【会話で学ぶ】音域を広げながらディミヌエンドするには?消えていく響きの編曲
小さく消えていく場面でも、響きまで狭く収めたいとは限りません。「上下へ広がりながら、姿だけが薄くなる」ような終わり方は作れるでしょうか。『ムラダ』の作例に基づき、音域と音量を別々に動かす方法を考えます。
クマニコル:博士、何かが遠ざかって消える場面を書きたいんです。でも、音の範囲はむしろ広がってほしい。広げるなら、どうしてもクレッシェンドになりますか?
リムコフ博士:必ずしもそうではないよ、クマ君。音の高低の範囲が広がることと、大きく聞こえることは別の変化だ。木管が演奏をやめ、弦をさらに分割していくことで、音域を広げながらディミヌエンドする方法がある。
クマニコル:広い和音にするのに、演奏へ加わる楽器は減らすんですね。
リムコフ博士:そう。上と下の距離が増す一方で、響きに参加する群や、一つの声部を支える人数を変える。二つの方向を分けて考えると、今回の注文は矛盾ではなくなるよ。
広がると大きくなりやすいのは、なぜ?
クマニコル:普通は音域を広げると、音量も増える感じがします。
リムコフ博士:上三声が上がり、バスが下がっていくと、その間が広くなるね。その空間を支えるために、上三声の一部を二重、三重に重ねれば、鳴る音も増えていく。そうした配分なら、広がりと増大が結び付くんだ。
クマニコル:では、間を広げるだけで、何も足さなければよいのでしょうか?
リムコフ博士:ただ空白を広くすればよい、という話でもない。和声としての配置と、各声部の前後への動きは必要だよ。今回注目したいのは、広がる音域を保ちながら、音色の重なりと各声部の人数を整理する方法だ。
『ムラダ』の退場:音域拡大・divisi・ディミヌエンドを組み合わせる
原典では『ムラダ』第3幕の譜例No.258–259を、音域が広がる二つの例として挙げています。一方はクレッシェンド、もう一方はディミヌエンドで、亡霊の登場と退場に対応すると説明されています。以下は、とくに退場側の配分を文章から整理したものです。
| 役割・位置 | 楽器と鳴らし方 |
|---|---|
| 音の高低の範囲 | 和声の音域は広がっていく。 |
| 木管 | 演奏をやめていく。 |
| 弦楽器 | さらにdivisiしていく。 |
| 全体の強さ | 音域の拡大と同時にディミヌエンドする。 |
クマニコル:divisiは、弦の人数を増やすことですか?
リムコフ博士:今いるセクションを分けて、別の声部を担当させることだよ。同じ線を大勢で弾いていた状態から分ければ、一つの声部を受け持つ人数は少なくなる。書かれた声部の数と、その一声を支える人数を分けて見よう。
クマニコル:楽譜の段や音が増えて見えても、一音ごとの厚みが増えるとは限らないんですね。
リムコフ博士:その通り。この例では木管が退いていくことも同時に起きる。弦を分けたという一点だけでなく、何が鳴らなくなるかを一緒に見ると、薄れていく配分を捉えられる。
高い音を足すだけでは、退場の設計にならない
クマニコル:高音の楽器を次々と加えた方が、広がりは分かりやすい気がします。
リムコフ博士:その方法では、今度は新しい色や力が加わるね。それが今回の「消えていく」という方向に合うかを確かめよう。高いところまで使うことと、高音楽器を増員することは同じではないんだ。
クマニコル:つまり、一番高い音だけに注目しても足りないんですね。
リムコフ博士:うん。最低音と最高音だけでなく、その間を誰が、何人で受け持つかを見る。音域は拡大しているのに、各声部への重複は減っている。そういう変化を、始めから終わりまで追ってみよう。
小さくするために、和声の必要な音まで消さない
クマニコル:木管を休ませたら、そこで和音の一部がなくなりませんか?
リムコフ博士:だから、それぞれの木管が何を担当していたかを調べる必要がある。弦と同じ声部を重ねていたのか、その木管にしかない音なのか。単に強い楽器を順番に消すだけでは、必要な和声まで失うかもしれない。
クマニコル:弦に残る音のつながりも、一本ずつ見ます。
リムコフ博士:そう。音域を広げることにも、人数を分けることにも理由が必要だ。この作例から学ぶのは、無制限にdivisiすればうまくいくという規則ではない。広がりと減衰を両立させるため、複数の条件を合わせて変える考え方だよ。
「広がる」「厚くなる」「大きくなる」を別々に指定する
クマニコル:書き始める前に、どんな言葉で整理すればよいでしょう?
リムコフ博士:まず高低の範囲は広がる。次に、木管の参加は減る。そして弦は分かれ、一つの声部を支えるまとまりが小さくなる。そのうえで全体は弱くなる。この四つを同じ一語の「盛り上がり」で扱わないようにしよう。
クマニコル:広がるから盛り上げる、という思い込みを外せそうです。消える場面にも、高低の動きを作れるんですね。
リムコフ博士:そうだよ。今回は範囲を広げながら、響きの参加者を減らす。その二つが同時に進むことを意識すると、ただ音量を下げるのとは違う退場を考えられる。
この会話は、原典が説明する配分の変化を扱っています。譜例No.258–259の全声部・全音符を再現したものではなく、具体的な分割人数や音名は補作していません。
出典:『管弦楽法の基本』第4章「管弦楽法の実践」和声の音域拡大と収束、クレッシェンドとディミヌエンド。作曲場面を設定した会話は、記述をもとに構成しています。
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