低音の和音と高音の和音で、音の間隔を変えるのはなぜ?

同じ和音でも、低いところへ音を密集させた場合と、高いところへ密集させた場合では、響きのまとまり方が違います。音名がそろっているだけでは、オーケストラの和音の配置は決まりません。

広い音域にわたる和音を考える基本は、低音側では音の間隔を広く、高くなるにつれて間隔を狭くすることです。すべての高さへ同じ形を移すのではなく、音域に応じて、和音の中身を配置していきます。

自然倍音列を、配置の手掛かりにする

次の図は自然倍音列です。左の低いところでは、隣り合う音の間が大きく開いています。右へ進んで高くなるにつれて、その間隔が次第に狭くなっていく様子を見てください。

低音側から高音側へ間隔が狭くなる自然倍音列
リムスキーコルサコフ著『管弦楽法の基本』より。隣り合う音の間隔が、左から右へどう変わるかを見ます。

この並びは、オーケストラで和音をどう配置するかを考える指針になります。低い音同士は広く置き、高い音同士はより近く置く。和音を、下から上まで同じ幅で積み上げないという考え方です。

ここで、図の音をすべてそのまま鳴らす必要がある、と受け取らないようにしましょう。目的は自然倍音列を一つの和音として丸ごと写すことではありません。高さが変わるにつれて、音の間隔も変わっているという特徴を、配置の手掛かりにします。

低音、中音、高音で間隔を変える

広い音域に多数の声部を置く場合、低音部ではオクターブや六度、中音域では四度や五度、高音部では二度や三度というように、上へ行くほど狭い間隔を取ることが目安になります。

ただし、これは、どの和音にも下から順番に同じ音程を当てはめるための公式ではありません。実際に使う和音の構成音、声部数、前後の進行によって配置は変わります。目安が示しているのは、全体としての間隔の傾向です。

たとえば、低い部分に上声と同じ密集した形をそのまま置くのではなく、低音には広さを与えます。その一方、上の部分まで同じ広さにすると、和音がばらばらに感じられることがあります。低いところの広さと、高いところのまとまりを組み合わせます。

原図で、下から上へ間隔を読む

次の図は、木管を使った広い音域の和音配置です。楽器名の多さに目を奪われる前に、まず音符同士の間隔を、下から上へ追ってみてください。

低音を広く高音を狭く配置した木管の和音の三例
『管弦楽法の基本』より。低い支えと上側の密集した音を比較してください。画像を押すと原図を表示します。

左の大きな和音では、最下部にコントラファゴットがあり、その上にファゴット、クラリネット、コーラングレ、オーボエ、フルートが配置されています。低い部分には広い間隔があり、高い部分は複数の音が近く集まっています。

中央と右の例も、下のファゴットの音と、上の木管のまとまりを分けて見ます。すべての楽器を同じ間隔で並べるのではなく、低い支えと、上側の和音の密度をそれぞれ作っていることが分かります。

この図を、使う楽器の人数をそのまま真似するためだけの表にしないでください。編成が違っても確認したいのは、低いところにどの程度の広さがあり、高いところがどうまとまっているかという配置の考え方です。

「低音を広く」と「中間を空ける」は違う

低音側の間隔を広くすると聞くと、バスを大きく下げ、上声から遠く離せばよいと思うかもしれません。しかし、低い部分の自然な広さと、和音の中間が空虚になることは別です。

バスとテナーの間は、一オクターブ以内に収めることが基本の目安になります。また、上声部の中にも、不必要な大きな穴を作らないようにします。間隔が広すぎれば、音が同じ距離感でまとまらず、離れたものとして聞こえやすくなるためです。

つまり、下を広くする原則は、中間を放置してよいという許可ではありません。バスから上声へつながる全体の配置を見ながら、低いところの広さと、和音としての連続したまとまりを両立させます。

ファゴットがバスを受け持つ場合の距離

木管の和声でファゴットがバスを担当する場合には、上三声とやや広めの距離を取ります。このとき、ファゴットをユニゾンやオクターブで重ねることもあります。

ただし、バスが平均して上三声から一オクターブ以上離れるなら、間の音域を、部分的にでも別の楽器で埋めることが望ましくなります。その役割には、ホルンが用いられることがあります。

これは、先ほどの基本的な目安を、実際の編成へ当てはめて考える例です。バスを離すこと自体が目的ではなく、低い線としての役割を保ちながら、中間とのつながりも確保します。ファゴットの二つの役割は、ファゴットが和声の中で担う二つの役割で詳しく説明しています。

強く鳴らす和音ほど、隙間に注意する

和音の中間に大きな隙間がある配置は、特にフォルテで問題になります。音量を上げても、和音の空虚さが自動的に埋まるわけではありません。むしろ、強く鳴らす場面で必要なまとまりを欠くことになります。

木管で均一な和声の背景を作るなら、密集した配置が基本として適しています。二つの音の距離が広がるほど、別々の音色として聞こえやすくなるためです。和音を一つのまとまりにしたいのか、色の違いを聞かせたいのかを区別します。

弱く奏する場面では、広い間隔を使って独特の効果を得ることもできます。その可能性と、強奏で充実した和音を作るための配置を、同じ基準で扱わないことが大切です。

広い配置を使うなら、目的を明確にする

広い間隔そのものが、すべて不適切なわけではありません。離れた音色が聞こえることを、特殊な効果として使う考え方はあります。ただし、それは均一に溶け合った和声を作る目的とは違います。

また、上の二声が旋律を担い、ほかの声部から前へ出て聞こえてほしい場合には、背景の和音とは異なる配置が使われます。全体を同じ平面の和声として扱わず、旋律と背景という役割の違いも含めて考えます。

このように、配置を判断する際には「広いから悪い」「狭いからよい」とだけ覚えないでください。どの音域で、どの強さで、どの役割を持つ音を、どのように聞かせたいかを合わせて見る必要があります。

声部進行で生じた隙間は、機械的に埋めない

一つ一つの和音を見て、間隔を完全に均一に直したくなることがあります。しかし、各声部が正しく進む結果として、一時的に上声の間が広がる場合があります。

そのとき、空いて見える和音へ新しい音を足すと、かえって進行を損ねることがあります。配置を整えるために、和声の線を壊してはいけません。縦の間隔と、横の動きを両方見る必要があるのです。

同じように、正しい進行の結果、声部同士が一時的に同じ音へ重なることもあります。その瞬間の均等さだけを優先して、自然な進行を変更する必要はありません。原図による比較は、楽器を替えても和音が改善しない理由に掲載しています。

音域が広がるときは、中間も一緒に設計する

上声が上昇し、バスが下降して、和声の範囲が徐々に広がる場合には、その間を埋めるための重複が増えることがあります。最初の配置を上下へ引き伸ばすだけではなく、広がった中間をどう支えるかも考えます。

反対に、上と下が近づいていくなら、間を埋めていた重複を減らしていきます。全体の範囲が狭くなったのに同じ音数を同じように詰め込むのではなく、変化する音域に合わせて整理します。

ただし、これもその場で独立した声部を思い付きで足したり消したりする話ではありません。基本の和声との関係を保ちながら、重複をどう配置するかという問題です。声部の追加との違いは、フレーズ途中の一声追加についての記事を参照してください。

ピアノ譜の形を、そのまま配らない

ピアノ曲では、右手の上声と左手のバスが一オクターブ以上離れていることが多くあります。この形をそのまま別の楽器群へ配ると、中間の音域をどう扱うかが問題になります。

ピアノ譜の音符を一つずつ割り振れたからといって、オーケストラとしての配置も完成したとは限りません。上声のまとまり、バスとの距離、中間の役割を改めて確認します。特に強奏の場所では、広い隙間をそのままにしない注意が必要です。

この問題は、ピアノ譜を管弦楽にすると中間が空く理由で詳しく扱います。ここでは、音域ごとの間隔を考える原則が、楽器への移し替えにも関わると押さえておきましょう。

配置を点検するときは、下から上へ、次に横へ

まず、低音側の間隔を見て、その上に中音域、高音域がどのように重なっているかを確認します。全体が同じ密度になっていないか、途中に不必要な大きな穴がないかを見ます。

次に、各声部を前後へ追います。一瞬の間隔だけを修正して、自然な進行を壊していないかを確認してください。最後に、強弱と役割を照らし合わせ、均一な背景を作るのか、離れた音色の効果を使うのかを判断します。

低音と高音で間隔を変えるのは、楽器の空いている音域を埋めるためではありません。低い支えと高いまとまりを結び付け、一つの和音として響かせるためです。自然倍音列の並びを手掛かりにしながら、実際の声部進行と編成の中で、この考え方を使ってください。


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この記事は『管弦楽法の基本』の記述・補足に基づく解説です。参照:管弦楽法の基本 第三章「和声」 概論、声部数について、和音構成音の配置/木管楽器による多声部に渡る和声、重複による音色の混合、その他補足。Amazonへのリンクにはアソシエイトリンクを使用しています。

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