんなまとまりを作りたいかを決めてください。そのうえで、上声からバスへ、音の配置がどのようにつながっているかを見ます。中間に音を置くこと自体を目的にしないことが大切です。
低いところは広く、高いところは狭く
和音を広い範囲へ置く際には、自然倍音列のように、低いところで間隔を広く、高くなるにつれて狭くする並びが指針になります。すべての音域を同じ密度で埋めるわけではありません。
したがって、中間が空いているからといって、低いところへ上声と同じ密集した和音を足すのは、単純な解決になりません。バスの広さと、上側のまとまりを結び付ける配置を考えます。
基本的には、バスとテナーの間を一オクターブ以内に収め、上声にも大きな欠けを作らないようにします。具体的な音の間隔と原図は、低音と高音で和音の間隔を変える理由を参照してください。
音域が広がる原図を見てみる
次の図は、上声が上がり、バスが下がるにつれて、和声の音域が広がっていく概念例です。ピアノ曲の特定の一節を編曲した例ではなく、音域と内側の音の関係を示すための図として読んでください。

左から右へ、最も高い音と最も低い音の動きを追います。外側の幅が増すとともに、内側に置かれる音も増えていきます。上と下だけを遠ざけ、その間を何もせずに残しているのではありません。
ここで増えている音は、和声の基本となる声部との関係を持っています。上三声の一部を重ねるなどして、広がった範囲を支えます。空間が生まれるたびに、独立した別の旋律を思い付きで追加するという意味ではないのです。
ピアノ譜を読むときにも、これと同じ視点で、上声と低音が広がっていく場所を探せます。その部分を管弦楽へ移すとき、中間の扱いが変化する必要があるかを考える手掛かりになります。
狭まるときには、音を減らす方向も考える
次の図は反対に、広い音域から次第に狭まっていく概念例です。内側を埋めていた音を、そのまま最後まで残すのではなく、範囲の縮小に合わせて整理しています。

中間を埋めることだけに注意していると、追加した音を減らすことを忘れがちです。上と下が近づいてきたのに、広かったときと同じ重複を残せば、必要以上に音を集めることになります。
和声上許されるなら、中音域にある、音を変える必要のない声部を保つこともできます。すべてを動かしたり消したりするのではなく、進行の一貫性を保ちながら、不要になった重複を減らしていきます。
一つの和音だけを見て、埋めすぎない
ただし、すべての隙間を必ず埋めるべきだと考えるのも誤りです。各声部が自然に進んだ結果として、一時的に上声の音の間が開く場合があります。その空間を埋めるために新しい声部を足すと、逆効果になることがあります。
全体として空虚な配置を見直すことと、一時的な間隔を機械的に埋めることは違います。 フレーズの前後を見て、その広がりがどのように生まれたかを確認してください。
ある和音だけ音数を増やすと、その音の次の行き先や、不協和音の解決まで考える必要が生じます。増やした瞬間の響きだけで判断しないための注意点は、フレーズの途中で一声足すと不自然になる理由で説明しています。
楽器群ごとのまとまりも確認する
音域の隙間を埋めた後には、各楽器群がどんな和声を作っているかも見ます。すべての楽器を合計すれば構成音がそろっていても、ある群だけが空虚な組み合わせになっていると、全体が期待どおりにまとまらない場合があります。
たとえば、上三声を木管が受け持ち、バスを別の群へ任せるなら、木管の三声は、それだけでもまとまりを持つことが重要です。欠けているものを別の音色群へ置けば、同じ距離感で埋まるとは限りません。
これは、ピアノ譜を楽器へ配る際に見落としやすい点です。音名の一覧だけでなく、どの音色がどの音を担当しているかを見ます。詳しくは、全部合わせれば和音なのに空虚になる理由で扱います。
低音を強くするだけでは、中間は埋まらない
中間の不足を、低音の量の不足と取り違えないようにします。バスへさらに低い楽器を重ねれば、低い支えは増えます。しかし、上声との間にある空間の扱いは、そのまま残ることがあります。
同じように、上の旋律へ楽器を増やせば、上側は厚くなりますが、それだけで内声の配置が整うわけではありません。どこへ音を追加したかによって、変わる場所が違います。
修正するときは、上と下のどちらが弱いかだけでなく、間にどんな役割が必要かを考えます。必要なのが内声の支えなら、外側を大きくすることとは別に、基本の声部をどう重ね、どう配置するかを検討します。
音色を選ぶのは、配置と進行を確かめてから
和声の構造が曖昧なままでは、クラリネットをホルンへ替えても、同じ隙間や進行の問題を引き継ぐことになります。音色の変更が必要な場合はありますが、すべてを楽器の相性で解決しようとしないことが大切です。
まず、音の配置と各声部のつながりを整えます。そのうえで、どの色で和声を作るか、どの声部を前へ出すか、全体をどう溶け合わせるかを考えます。こうすると、楽器を選ぶ理由も明確になります。
たとえば、中間に置く音が決まっていれば、その音域と役割に合う楽器を選べます。逆に、空いている楽器があるから何かを入れるという順番では、和声の必要と編成の都合が逆転してしまいます。
移し替えた後に、元の二段をいったん忘れる
点検するときは、まず基本の声部を追い、次に最低音から最高音までの間隔を見ます。ピアノ譜の右手、左手というまとまりだけでなく、オーケストラ全体の一つの配置として読み直してください。
その後、音域が広がるところと狭まるところを見つけ、重複の増減が必要かを考えます。最後に、各楽器群の和声がまとまっているか、追加した音が自然に前後へ進むかを確認します。
ピアノ譜を管弦楽へ移すことは、音符の担当者を決めるだけではありません。元の和声の線を保ちながら、別の編成でまとまって響く配置を作ることです。右手と左手の間にある音域へ目を向けると、楽器を増やしても解決しなかった空虚さの原因を見つけやすくなります。
ピアノ譜の和音をハープへ移す場合には、手の配分と残響も確認します。具体的には、ハープにピアノの和音を、そのまま渡していい?をご覧ください。
ピアノの音型を和声の骨格から捉え直す手がかりは、『管弦楽法の基本』の書籍版・PDF版にあります。
この記事は『管弦楽法の基本』の記述・補足に基づく解説です。参照:管弦楽法の基本 第三章「和声」 概論、声部数について、和音構成音の配置。音域の拡大・収束は第四章、楽器群ごとの和声のまとまりは第三章の木管の節も参照しています。Amazonへのリンクにはアソシエイトリンクを使用しています。

