超高音や超低音を使い続けると、なぜ効果が薄れる?
超高音や超低音は、オーケストラの印象を大きく変えます。しかし、その強い効果を求めて使い続けると、耳を疲れさせ、音域の変化による対比も作りにくくなります。
極端な音域は、使える限界まで広げるためではなく、ある瞬間の表情を変えるために選びます。 どの音まで出せるかに加え、どこで登場し、どれほど続き、何と対比するかを考えることが大切です。
中音域があるから、両端の効果が生まれる
オーケストラの中音域は、通常聴き取りやすい範囲として音楽の多くを支えます。その周囲に高音や低音が加わることで、響きの明るさ、暗さ、広がりに違いを作れます。
極端な高さや低さだけを続けると、その場所が音楽の通常の状態になってしまいます。さらに上へ、さらに下へという方向にも限りがあるので、音域の変化で次の場面を印象づける余地が少なくなります。
たとえば、高い輝きを短いフレーズだけに使い、前後を別の音域へ戻せば、その登場を対比として扱えます。一方、長い区間を同じ極端な高さに置けば、その輝きが新しい変化として現れる機会は減ります。
ここで必要なのは、極端な音域を禁止することではありません。短いパッセージやクライマックスで、全体の響きを劇的に変えるために使うという、時間の設計です。
高音だけにまとめると、何が変わるか
オーケストラを非常に高い音域へまとめる場合には、高音のヴァイオリンにフルートやピッコロを重ねる組み合わせが考えられます。ヴァイオリンをソロやdivisiで使うことも含め、輝かしい性格を作る方向です。
このとき、単に全パートを同じだけ上へ移せばよいわけではありません。高い音域に適した楽器を選び、必要な声部をそこへ配置することになります。
また、高音の輝きを出すことと、大人数で厚くすることは同じではありません。どの楽器をどの人数で使い、どのような重複を作るかによって、結果の性格は変わります。
高音域の音を見たら、まず「この音が出るか」だけでなく、その場所でどのような表情を担わせたいかを確認します。木管の音域による性格の違いは、出せる音なら同じように表情を付けられるかで詳しく説明しています。
低音だけにまとめる方が、さらに難しい
非常に低い音域へ全体をまとめることは、高い音域へまとめるよりもまれです。低いところで音が近接すると、和音の音と音の間隔が適切でなくなりやすいためです。
低い響きには、コントラファゴット、低音域のファゴット、バスクラリネット、ホルン、トロンボーン、テューバなどが関わります。暗く陰鬱な色を作れますが、音の選び方だけでなく間隔の取り方が重要になります。
たとえば、中音域でまとまっていた密集和音を、そのまま何オクターブも下げると、もとの配置と同じ明瞭さが得られるとは限りません。同じ音程の並びでも、置かれる高さが違えば配置の条件も変わります。
低音を深くすることと、低い場所へ構成音を詰め込むことは別です。 低音の間隔については、低音は広く、高音は近く配置する理由を参照してください。極端な低音でも、この基本を忘れないようにします。
高い響きと低い響きでは、使う楽器をそのまま交換できない
高音側の輝く組み合わせと、低音側の暗い組み合わせは、それぞれの楽器が働く音域に結びついています。高音用の編成をそのまま低音へ移す、低音用の編成をそのまま高音へ移すという交換はできません。
音楽の高さを変える際には、担当する楽器も選び直す必要が生じます。ある音型が同じ形で反復されていても、その高さが変わったら、同じ配分が適しているかを確かめます。
反復しても似た性格を保ちたいなら、楽器の自然な音域の順序に沿って選ぶことが大切です。反対に、反復に伴って性格を変える意図があるなら、その新しい表情に合う音色を選びます。
この区別をせず、「同じ旋律だから同じ楽器」と固定すると、音域が変わったところで意図しない性格になることがあります。極端な音域ほど、担当楽器と音楽の目的を一緒に見直します。
上下を離せば、必ず壮大になるわけではない
高音と低音を大きく離すと、広大な響きが作れそうに感じます。しかし、中間を空けたまま両端だけを鳴らすことは、通常のまとまった和音の配置とは違います。
リムスキーコルサコフ著『管弦楽法の基本』では、上下を大きく離した配置を、異様な雰囲気のために使う例も扱っています。基本的な配置から離れるからこそ生じる、特別な色として考えます。
そこでは、高音とバスが大きく離れていても、中ほどに別の音を置くことで、上下の距離感をある程度和らげる場合があります。両端だけを見るのではなく、中間に何があるかが重要です。
逆に、空白が大きいこと自体を効果として使うなら、通常の充実した合奏とは異なる響きになることを受け入れます。単に音域を広くした結果、偶然に穴が空いた状態とは区別しましょう。
具体例として挙げられる『雪娘』の配置では、ハープを伴うピッコロとグロッケンがバスからおよそ四オクターブ上に置かれ、その間でフルートが増四度または減五度を鳴らします。上下の大きな距離を残しつつ、中間の響きで隔たりを和らげる考え方です。
この例から学びたいのは、特定の距離をそのまま写すことより、両端と中間を別々に設計している点です。風変わりな響きを狙う場合でも、隙間をただ放置するのではなく、どこまでつなぎ、どこから離れて聞かせるかを考えます。
広い空白を使うなら、強弱にも条件がある
中間を大きく空けるような配置は、柔らかなパッセージで効果を発揮します。大きな音にすると、オーケストラが無理をして鳴っているような印象につながりやすくなります。
そのため、弱い不思議な響きとしてよかった配置を、そのまま強奏へ拡大すれば壮大になるとは考えないでください。音域の広さだけでなく、音の密度と強弱が一組になっています。
たとえば、柔らかな場面で上下の隔たりを生かしたあと、力強い場面へ進むなら、中間の声部や重複をどう整えるかを考えます。強弱記号だけを大きくして終わりにはできません。
中間が空く問題は、ピアノ譜を管弦楽にすると空っぽに感じる場合でも扱っています。こちらでは、空白を意図した表情として使う場合と、配置上の不足として直す場合を分けることが要点です。
広い音域と大きな音量は、関係するが同じではない
同時に広い音域が鳴る場面では、音量も大きくなることが多くあります。高音側と低音側が離れるにつれて、中間を満たす声部の重複が必要になり、参加する響きが増えるためです。
しかし、「音域が広がれば必ずクレッシェンド」と固定することはできません。楽器を減らしたり、弦をさらにdivisiにしたりすることで、音域を広げながら弱くなる例もあります。
ここでは、音域の広がり、声部の数、各声部を担当する人数を分けて見ます。高さの両端が広がっても、一つの線を支える人数が減れば、同じ厚みのままではありません。
自分の譜面が広がるとき、実際に何が増えているのかを確かめましょう。最高音と最低音だけを見て音量を決めるより、内側の配置と演奏者の配分まで見る方が、変化を具体的に設計できます。
クライマックスに極端な音域を使うなら
曲の頂点に高音や低音の極端な響きを使う場合、その直前まで同じ効果を使い切っていないかを確かめます。頂点に到達してから加えられる音域や音色が残っていると、変化を作りやすくなります。
もちろん、最高音と最低音を同時に鳴らせばクライマックスが完成するわけではありません。和声の流れ、声部の動き、参加する楽器の増減と結びついて、頂点の意味が生まれます。
長いクレッシェンドなら、最初から全ての色を使わず、最後のアクセントまで何かを残す考え方も重要です。音域の極端さは、そのような全体設計の一部として選びます。
楽器の追加と曲の山場の関係は、最初から全部の楽器を鳴らすべきかで詳しく扱っています。ここでは「どの高さを、どの時点まで残すか」という視点を加えてみてください。
音域の効果を保つために、前後を読む
書いたパッセージを点検するときは、極端な高さや低さが何小節続くかだけでなく、その前後にどのような音域があるかを見ます。短い使用でも、直前から似た響きが続いていれば、対比は小さくなります。
反対に、中音域を中心にした流れから一時的に高音だけへ移るなら、編成をむやみに大きくしなくても、音域の違いを表情にできます。何を加えるかだけでなく、どこから移るかが大切です。
最後に、その効果が必要な長さを確認します。驚きや輝きを示したあとも惰性で続けていないか、次の表情へ移る場所があるかを見直します。具体的な小節数を一律に決めるより、フレーズの役割に合わせて考えましょう。
極端な音域の強さは、極端でない音域との関係の中で生まれます。 高さの限界を試すだけでなく、対比、持続時間、配置、強弱を一緒に設計することで、その一瞬を生かせます。
音域を使った対比や配置の考え方は、『管弦楽法の基本』の書籍版・PDF版で読むことができます。
この記事は『管弦楽法の基本』の記述・補足に基づく解説です。参照:様々なアレンジ手法。Amazonへのリンクにはアソシエイトリンクを使用しています。

