【会話で学ぶ】クラリネットの旋律を低く移すと、なぜ印象が変わる?
クマニコル:博士、クラリネットに書いた旋律を、そのまま低い音域へ移してみたんです。音の並びもリズムも変えていないのに、違う性格の旋律になったように感じます。楽器を取り替えていないのに、どうしてでしょう?
リムコフ博士:クマ君、木管の音色は楽器の名前だけでは決まらないんだ。同じクラリネットでも、低い音を使うか、高い音を使うかで響きの性格が変わる。旋律を別の高さに移すときは、音の高さと一緒に、音色や強さの感じも変わると考えよう。
クマニコル:「クラリネットの音色」という一つの箱に入れて覚えていました。低い音から高い音まで、同じ色のまま広がっているわけではないんですね。
リムコフ博士:そうだね。『リムスキーコルサコフ著「管弦楽法の基本」』では、木管は楽器同士の違いだけでなく、一つの楽器の中にある音域ごとの違いにも注意を向けている。まずは、その見方を覚えると選びやすくなるよ。
「出せる音」と「表現しやすい音」は違う
クマニコル:音域表で最低音と最高音を調べて、その間に収まっていれば十分、というわけではないのですか?
リムコフ博士:音域に収まるかどうかは大切な確認だよ。ただ、それだけでは、そこでどんな表現を求められるかまではわからない。たとえば、弱く始めて少しずつ強くし、また静かに消えていく旋律なら、その音域で音量の変化をどれだけ付けられるかも考えたいね。
クマニコル:同じ高さの音を出せることと、その音をいろいろな強さで表現できることは、分けて考えるんですね。書籍には、そのための目安があるのですか?
リムコフ博士:本書では「最大表現音域」という言葉を使っている。これは、フォルテやピアノ、少しずつ強くするクレシェンド、少しずつ弱くするディミヌエンドなど、多くの音量表現ができる音域のことだよ。いちばん高い音や、いちばん大きく鳴る音、という意味ではないんだ。
クマニコル:「最大」という言葉で、最大音量を出す場所かと思いました。大きくできるだけでなく、小さくしたり、途中の変化を付けたりしやすい範囲なのですね。
リムコフ博士:その理解でよいよ。だから、旋律にどんな表情を付けたいかを考えた後で、その楽器のどの音域ならその表情を生かせるかを見る。音の高さが合うという理由だけで決めないことが大切なんだ。
最大表現音域の外は、使わない方がよい?
クマニコル:それなら、できるだけ全部の音を最大表現音域に入れておけば安心ですか? 範囲の外に出る音は直した方がいいのでしょうか。
リムコフ博士:範囲の外だから悪い音、とは考えないようにしよう。本書は、その外側では音量表現よりも、その楽器ならではの豊かな色彩に注目するよう勧めている。幅広い強弱の変化を求めるのか、特徴のある音色を求めるのかで、見るところが変わるんだ。
低音・中音・高音で、何が変わる?
クマニコル:最初のクラリネットの話に戻ると、低いところへ移したときには、何が変わったと考えればいいですか?
リムコフ博士:本書では、木管を低音・中音・高音・超高音という四つの声区に分けている。「声区」は、音域ごとの響きの特徴を見るための区分だね。フルートとクラリネットは、中高音では透明感のある響き、低音では暗さや鼻にかかったような性格、超高音では突き刺すような性格として説明されている。
クマニコル:低く移すと、明るさや透明感をそのまま保つのではなく、低音側の性格が現れる。僕の旋律の印象が変わったのも、そういう点から考えられるんですね。
リムコフ博士:うん。ただし、これは音色を考える手掛かりであって、クマ君の演奏を実際に聴いて原因を断定したわけではないよ。まずは、移す前後で旋律がどの声区を通るか比べてみよう。楽器名が同じでも、使っている場所が違うことに気付けるはずだ。
声区の境目で、急に別の音色になる?
クマニコル:四つに分けるなら、ある音までは中音、次の音からは高音、ときっぱり区切れるのですか?
リムコフ博士:本書も、境界を厳密に決めるのは難しく、音質と強さは連続的に変わるとしている。区分は便利だけれど、音色が階段のように切り替わる図だと思わない方がよいね。
クマニコル:一音ずつ上がっていく旋律なら、境目だけが突然飛び出すとは限らないんですね。では、違いがわかりやすいのはどんな動きですか?
リムコフ博士:ある声区から別の声区へ大きく跳ぶときだよ。本書では、連続的に移るときに比べて、跳躍したときには音質とパワーの差がはっきり現れると述べている。低いところから高いところへ移る旋律を書くなら、音程の幅だけでなく、響きの性格がどう変わるかも考えたい。
クマニコル:旋律が跳ぶと、音の高さだけでなく音色にも変化が生まれる。だから、同じ音の並びを移しただけでも、もとの表情がそのまま残るとは限らないのですね。
リムコフ博士:その通り。音域表を見るときは、出せる範囲の外枠に加えて、どの場所でどのように響くかを読むようにしよう。
音色を表す言葉は、使い方の手掛かり
クマニコル:「荒々しい」「乾いた」「突き刺すような」と聞くと、その音域は避けたくなります。きれいに聞かせたいなら、使わない方がいいのでしょうか。
リムコフ博士:それらは音の特徴を伝えるための比喩だよ。本書自身も、音色を言葉にする難しさを述べている。「乾いた」から音楽的でない、とは言っていない。柔らかく美しい響きだけでなく、鋭さや荒々しさが必要な場面もあるからね。
クマニコル:楽器の長所と短所の一覧ではなく、どんな場面に合う性格かを考える言葉なのですね。
リムコフ博士:うん。同じ特徴でも、求める表現に合っていれば意味がある。まずクマ君の旋律では、音量の細かな変化を残したいのか、低音の色を生かしたいのかを決めてみよう。そこが決まると、移す高さを選ぶ理由もはっきりする。
クマニコル:これからは、最低音と最高音だけでなく、旋律が通る声区、そこで付けたい強弱、欲しい音色の三つを確認します。「クラリネットだから大丈夫」で終わらせないようにします。
リムコフ博士:それでよいよ。低く移した後にも同じ表情を求めるなら、音域と強弱の付け方を一緒に確認しよう。低音の色を生かしたいなら、その変化を旋律の表情として選べばよいんだ。
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本文の根拠:第一章「木管楽器」の音域・声区・最大表現音域の説明。原著の分類に沿った解説で、音域図の数値や譜例は転載していません。

