低い楽器を足しても、バスの動きがぼやけることがある?

バスの動きがはっきりしないとき、さらに低い楽器を足せば解決するでしょうか。低い響きは増えても、和声を支える線の動きまで明確になるとは限りません。問題が、音量や深さではなく、元のバス声部と上声部の位置関係にある場合があるからです。

バスを一オクターブ下で重ねていても、元のバスが上三声と交差してしまうと、バスの進行は不明瞭になります。低い音を追加することと、バスの線を分かりやすくすることは別です。まず、何を重ねているのかに戻って考えましょう。

「いちばん低い音」と「バスの声部」を分ける

ある瞬間の和音を見れば、いちばん低い音を指さすことはできます。しかし、バス声部を読むときには、その音だけでなく、前の和音からどのように動き、次の和音へどのように続くかを追います。

オーケストラでは、一つのバス声部を複数の楽器や複数の高さで重ねることがあります。その場合、最も低い音を鳴らしているパートだけを見ても、元の声部と上声部の関係までは分かりません。

たとえば、元のバスと、その一オクターブ下の重複があるとします。低いコピーは土台を加えますが、元の線は消えずに残っています。その元の線が上三声と混ざる位置に入れば、低い支えがあることだけでは問題を打ち消せないのです。

下で重ねても、上側の交差は残る

バスを下オクターブで重ねると、上三声から十分離れた低音ができたように見えます。そこで安心してしまうと、重複元のバスがどこを通っているかを見落とします。

和声の進行を明確にするには、元のバスと上三声の関係も整っている必要があります。下に同じ線があっても、上側のバスがほかの声部と交差するなら、その進行は不明瞭になります。重複は、元の配置を無条件に正当化するものではありません。

これは、もっと低い音を足せば必ず直る問題でもありません。下側の層を増やしても、上側で起きている交差は残ります。修正すべき場所を間違えないために、重複元の線を先に確認する必要があります。

原図の「不良」は、低音不足を示しているのではない

次の原図では、下段にバスのオクターブ重複が書かれています。それでも全体には「不良」と記されています。低い音がないから不良なのではなく、上側のバスと上三声の位置関係が問題になっています。

バスを下オクターブで重ねても、元のバスと上声の関係に問題がある不良例
リムスキーコルサコフ著『管弦楽法の基本』より。下の重複だけでなく、その上側と上三声との関係を確認します。

図を見るときは、まず下段の二つの高さが、オクターブ関係で同じ進行をしていることを確認します。次に、そのうち上側の音と、上段の低い声部の位置を比較してください。譜表が分かれているからといって、実際の音域まで分離しているとは限りません。

ここでは上下ともヘ音記号が使われています。紙面上で上段にある音と下段にある音を、そのまま「高い声部」「低い声部」と判断せず、実際の高さで読みます。楽譜の段の配置と、響きの中の上下関係を混同しないことが大切です。

この図が伝えるのは、低いコピーだけに注目してはいけないということです。バスを二つの高さへ広げたときには、下の支えと同時に、上側の線が和声の中でどこにあるかを確認します。

縦に並べ直すだけでは、線を見失う

各和音を低い順に並べれば、その瞬間の配置は分かります。しかし、それだけでは、ある音が前の和音のどの声部から来たのかが見えなくなる場合があります。

交差の問題を調べるときには、同じ声部を横へ追うことが必要です。ある瞬間だけ最下音をバスと呼び直すのではなく、もともとのバスの線をたどります。そうして初めて、上三声との関係が途中でどう変わったかを確認できます。

そのため、総譜が複雑なときは、基本の声部と重複を分けて見ると整理しやすくなります。どの楽器がどの線を共有しているかを把握してから、実際の上下関係を見ます。パート数と声部数の違いは、パート数と和声の声部数の違いで詳しく説明しています。

低音楽器を増やす前に、何が不足しているかを決める

「バスが弱い」という感想には、異なる問題が含まれます。低い響きの量が足りない場合もあれば、音色を変えたい場合もあります。今回のように、声部の進行が不明瞭な場合もあります。

音量を補うための重複は、音の量に働きかけます。別の楽器を重ねれば、音色の性格も変わります。しかし、声部の上下関係に問題があるなら、まず配置と進行を見直す必要があります。

たとえば、バスにもう一つ低い楽器を加えた結果、響きは重くなったのに動きが分かりにくいままなら、追加の目的が問題と合っていない可能性があります。何を改善したいかを、「深さ」「色」「進行の明確さ」のように分けて考えてください。

元のバスを見直すことが、修正の出発点

交差が見つかったら、まず重複元のバスを含めて、基本の声部配置を確認します。バスの線はどこを通るべきか、上三声はどの高さで進むか。その関係を、前後の和音も含めて整理します。

このとき、問題のある一つの和音だけを直して終わらないようにしましょう。ある音を動かせば、その前後の声部進行も変わります。元の交差を解消しても、別の場所のつながりを壊してしまっては、和声全体の改善になりません。

具体的な修正は、使っている和声やフレーズによって異なります。「バスを必ずもう一オクターブ下げる」といった一つの処方にするのではなく、基本の線が明確に続く配置へ戻って考えることが重要です。

バスの重複は、下へ広げるのが基本

上三声の一部をオクターブで重ねる場合は上側へ、バスを重ねる場合は下側へ、という方向の違いがあります。これを、上声も低声も同じように増やせると考えないようにします。

特に解離配置では、バスの重複によって響きが重くなることにも注意が必要です。低い層が増えることは、単なる補助線の追加ではなく、全体の性格にも関わります。必要な重さかどうかを判断します。

また、バスを三つものオクターブでなぞる方法は、通常の低音補強として使うものではありません。本当に重いベースラインを求める場面と区別します。この点は、低音を何オクターブも重ねてよいかで扱っています。

どのバス音でも、同じように増やせるわけではない

バスを重ねる際には、その音の和声上の役割も確認します。扱いの繊細な声部を重ねると、進行がぎこちなくなったり、一瞬だけ望まないアクセントが付いたりする場合があります。

属和音の転回形や、七の和音、減七の和音などの重複を考える場面では、単に低い音を補うという発想だけで進めないことが大切です。どの音を重ね、その音が次へどう進むかを見ます。

これは、バスと上声の交差とは別の注意点ですが、共通するのは、重複が無色透明な操作ではないということです。同じ音名を増やしても、和声の中でその音が持つ重みや、聞こえの強調は変わります。

中間が空く問題と、交差する問題を混同しない

上声と低声が離れすぎれば、中間が空虚になることがあります。一方、今回の問題は、元のバスが上三声へ混ざってしまうことです。広すぎることと、線が交差することは、別々に確認しなければなりません。

交差を避けようとして、すべての音を極端に離せばよいわけではありません。和音の配置には、低いところを広く、高いところを次第に狭くするという指針があります。声部の明確さと、響きのまとまりを両方考えます。

特にフォルテでは、上と下の間を大きく空けすぎた和音は問題になります。だからこそ、低い音の有無だけでなく、和声全体の配置を確認する必要があります。音の間隔については、低音と高音で和音の間隔を変える理由を参照してください。

弦の低音へ木管を加える場合にも

チェロとコントラバスの低音へファゴットを加える場合、ファゴットをチェロと同じ高さに重ねる配置があります。このとき上の層はチェロとファゴット、下の層はコントラバスになります。

この配置は、低音の旋律に甘く柔らかな色を加えるために使えます。ただし、音色の組み合わせが有効であることと、声部進行の問題がないことは別です。上の層が何の線を重ね、上声部とどう関係しているかを見る必要があります。

楽器の組み合わせそのものは、チェロとコントラバスにファゴットを足す記事で詳しく説明しています。ここで大切なのは、よく使われる編成を選んだ後も、実際の音の配置を確認することです。

低音を足す前の、三段階の確認

まず、基本となるバスの線を見つけ、フレーズの始めから終わりまで追います。次に、その線が上三声と交差していないかを、実際の音高で確認します。譜表の上下だけで判断しないことが重要です。

そのうえで、下オクターブの重複が何を加えているかを考えます。低い支えや音色の厚さが必要なら意味がありますが、元の線の不明瞭さを隠すために使わないようにします。

低い音が鳴っていることだけでは、バスの進行は保証されません。重複した下の音だけでなく、重複元の上側の線まで読むこと。 それが、低音を増やしたのに動きがぼやける問題を見つけるための、確かな手掛かりになります。


バスの重複と各声部の配置を続けて学ぶには、『管弦楽法の基本』の書籍版・PDF版へ。

書籍版をAmazonで見る / PDF版を見る

この記事は『管弦楽法の基本』の記述・補足に基づく解説です。参照:管弦楽法の基本 第三章「和声」 概論、声部数について、和音構成音の配置。弦の低音の重複については、第二章の弦楽器群および混合音色の節も参照しています。Amazonへのリンクにはアソシエイトリンクを使用しています。

Follow me!