金管のミュートは、音量を下げるためだけのもの?
金管が強すぎると感じたとき、ミュートを付ければ解決するでしょうか。弱音器という名前からは、同じ音のまま音量だけが下がるように思えます。しかし、オーケストレーションで大切なのは、その先にある音色の変化です。
ミュートを付けた金管は、開放した金管の小さな版として扱うだけでは持ち味を生かせません。 どんな強さで吹かせ、どの楽器と重ね、前後の響きに対してどう置くかによって、別の表情を作れます。
音量を決める前に、欲しい音色を決める
金管には、明るく充実した響きや、強奏したときの鋭い輪郭があります。ミュートやホルンのストップ奏法は、この基本的な性格を変えます。リムスキーコルサコフ著『管弦楽法の基本』を手がかりに考えるなら、音量調整だけでなく、新しい音色の選択肢として捉えるのが出発点です。
たとえば、華やかな金管の和音を静かにしたい場合と、覆いのかかったような響きに変えたい場合では、目的が違います。前者なら、まず強弱や人数、音域、周囲の厚みを見直す余地があります。後者では、ミュートによる色の変化そのものが表現になります。
この順序を逆にすると、目立ちすぎるから弱音器を付ける、付けたために色が変わる、その色を周囲になじませるために別の楽器を増やす、という遠回りになりがちです。欲しい響きを決めてから、発音の方法と配分を選びましょう。
音量の不足や過剰を直すことと、音色を作ることは関係していますが、同じ作業ではありません。小さく聞こえることだけを成功の基準にすると、場面に必要だった金管らしさまで失う可能性があります。
弱く吹く場合と、強く吹く場合を分けて考える
ミュートやストップによって、金管の明るさや響きの広がりは変わります。ただし、そこで得られる表情を、いつも柔らかい、いつもおとなしい、と一つに決めないことが大切です。
弱奏では、柔らかく、覆われたような音色が生まれます。一方、強奏では、きしむような性格が現れます。同じ奏法の指定でも、強弱によって聴き手が受け取る印象は大きく違うのです。
ミュートの指定と強弱記号は、一組で音色を決める条件です。 静かな場面のために選んだ音色を、そのまま強奏へ移せば、単に大きくなるだけでなく、質感も変化します。
そこで、フレーズの頂点まで含めて響きを想像します。最初のピアノだけが望みどおりでも、途中のフォルテで必要以上に鋭い表情になるなら、その変化を生かすのか、別の配分にするのかを考える必要があります。
逆に、弱い響きから異質な強い響きへ変わることが狙いなら、その差を表情として使えます。ミュートは強奏を避けるための印ではなく、強奏にも固有の色を与える手段だと考えると、選択が明確になります。
ホルンでは、短い効果と長い句を区別する
ホルンについては、ストップ奏法とミュートを、単に同じ名前の選択肢として並べないようにします。ここで扱う考え方では、単独の音や短い句にはストップ、長い句にはミュートという使い分けが示されています。
まず確認したいのは、変化した音色がどれだけ続くかです。一つの応答音だけを違う色にしたいのか、旋律の一まとまりをその色で保ちたいのか。この違いは、指定を考えるうえで重要になります。
短い音のための効果を、そのまま長いフレーズ全体へ引き延ばしてよいとは考えず、句の長さと役割を見ます。反対に、長い旋律の中の一音だけを変えるなら、その一音がアクセントなのか、遠い応答なのか、和声上の色なのかをはっきりさせます。
この区別は、奏法の名前を増やすためではありません。音色の変化をどの範囲にかけるかという、音楽のまとまりの問題です。楽器名だけでなく、句の始まりと終わりまで見て選びましょう。
音色が変わると、混ぜやすい相手も変わる
開放した金管と木管を重ねるときには、両者の強さや性格の違いが問題になります。ところが、ミュートしたトランペットやストップしたホルンは、オーボエやイングリッシュホルンに近い性格を持つようになり、組み合わせの可能性が変わります。
ここでの「近い」は、同じ楽器のように聞こえるという意味ではありません。金管の基本的な明るさが変化した結果、木管との間に共通する色を見いだしやすくなる、という考え方です。
したがって、金管に木管を加えたいときは、楽器名の組み合わせだけで判断しないでください。開放なのか、ミュートなのか、ホルンならストップなのかによって、同じ二つの楽器でも混ざり方の条件が違います。
また、音色が近づいたからといって、音域や強弱を無視してよいわけではありません。どの高さで、どの強さの音が重なるかを確認して初めて、狙った混合音になります。
譜例で見る、ストップしたホルンと低いクラリネット
具体的な組み合わせとして、ストップしたホルンの中音域に、クラリネットの低音域を重ねると、暗い音色を作れます。次の図は、その関係を示したものです。

図では、Cor.がホルン、Clar.がクラリネットを表し、+はホルンのストップを示しています。注目したいのは、単にホルンとクラリネットを二本ずつ使っていることではなく、それぞれの音域と奏法です。
クラリネットの代わりにファゴットを使うと、この特有の効果は薄くなります。低い音を出せる木管なら交換できる、という扱いでは、欲しい色を保てないのです。
これは、音高の役割と音色の役割を分けて考えるよい例です。和声の構成音を担当するという意味では同じ仕事ができても、混ざった結果の響きまで同じになるとは限りません。
この配分を使うときは、まず暗い色が必要な場所を選びます。そのうえで、ホルンの奏法、クラリネットの音域、周囲の響きとの関係を確認します。「暗くしたいから低くする」という一方向の考え方から、音域と奏法を組み合わせて色を選ぶ考え方へ進めます。
遠くから返ってくるような響きにも使える
もう一つの使い道が、反響のような応答です。開放した金管の句に、ミュートした金管で弱く応えると、音色のつながりを残しながら、距離の違いを感じさせることができます。
ただし、後の句を小さくすれば何でも反響になるわけではありません。反響らしさには、弱い響きであることに加えて、最初の音との音色上の類似が必要です。まったく違う色へ替えると、別の登場人物が返事をするような対話になりやすくなります。
ミュートしたトランペットを、オーボエの響きに対する反響として扱う考え方もあります。ここでも役立つのは、楽器の分類が同じかどうかより、実際の音色に共通する部分があるかどうかという視点です。
反響を作りたいなら、最初の句と応答を一続きで読み、強さと色の両方を比べましょう。一方、旋律を途切れず別の楽器へ渡すことが目的なら、問題になるのは受け渡しのつながりです。そちらは楽器間で旋律を受け渡すときの考え方で詳しく扱っています。
二つの案を比べるとき、音符以外もそろえて読む
たとえば、同じ短い句について、開放したホルンを弱く吹く案と、ストップしたホルンを弱く吹く案を考えてみます。音高とリズムが同じでも、後者を前者の音量だけを下げたものとして読むことはできません。弱奏で保ちたい性格が、開放した柔らかさなのか、覆われた色なのかを比べます。
次に、その句を木管へ重ねる案を考えます。和声を厚くしたいだけなのか、二つの楽器が混ざった特有の色が欲しいのかで、確認する点が変わります。後者なら、先ほどの譜例のように、同じ音を別の木管へ移したときに失われる色にも注意します。
最後に、前の句への応答として置く場合を考えます。このときは、その句だけで魅力的に聞こえるかに加えて、前の響きとの類似が残っているかが重要になります。単独の音色、混合した音色、前後の関係という三つの聴き方を分けると、何を理由に奏法を選んだのかを説明しやすくなります。
開放した金管の色も、選択肢として残す
ミュートの色を覚えると、金管の鋭さが気になるたびに使いたくなるかもしれません。しかし、開放した金管の明瞭な響きも、オーケストラに必要な色です。変化した音色だけを使い続ければ、対比の幅が狭くなります。
大切なのは、柔らかい方が常に上等、という判断をしないことです。明るい響きが必要な場所ではその性格を生かし、覆われた響きやきしむ響きが必要な場所では、ミュートやストップを選びます。
木管を重ねて金管を和らげる方法とも、目的を区別できます。ミュートは金管自体の発音の色を変え、重ねる方法は複数の楽器による混合音を作ります。どちらを選ぶ場合も、何を残し、何を変えたいかが判断の中心です。木管を加えること自体の注意点は金管をいつも柔らかくする必要があるのかを参照してください。
書き終えたら、弱くしたいだけなのか、音色を変えたいのかをもう一度確認します。そして、その色がフレーズの強奏時にも合っているか、重ねる楽器の音域に無理がないか、前後の開放した響きとの対比が生きているかを見ます。こうして選んだミュートは、単なる音量調整ではなく、音楽の表情を作る具体的な手段になります。
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