オーケストラの音量は、人数だけで計算できる?
ヴァイオリンを何人増やせば、管楽器に負けなくなるのか。ホルン一本と木管一本は、同じくらいに聞こえるのか。編成を考えると、音量を人数の計算で予測したくなります。
大まかな比較は役立ちますが、それだけで合奏の釣り合いは決まりません。何を、どの音域で、どう動かしているかが変われば、同じ人数でも結果が変わるからです。
人数を比べる前に、演奏する動機、音域、強弱、音の長さを確認しましょう。同じ旋律を重ねる場合と、片方が長い音で支える場合では、耳に届く存在感が違います。
何を比較しているのかを揃えることが、バランスを考える出発点です。
「何人分」は、条件を伴う目安
強奏で同じ動機を演奏する場合、トランペット、トロンボーン、チューバの一人に対し、ホルン二人が大まかな釣り合いの目安です。同じ条件で、ホルン一人に対する木管の目安は二人です。
金管の中にも、また金管と木管の間にも、強さの差があることをつかむための説明です。
弦の強さは人数で変わるので、編成の前提が必要です。ここでは中編成を仮定して考えます。その場合、一つの弦楽セクションに対し、弱奏では木管一人、強奏では木管二人が目安になります。
ここでの単位はヴァイオリン一人ではなく、第一ヴァイオリン全体など、一つのセクションです。読み違えると比較の意味が大きく変わります。
弱奏では管楽器どうしの強さの差が小さくなるため、強奏の比率をそのまま掛け算することはできません。どの楽器が何人いるかという条件だけでなく、どの強さで鳴らすかという条件が、すでに比較の中に含まれているのです。
これらは精密な音量の換算表ではありません。編成の大きな傾向をつかむ出発点として使いましょう。目安から実際の譜面へ進むときには、同じ音楽的な材料を演奏しているのか、使う音域はどこか、音がどう続くかを追加して考える必要があります。
同じ動機を吹く場合と、違う仕事をする場合
人数の比較を使いやすいのは、同じ動機を同じように演奏する楽器を比べる場合です。旋律の動きやリズムが揃っているため、楽器の強さの違いへ目を向けやすくなります。
反対に、一方が旋律、他方が長い和音という場合には、強さ以外にも、耳がどちらを追うかという要素が入ります。
耳は、動きのあるフレーズを無意識に追います。ヴァイオリンでも、同じ音を伸ばし続ける場合より、生き生きと動くフレーズを弾く場合の方が目立ちます。人数が同じでも、そのパートの活動によって注意の集まり方が変わるのです。
たとえば、二つの楽器群が同じ旋律を重ねている状態から、片方だけが持続音へ変わった場面を考えます。奏者は減っていませんが、音楽の仕事は変わっています。ここで前の場面と同じ人数比だけを使えば、変化した条件を見落とします。
音量の大きさと、旋律として目立つことを完全に同じものとして扱わない必要があります。
この考え方は、旋律が埋もれるときにも役立ちます。旋律を受け持つ人数を増やす前に、周囲が細かく動いて注意を引いていないかを見られるからです。ただし、動いていれば必ず勝つという新しい計算式ではありません。
人数だけでは扱えない要因がある、と判断の範囲を広げるものです。前景と背景の具体的な整理は「メロディが埋もれたら、音量を上げる前に何を見る?」で扱います。
一本のフルートでも、音域が変われば条件が変わる
低音域のフルートをヴァイオリンに重ねる場合と、高音域のフルートを重ねる場合では、バランスの条件がまったく違います。木管や金管では、音域によって音色も音量も変わるからです。
「フルート一人とヴァイオリン一セクション」という人数の記述だけでは、比較に必要な情報が揃いません。
ここで譜面上に戻すべき情報は、楽器名の後ろにある実際の高さです。同じ組み合わせを別の音域へ移した場合にも、同じ釣り合いが保たれると決めつけないようにします。
移調やオクターブの変更は、音符の位置を変えるだけでなく、楽器が使う声区を変える可能性があります。
和音を作るときも同様です。一つの音だけ飛び出すなら、その音を担当する人数だけでなく、各楽器がそれぞれどの声区にいるかを見ます。すべての楽器に同じ強弱記号が付いていても、各音の条件まで等しくなったわけではありません。
この問題は「木管の和音で、一つの音だけ飛び出すのはなぜ?」で詳しく扱います。
したがって、編成のメモを作るなら、楽器名と人数だけにせず、主に使う音域と音楽上の役割も一緒に考えると、実際の譜面へ近い判断ができます。人数の数字を捨てるのではなく、その数字が意味を持つための条件を補うということです。
発音の瞬間と、持続している間を分ける
音を伸ばせる楽器と、発音の後に減衰する楽器を比べるときには、時間の流れにも目を向けます。ここでは、最大の強さだけでなく、音が時間の中でどう変わるかが関係します。
瞬間的に強く聞こえる音と、長く支え続ける音を、一つの人数比で同じように扱うことはできません。
強く鳴らすグロッケン、ベル、シロフォンなどは、ほかの楽器群を重ねた響きの中でも目立ちます。ただし、その強さは発音の後に減衰していきます。ある瞬間に目立つことと、その後も同じ力で音楽を支えることを分けて考える必要があります。
反対に、弦のピッチカートやコル・レーニョ、柔らかく奏したピアノやチェレスタは、持続する楽器の重なりにかき消されやすくなります。ここでも、楽器の種類だけで大きい小さいを決めるのではなく、奏法や強さの条件まで含まれています。
たとえば、短い音を加えて和音の始まりをはっきりさせた場合、その楽器が持続部分まで同じ程度に聞こえ続けるとは限りません。発音時の効果が目的なら、その違いを生かせます。
持続する和声の厚みを求めているなら、瞬間の強さだけを頼りにしてはいけません。合奏を時間の流れとして見ると、人数だけの計算では拾えない役割が見えてきます。
楽器を足すと、音量だけでなく音色も変わる
もう一つ、人数の加算と実際の響きが一致しない理由があります。別の楽器を重ねると、単に同じ色の音が大きくなるのではなく、混合した音色が生まれるからです。
木管を弦へ重ねれば響きの厚みが変わり、金管へ重ねれば柔らかさが加わります。
木管を複数重ねた弦の一セクションでは、甘くまとまりのある響きになりながら、木管らしい色が残るとされています。一方、一つの木管を複数の弦のセクションへ重ねた場合には、弦の響きが厚くなっても、木管らしい音色になるとは限りません。
何を何へ、どの規模で加えるかによって、聞こえる色の比重が変わります。
この例は、追加した一人が耳で独立して分からなければ、何の効果もないというわけではないことを示します。同時に、一人加えたからその楽器の個性が必ず前へ出るというわけでもありません。
音量の補強を求めたのか、混合した色を求めたのかで、結果の評価も変わります。
重複による音色の変化は「楽器を足したのに、旋律の個性が薄くなるのはなぜ?」の中心テーマです。バランスを考える場面では、人数を増やす解決法にも音色の変化が伴う、と覚えておくと役立ちます。
元の旋律の色を残したい場合、単に増員するという発想だけでは目的に合わないことがあります。
「聞こえる」と「一つに混ざる」も違う
複数の楽器が十分に聞こえていても、一体の響きとして聞こえるとは限りません。弦と金管だけを重ねると、音色がはっきり分かれて聞こえやすくなります。両方の音量があることと、よく混ざることは別の判断です。
そのため、まとまりが足りない場面で、どちらかの人数を増やすことだけを考えると、狙いから外れる可能性があります。問題が量の不足なのか、音色の混ざり方なのかを見分ける必要があるのです。
二つの色が分かれて聞こえることを効果として望む場合には、それを直す必要もありません。
弦と金管の組み合わせの具体的な性質は「弦と金管を同じ音にしても、一つの音色にならない?」で説明します。ここでは、合奏の問題をすべて音量不足と呼ばないことが要点です。
音高の配置、動き、音色の関係など、何を変えれば目的へ近付くかを整理してから人数を考えます。
人数を数える前に、比較する条件を揃える
譜面を見直すときは、まずどの声部を聴かせたいのかを決めます。その声部と周囲は同じ動機を演奏しているのか、それとも旋律と持続音のように仕事が違うのか。次に、それぞれが使う音域を見ます。
最後に、発音の瞬間と持続している間で、役割が変わらないかを確かめます。
そのうえで人数や楽器群の大まかな強さを参考にすると、数字を使う意味がはっきりします。強奏の場面の目安を弱奏へ移していないか、中編成を仮定した弦の比較を別の人数へ無条件に当てはめていないか、という点も確認できます。
人数の目安には、強弱や編成の前提を必ず添えて考えましょう。
オーケストラの釣り合いは、人数の問題を含みますが、人数だけの問題ではありません。動きが耳を引き、音域が力を変え、発音と持続が役割を分け、重複が色を変えます。
これらを譜面の中で読み取れば、ただ楽器を足す以外にも、欲しい声部を聴かせるための検討ができるようになります。
人数だけでは判断しにくい例として、弦のハーモニクスがあります。弱い音色を埋もれさせない配分は、弦のハーモニクスが埋もれるのはなぜ?をあわせてお読みください。
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