ファゴットは、いつも木管のバスを担当する?

ファゴットは木管の低音楽器だから、和音のいちばん下を受け持つ。そう覚えると分かりやすい反面、総譜の中でファゴットが何をしているかを、見誤ることがあります。

木管の和声でファゴットには、大きく二つの役割があります。一つはベースラインを奏すること。もう一つは、バスとは別に、中音域の和声を埋めることです。楽器名から役割を決めず、その音がバスの線なのか、内側の音なのかを読むことが出発点になります。

低い楽器でも、いつもバスではない

楽器が得意とする音域と、和声の中での役割は、関係はあっても同じものではありません。ファゴットが低い音域を担当できることは、そのすべての音がバス声部になることを意味しません。

オーケストラでは、バスを弦楽器など別の楽器群に任せ、木管が上三声や内声を受け持つ場合があります。このとき、ファゴットも木管の和声を中音域で埋める側へ参加できます。

したがって、ファゴットの段だけを見て「ここがベースライン」と判断しないようにします。まず全体の低音の線を見つけ、その線とファゴットが同じ関係にあるかを確認します。

二つの役割を分けておく

役割の違いは、音の置き方を考える際にも現れます。次の表は、木管の和声における二つの使い方を整理したものです。楽器の能力を分けた表ではなく、その場面で何を担当させるかの違いを示しています。

役割配置の考え方確認すること
ベースライン上三声とやや広めの距離を取る。ユニゾンやオクターブで重ねることもある。上との隙間が広すぎないか。バスの進行が明確か。
中音域を埋める声部木管の和声の内側を充実させる追加声部として置く。基本の和声との関係、声区の釣り合い、前後の進行。
リムスキーコルサコフ著『管弦楽法の基本』の木管の和声の節をもとに、二つの役割を整理。

バスの場合は、上三声からやや離れた低い線を作ります。一方、中音域を埋める場合には、ファゴットは和声の内側へ加わる声部です。どちらも低めの音を使うことはあっても、全体との関係が異なります。

この区別を先に付けると、ファゴットへ何を重ねるか、ほかの声部からどれくらい離すかを考えやすくなります。同じ楽器だからといって、二つの役割へ同じ配置を当てはめないことが大切です。

バスを担当するなら、上三声との距離を見る

ファゴットがベースラインを奏する場合は、上三声とやや広めの距離を取ります。上の和音を低いところから支える線として、役割を明確にします。

そのバスは、ユニゾンやオクターブで重ねられることがあります。同じ高さを二本で支えるのか、一オクターブ離して支えるのかによって、低音の作り方は変わります。どちらの場合も、元のバスの線をはっきり捉えます。

ただし、離せば離すほどバスらしくなるわけではありません。上三声との距離が広がりすぎれば、その間の音域をどう扱うかが問題になります。低い線の独立と、和音全体のつながりを両方考えます。

一オクターブ以上の隙間が続く場合

バスが平均して上三声から一オクターブ以上離れているなら、間の音域を部分的にでも埋めることが望ましくなります。この役割には、ホルンがよく使われます。

ここで、ファゴットの音量だけを上げても、中間の配置の問題を直接解決したことにはなりません。低い線が強くなることと、上の和音までの間を支えることは、別の変化です。

バスを遠くへ置くことと、和声の中間を空けたままにすることは違います。 全体の幅が広くなったときは、低音の力だけでなく、その上につながる声部も確認してください。音域と間隔の考え方は、低音と高音で和音の間隔を変える理由で説明しています。

中音域を埋めるなら、独立した低音と考えない

ファゴットがベースライン以外に置かれる場合には、木管の和声を中音域で充実させる追加声部として扱います。低い楽器が参加したから、低音の線がもう一つ生まれたと考える必要はありません。

この場合は、和声の骨組みのどの部分を補っているかを見ます。ある声部を重ねているのか、内側の配置を埋めているのか。上の木管とのつながりを含めて読みます。

もしこの役割のファゴットへ、バスのつもりでさらに下のオクターブを加えると、狙いとは異なる重さを持ち込む可能性があります。楽器名を見て低音補強を足す前に、いま担当している声部の役割を確認することが大切です。

バスを弦へ任せる和声も、普通にある

和声の骨組みが木管だけで完結するとは限りません。よくあるのは、上三声を木管へ、バスを別の楽器群へ任せる形です。弦のアルコやピッツィカートが、その低音を受け持つこともあります。

その場合、木管の中で最も低いパートが、和声全体のバスとは限りません。ファゴットが木管の下端にいても、全体としては内側の声部を担当している場合があります。

総譜では、木管の範囲だけを切り離さず、弦やほかの楽器が何をしているかを見てください。木管群の中での位置と、オーケストラ全体での役割を区別すると、ファゴットの働きを読みやすくなります。

木管側の和声も、まとまりを持たせる

バスを別の群へ任せる場合でも、木管の上三声は、それだけでまとまりを持つことが重要です。全楽器を合計すれば和音になるからといって、木管の中を空虚な音程だけにしてよいわけではありません。

ファゴットが内声として参加する場合は、その木管のまとまりの中で働きます。低音の支えを担当しているときとは、周囲の音との関係が変わります。

異なる楽器群の音を、同じ距離感の一つの和音として単純に足し算することはできません。この点は、全部合わせれば和音なのに響きが空虚になる理由で詳しく説明しています。

同じバスを重ねる場合にも、どの高さかを見る

チェロとコントラバスがオクターブでバスを作っている場合、ファゴットをチェロと同じ高さへ重ねる方法があります。上側はチェロとファゴット、下側はコントラバスという配置です。

この場合、ファゴットは最下音を鳴らしていませんが、バスの線を重ねています。「いちばん低い音ではないから内声」と、すぐに決め付けてはいけない例です。

大切なのは、音の高さの順番だけでなく、どの線を共有しているかです。バスのオクターブ上を重ねているのか、別の和声声部を受け持っているのかを見分けます。この組み合わせの音色については、チェロとコントラバスにファゴットを足す記事を参照してください。

動く線を追うと、役割が見えてくる

一つの和音だけでは役割が分かりにくいときは、ファゴットの音を前後へ追ってみましょう。バスと同じ動きを共有しているのか、上の和声の変化に合わせて内側を動いているのかを確認します。

また、共通音を保っているのか、動きのある声部を担当しているのかも見ます。ほかの条件が同じなら、動く声部には注意が集まりやすいため、音域だけでなく動きも聞こえ方を変えます。

ファゴットが目立つ場合、それが低音の力によるものなのか、動きによるものなのか、重複の本数によるものなのかを分けます。「ファゴットだから目立つ」と一つの理由へまとめないことが大切です。

内声だから、どこへ置いてもよいわけではない

中音域を埋める役割でも、その音がファゴットにとってどんな声区にあるかは確認します。和音の空いている場所へ置けるというだけでは、ほかの木管と力がそろうとは限りません。

均一な和声を目指すなら、各楽器の対応する声区を組み合わせます。弱く柔らかな音になる楽器と、強くよく通る状態のファゴットを無造作に合わせれば、内声が思った以上に前へ出る場合があります。

声区による釣り合いの違いは、木管の高さと音域の関係で扱っています。役割を決めた後も、その役割を実際に果たせる高さへ置く作業が必要です。

追加声部は、元の和声との関係を明確にする

多声部の木管の和声では、基本の四声に重複などの追加要素が加わる場合があります。ファゴットを中間へ置くときも、その音が元のどの声部と関係するかを把握しておきます。

追加声部は、必ずしも一つの基本声部を最後まで忠実に写す形だけではありません。基本の四声を保ちつつ、複数の声部から必要な音を取り、中間を埋める考え方もあります。その場合も、追加された線自体の進行が良好であることが必要です。

扱いの繊細な音を無駄に重ねず、和音をより密にするための工夫として考えます。空いた音域へ音を詰め込むことと、和声の関係を保って追加することを分けてください。

二つの役割を、途中で無意識に混ぜない

編曲中に、ファゴットをある小節ではバスの補強、次の小節では内声の穴埋めとして使いたくなることがあります。その場合は、役割が変わることを意識して、前後の線を確認します。

音が出せるからという理由だけで、空いている場所を次々に受け持たせると、何の線を支えているかが曖昧になります。バスとの関係と、上の木管との関係をそれぞれ見直します。

役割が変わること自体を、機械的に禁じる必要はありません。大切なのは、その変化を和声進行の中で説明できることです。どの声部からどの声部へ関係が移るのかを、楽器の段を横へ追って確認してください。

ファゴットを配る前の確認

まず、和声全体のバスがどこにあるかを見つけます。次に、ファゴットがその線を共有するのか、それとも別の中間声部を担当するのかを決めます。

バスなら、上三声との距離と必要な重複を確認します。内声なら、木管の和声のどの部分を充実させるかを考えます。どちらの場合も、声区と前後の進行を点検します。

ファゴットは、木管のバスとしても、中音域の和声を埋める楽器としても働きます。低い楽器という分類から一歩進み、その場面で共有している音楽の線を見ること。 それによって、同じファゴットの音でも、何を支え、何を補っているかを明確にできます。


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この記事は『管弦楽法の基本』の記述・補足に基づく解説です。参照:木管楽器による多声部に渡る和声、重複による音色の混合、その他補足。低音旋律の重複については第二章、声区と声部進行は第三章の木管の概論も参照しています。Amazonへのリンクにはアソシエイトリンクを使用しています。

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