木管の和音で、楽器の上下を入れ替えるのは何のため?

木管の和音を読むと、オーボエとクラリネットが互い違いになっていたり、一つの楽器の音が別の楽器を上下から挟んでいたりします。なぜ、高い楽器から順番に並べないのでしょうか。

こうした配置は、複数の木管の色を、一つの和音としてまとめるための工夫です。どの音を鳴らすかだけでなく、どの音色を上下に並べるかでも、響きのまとまり方は変わります。 楽器の上下を入れ替える目的から考えてみましょう。

木管の和音は、違う色を合わせて作る

木管では、楽器ごとの音色が異なります。そのため、和音の構成音がそろっているだけでは、全体が一つに溶け合うとは限りません。各音が別々の楽器として聞こえ、まとまりにくくなる場合があります。

二管編成では、各種類が二本ずつなので、同じ楽器だけで三声の和音を作ることもできません。複数の種類を組み合わせることが必要になり、その組み合わせ方が響きに影響します。

たとえば、オーボエ二本を上、クラリネット二本を下へまとめると、音色ごとのまとまりを聞き分けやすくなります。これに対して、二つの色を交互に置いたり、一方がもう一方を囲ったりすると、音色を一体として聞かせる方向に働きます。

三つの並べ方を、原図で比べる

次の図には、堆積、交叉、囲い込みという三つの方法が並んでいます。まずは音名を細かく追う前に、同じ楽器が担当する二つの音が、全体のどこにあるかを見てください。

堆積・交叉・囲い込みによる木管四声の基本配置
リムスキーコルサコフ著『管弦楽法の基本』より。同じ楽器の二音が、上下のどこに置かれているかを比較します。

左の堆積では、上の二音をクラリネット、下の二音をファゴットが受け持っています。音色ごとのまとまりが上下に分かれ、楽器の音域順を守って積み重なっています。

中央の交叉では、オーボエとクラリネットの音が交互に入ります。上の二音を一種類、下の二音を別の種類と分けるのではなく、二つの色が和音の中で交差する配置です。

右の囲い込みでは、オーボエが外側の二音を受け持ち、その間にフルートの二音が入ります。一つの音色が上と下を包み、別の音色をその内側へ置く形になっています。

堆積法は、自然な音域順を出発点にする

堆積法では、楽器の音域順が明確に保たれます。高い役割の楽器を上へ、低い役割の楽器を下へ置くので、全体の構成を把握しやすい方法です。

ただし、楽器を自然な順序に並べれば、いつでも音色が均一になるわけではありません。各楽器が実際に使っている声区も確認する必要があります。一方が弱く、他方が強くよく通る高さなら、順序が正しくても釣り合いません。

堆積法は、何も考えなくてよい配置ではなく、判断の出発点です。その高さで必要なまとまりが得られるかを考え、別の並べ方が役立つかを検討します。

交叉法は、音色の境目を分散させる

交叉法では、二種類の楽器が交互に音を担当します。音色のまとまりを、上半分と下半分に分けない形です。こうすることで、別々の色として聞こえやすい関係を、一体の響きへ近づける工夫になります。

ここで入れ替えているのは、和音の構成音そのものではなく、その音の担当です。同じ和音でも、どの楽器がどの高さを受け持つかを変えることで、音色の関係を変えます。

ただし、低い音へ移した楽器が、その声区で弱くなりすぎるなら、配置の工夫だけでは解決しません。交叉させたという形よりも、交叉した後の各音の条件が大切です。

囲い込みは、一方の色を内側へ置く

囲い込みでは、一つの楽器の二音が外側を作り、もう一つの楽器の二音を挟みます。図の右の例では、オーボエの二音がフルートの二音を包んでいます。

この方法も、二つの音色を上下の塊に分けず、組み合わせて聞かせるためのものです。外側と内側という違う役割を、二つの音色へ与えると考えると理解しやすくなります。

ただし、外側に置く楽器の上下が、あまりに異なる声区になっていないかを確認します。同じ楽器が囲っているから、上下が必ず同じ性格になるわけではありません。使う範囲が広がるほど、この確認が重要になります。

配置法を選ぶ前に、声区を合わせる

三つの方法のどれを使う場合にも、弱く柔らかい音になる声区と、強くよく通る声区を、無造作に組み合わせないことが基本です。音色の一体感を求めるなら、対応する声区を考えます。

木管は、低音、中音、高音で性格が変わります。譜面上で近い二音でも、それぞれの楽器にとっては違う位置にある場合があります。楽器の順番を変えると、この声区の関係も変わります。

そのため、配置の形を先に決めてから、演奏できる音を押し込むという順序は避けましょう。声区が釣り合わない実例は、フルートとオーボエの高さを近づければ溶け合うかに掲載しています。

一つの和音だけでなく、進行で選ぶ

並べ方を決めるときには、一つの和音がどのように響くかだけでなく、各声部が次にどう進むかも考えます。共通音を保持する声部と、動く声部を、楽器の割り当てとして整理することが重要です。

ほかの条件が同じなら、聞き手は動きのある声部へ注意を向けやすくなります。そこで、動く線をどの音色が担い、保つ線をどの音色が担うかを明確にします。

次の図では、タイで保持される音と、音高が変わる声部を比べてください。クラリネットとファゴットの担当が、単に各和音の空いている音へ割り当てられているのではなく、前後へ続く線として考えられています。

共通音を保持する声部と動く声部を木管へ割り当てる例
『管弦楽法の基本』より。保持される音と動く音を横へ追い、担当する音色を確認します。

和音ごとに見た目のよい配置へ入れ替えるだけでは、音色の線が途中で分断されることがあります。まず保持する線と動く線を追い、その関係を生かせる配置を選びます。縦の並びと横のつながりを、同時に見るわけです。

三声では、交叉と囲い込みが同じ形になる

三声の和声では、同じ楽器や同族楽器を二本と、別の楽器を一本使う形が基本になります。ここで一本の楽器を二本の間へ置くと、交叉と囲い込みは同じ形になります。

三声では、堆積法がよい結果を得るための基本です。交叉や囲い込みを使う際には、各声部が正しく進行することを、特に確認します。四声の図をそのまま一音減らした形として扱わないことが大切です。

また、三声をすべて違う音色へ割り当てることは、均一な木管の和声を作る基本形ではありません。二本の共通する音色と、一本の別の色という関係を出発点に考えます。

三管編成では、同じ音色でまとまりを作れる

同じ種類が三本使える場合には、密集した三声を同じ楽器や同族楽器で作れます。二管編成とは、選べる組み合わせが変わります。

四声なら、同じ楽器三本と別の楽器一本を組み合わせ、堆積法を基本に考えることができます。交叉や囲い込みも可能ですが、やはり声区の対応と、離れた声部の進行を確認します。

つまり、配置法の選択は、声部数と編成にも関わります。二種類を二本ずつ使う四声の形だけを覚えるのではなく、使える同族楽器の数と、和声の声部数を合わせて考える必要があります。

広い配置では、均一さを期待しすぎない

木管で均一な背景を作るなら、密集配置が基本です。音の間隔が大きくなると、別々の音色として聞こえやすくなります。交叉や囲い込みを使っても、どんな広さの和音でも一体になるわけではありません。

解離配置で四声を書く場合には、自然な音域順に従う堆積法を考えます。解離配置で囲い込みを作るなら、上下をそれぞれ異なる音色にする必要があります。密集配置の囲い込みを、単純に広げた形とは条件が違います。

広い音色の対照を狙う場合と、均一に溶け合う背景を狙う場合を分けてください。配置法の名前が同じでも、音域の広さによって、期待する聞こえ方は変わります。

一部の声部だけ、重複を増やしていないか

並べ方を工夫する際に、足りないと感じた一声だけへ楽器を加えると、そこが意図せず目立つことがあります。音色を混ぜる配置と、声部ごとの重複数の偏りは、別の問題です。

均一な和声を作るなら、各声部の重複条件をそろえることが基本になります。ある声部を主役として出したい場合は別ですが、背景の中へ偶然の強調を作らないようにします。

堆積、交叉、囲い込みを比べる際にも、途中で本数を変えていないかを確認してください。声部の突出については、木管の和音で一音だけ飛び出す理由で説明しています。

形を選ぶより先に、まとまり方を選ぶ

まず、二つの音色を別々の塊として感じさせたいのか、一つにまとめたいのかを考えます。次に、各音が担当楽器の適した声区にあるかを確認し、三つの並べ方を検討します。

その後、共通音を保つ線と動く線を追い、フレーズ全体として自然に続くかを見ます。一つの和音だけで配置を完成させず、前後を含めて選ぶことが大切です。

木管の上下を入れ替えるのは、総譜の見た目を複雑にするためではありません。音色の違いを、和音の中でどう組み合わせるかを選ぶためです。声区、声部数、前後の進行を合わせて見れば、三つの方法を目的に応じて使い分けられます。


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この記事は『管弦楽法の基本』の記述・補足に基づく解説です。参照:木管楽器による和声 概論、4声または3声の和声。Amazonへのリンクにはアソシエイトリンクを使用しています。

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