【会話で学ぶ】チェロの旋律は移調すると音色が変わる?使用する弦と補強の選び方
同じ旋律を別の調で繰り返す。担当はチェロのままだから、音色も同じだろうか。原典に挙げられる《アンタール》の二つの場面を比較し、移調に伴う弦と音色の選び方を考えます。
クマニコル:博士、チェロの旋律を別の調で再び出したいんです。音域には収まっていますから、音の高さだけ直せばよいでしょうか。
リムコフ博士:クマ君、旋律の形を保つことと、同じ響き方を保つことは別だよ。担当がチェロのままでも、どの弦で歌うのかが変われば、音色の性格も変わる。
クマニコル:楽器を替えていないのに、編曲を見直す必要があるんですね。
リムコフ博士:うん。チェロのA弦には、明るく豊かな胸声のような性格がある。一方、D弦は甘く、やや弱い性格を持つ。どちらもチェロの音だが、旋律をどう歌わせるかという点では違いがあるんだ。
同じ旋律が、別の弦と組み合わせで現れる例
クマニコル:同じ旋律で、その違いを使っている例はありますか。
リムコフ博士:《アンタール》の練習番号56では、チェロがA弦でcantabileの旋律を奏する。練習番号63では、同じ旋律が変ニ長調になり、D弦で演奏され、ファゴットも重なっているよ。
原典本文が示す二つの場面の比較です。使用する音符や伴奏全体を再現するものではありません。
| 役割・位置 | 楽器と鳴らし方 |
|---|---|
| 《アンタール》練習番号56 | チェロのA弦によるcantabile。 |
| 《アンタール》練習番号63 | 同じ旋律を変ニ長調で。チェロはD弦を使い、ファゴットが重なる。 |
クマニコル:後の場面は、調だけでなく、弦と重なる楽器まで違うんですね。
リムコフ博士:そこが比較の手掛かりになる。旋律が同じだから配分も固定、とはしていない。新しい高さでどんな色を与えるかを、弦の選択やほかの楽器との組み合わせまで含めて考えられるんだ。
ファゴットは、弱くなった分を埋めるだけ?
クマニコル:D弦の音がやや弱いから、ファゴットで音量を戻しているのでしょうか。
リムコフ博士:そこを一つの理由だけに決めない方がいいね。D弦での演奏とファゴットの重なりは確認できるが、二つを合わせた音色として考えることも大切だ。音量の不足を数で補った、とだけ読むと、響きの性格を見落とす。
クマニコル:同じチェロの音に戻すための補修、というより、二度目の場面の響きを作る選択として見るんですね。
リムコフ博士:そう。自分の曲で同じ組み合わせを使うなら、A弦の明るい歌い方を引き継ぎたいのか、D弦の性格を生かして別の表情にしたいのかを先に決めよう。
クマニコル:移調したチェロには、必ずファゴットを足すという決まりではないんですね。
リムコフ博士:もちろん違うよ。これは一つの作品で実際に示される選択だ。旋律を移調したという理由だけで、自動的に別の楽器を重ねる必要はない。
チェロの音域だけでなく、移調後に使う弦の音色を確認する
クマニコル:どの弦になるかを考えるには、まず何を見ればよいですか。
リムコフ博士:楽器全体の最低音と最高音だけでなく、各弦の一般的な音域を見てみよう。次の図では、実線が各弦の範囲、点線が楽器全体の低・中・高・超高という区分を表している。チェロの段に注目してごらん。

クマニコル:楽器全体の範囲に入っているかだけでは、A弦の表情なのかD弦の表情なのかまでは決まりませんね。
リムコフ博士:そのとおり。ただし、この図は音を見れば使用弦が一つに決まる一覧ではないよ。一般的な範囲を手掛かりに、旋律のつながりと、求める音色を合わせて考えるためのものだ。
クマニコル:同じ色を守るためなら、低い弦のかなり高い位置まで使ってもよいですか。
リムコフ博士:弦の名前だけを優先して、無理に高い位置へ押し込まないことだね。低い側の弦でやたらに高い音を求めることには注意が必要だ。使用弦を保ちたいという希望も、演奏の自然さと一緒に検討しよう。
移調後に、残したい表情を選び直す
クマニコル:元の音符を移したら終わり、ではなく、移した後の旋律がどの弦でどう歌うかを確認する。音色が変わること自体は失敗ではないんですね。
リムコフ博士:うん。再び現れる場面で違う表情が必要なら、その変化を生かせる。同じ歌い方を求めるなら、そのための条件を改めて確かめる。どちらを選ぶかが編曲の判断だね。
クマニコル:《アンタール》の例も、「同じ旋律なのに違う」のではなく、「同じ旋律を違う響きで出している」と読めますね。
リムコフ博士:その視点で見てみよう。移調したチェロの旋律は、同じ楽器名だけでは同じ音色を保証できない。使用弦と重なる楽器を確認し、二度目の登場で聴かせたい表情を選ぶことが答えだよ。
低音のチェロにファゴットを重ねる配分は、「チェロとコントラバスの低音に、ファゴットを足すと?」で詳しく説明しています。
出典:『管弦楽法の基本』第一章「弦楽器」、第二章「メロディ」チェロの項(《アンタール》練習番号56・63)。作曲場面を設定した会話は、記述をもとに構成しています。
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