ピッツィカートは、弓で弾く旋律をそのまま置き換えられる?

弓で弾く旋律にpizz.と書けば、そのまま軽い伴奏へ変わるでしょうか。音の高さが同じでも、ピッツィカートでは発音の速さ、音の残り方、強弱による変化が変わります。

ピッツィカートは、弓の音を短くしただけではなく、別の性格の響きとして考えます。 音符をそのまま残して奏法だけを替える前に、その音型が弦をはじく動作と、短い発音に合っているかを確かめましょう。

同じ弦楽器でも、音楽を支える働きが変わる

弓で音を伸ばす場合には、一つの音を保ちながら強さや表情を変えられます。一方、指ではじいた音は、発音したあと自然に減衰していきます。

そのため、弓の持続音が埋めていた時間を、ピッツィカートが同じように満たすとは限りません。和音の構成音は同じでも、背景が鳴り続ける場合と、短い点として現れる場合では、全体の印象が変わります。

たとえば、長い音を中心とする伴奏をピッツィカートへ替えるときは、そのあとに残る空間が音楽に合うかを考えます。音符の長さを長く書いても、弓で保つ音と同じにはなりません。

この違いを欠点とだけ捉える必要はありません。短い発音を使いたい場面なら、持続音とは違う輪郭や軽さを作れます。まず、音を保ちたいのか、音の始まりを示したいのかを分けて考えてください。

弓で弾ける速さを、そのまま要求しない

ピッツィカートでは、右手が弦をはじく動きによって音を出します。この動きは弓で演奏する場合とは異なるため、弓で可能な速いパッセージをそのまま置き換えることはできません。

とくに細かな音が連続する箇所では、音域表の範囲内かどうかだけで判断しないようにします。一つひとつの音が出せても、その速さで続けられるかは別の問題です。

見直す際は、旋律の中で最も細かい音価が続く区間を探します。そこをピッツィカートにする必要があるのか、短いリズムへ整理するのか、弓のまま残すのかを、音楽の目的から選びます。

全体のテンポが遅くても、一部だけ細かい音型があれば、その箇所の実際の速さは高くなります。「遅い曲だから大丈夫」とせず、連続する発音の間隔を見てください。

ヴァイオリンとコントラバスを同じ速さで考えない

ピッツィカートの速さには、弦の太さの違いも関わります。ヴァイオリンで考えた細かい音型を、そのままコントラバスへ渡してよいとは限りません。

低い楽器ほど、同じような発音の機敏さを当然の前提にしないことが大切です。各セクションが同じリズムを演奏する場合にも、上の弦に合わせて全員へ同じ細かさを要求していないかを見ます。

たとえば、上の弦が細かく動く一方、低音は重要な拍や和声の変わり目を支える、というように役割を分けて考えられます。全員が同じ密度で発音しなければ一体にならないわけではありません。

ただし、低音のリズムを単純化するなら、もとの音楽で必要だった動きが失われないかを確認します。技術的に減らしやすい音と、和声やリズムの上で必要な音を区別してください。

音域表では、端の音の性格まで読む

ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスのピッツィカートの音域表
リムスキーコルサコフ著『管弦楽法の基本』より。黒い音符の高音域は、響きの乾いた性格に注意する。

原図は、各弦楽器のピッツィカートの音域を示しています。端まで音を出せることだけでなく、黒い音符で記された高い部分の扱いに注目してください。

その部分は、響きが乏しく、硬く乾いた性格になります。木管と重ねて用いることを基本として考える音域であり、弦だけの豊かな響きをどこまでも延長できる範囲ではありません。

したがって、高い旋律をピッツィカートへ替えるなら、音が届く高さであることと、求める響きが得られることを分けます。音程が合っていても、厚みや余韻の印象が大きく変わる可能性があります。

表を使うときは、最高音を一つ確認するだけでなく、フレーズがどの範囲に長く滞在するかを見ます。短く通る高音と、その音域が中心になる旋律では、配分の考え方が違います。

開放弦は、ほかの音と同じようには響かない

開放弦のピッツィカートはよく響き、重さと輝きを持ちます。弦を押さえた音は、より短くぼんやりした性格になり、高いポジションでは硬く乾いた音へ変わります。

このため、同じ強弱記号で書いた一続きの音型でも、どの弦をどう鳴らすかによって、音の残り方や輪郭は均一とは限りません。音名だけを並べて、すべてが同じ粒で鳴ると想定しないようにします。

和音でも、開放弦とそれ以外の音を混ぜると、響きの違いが生じます。均質な和音を求めるなら、開放弦だけが明るく残るような組み合わせになっていないかを確認します。

開放弦のよく響く性質は、長所にも、釣り合いを崩す原因にもなります。 その音を際立たせたいのか、周囲とそろえたいのかによって、望ましい使い方が変わります。

強弱記号は、音色の変化としても読む

ピッツィカートにはフォルテッシモからピアニッシモまでの指定ができますが、その変化を、弓で鳴らす場合と同じ大きな音量の幅として期待しないことが大切です。

ここでは音量だけでなく、音色の変化が中心になります。強くすれば、持続する弓の和音と同じ厚さで全体を満たせる、という発想では配分を誤りやすくなります。

たとえば、大きな合奏の中でピッツィカートの線を前へ出したいなら、強弱記号を大きくするだけでなく、周囲で何が鳴っているかを見ます。長い強い響きに囲まれていれば、短い発音の役割を整理し直す必要があります。

音量を人数だけで計算できないことは、オーケストラの音量と人数の関係でも扱っています。ここでは、同じ奏者数でも奏法が変われば、使える響きの性格が変わる点を加えて考えます。

和音は、発音の目的から選ぶ

ピッツィカートは単音だけでなく和音にも使えます。全弦を使う四和音は、ほかの弦へ触れることを心配せずに発音でき、自由で生き生きしたアタックを作れます。

ただし、四和音だから常に最良という意味ではありません。必要な構成音、実際に演奏できる配置、開放弦の響き、求める短い発音の性格を合わせて考えます。

弦の和音を短く打つことと、長く保持することは別の課題です。ピッツィカートの和音を、弓による持続和音の代用として扱うより、その短いアタックが何を強調するかを考えます。

弦の短い和音と持続和音の違いは、短い和音をそのまま伸ばしてよいかで詳しく扱っています。奏法を替える際にも、音の長さが担っていた役割を確認しましょう。

木管の持続音を支える使い方

木管が音を伸ばしているところへ、チェロやコントラバスのピッツィカートなどを加えると、その音をはっきりさせる働きがあります。長い音に、短い発音の輪郭を添える組み合わせです。

ここでは、木管と同じ長さの音をもう一本増やしているわけではありません。持続する側と、発音を支える側に仕事を分けています。

この見方をすると、短く減衰する性質を、弓より劣る点として扱わずに済みます。音を伸ばす役割は別の楽器に任せ、ピッツィカートにはその特有の発音を受け持たせられます。

弦全体のピッツィカートをまとまった合奏として使う場合も含め、tuttiのさまざまな形を参照してください。大きな合奏にも、持続和音とは違う性格の作り方があります。

歌の背景では、短さそのものが役立つ

歌を伴奏する場合、弦のピッツィカートとハープは、声を覆いにくい背景を作る選択肢になります。長い和音で周囲を埋め続ける場合とは、声と共存する条件が違います。

たとえば、伴奏に必要な動きは残したいけれど、歌の下で持続する響きを増やしたくない場面なら、その一部を短い発音へ配分することを考えられます。伴奏を無内容にするのではなく、響きの残り方を変える方法です。

ただし、ピッツィカートならどれほど複雑でもよいわけではありません。歌と同時に何本の線が動いているか、言葉の流れを妨げていないかも確認します。具体的な点検は歌を覆う伴奏の見直しにつながります。

ハーモニクスでは、さらに弱い色を選ぶ

ピッツィカートの自然ハーモニクスにも、独特の魅力があります。とくにチェロでよい効果を得られますが、響きは弱いため、通常のピッツィカートと同じ支えを期待しないようにします。

ここでも、珍しい奏法を加えれば存在感が増す、と考えないことが大切です。音色が変わることと、音量が増えることは別です。その弱い色を聴かせるために、周囲の配分を選ぶ必要があります。

奏法を書き替える前に、四点を確認する

まず、速さを確認します。細かい音の連続が、弦をはじく動きに合っているか、とくに低い楽器へ同じ機敏さを要求していないかを見ます。

次に、音域と響きを確認します。高い音が乾きすぎないか、開放弦だけが強く残らないかを見ます。そして、必要な音の長さを、短い発音で置き換えてよいかを考えます。

最後に、合奏の中での役割を確かめます。旋律を担当するのか、和声を短く示すのか、ほかの楽器の発音を支えるのかが明確なら、ピッツィカートを選ぶ理由もはっきりします。

pizz.は、同じ音符を別の方法で鳴らすだけの指示ではなく、音楽の時間と響きを変える選択です。 短さ、乾き、開放弦の共鳴を意識すると、弓の代用品ではない使い方が見えてきます。


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