【会話で学ぶ】低音の楽器を替えると曲の雰囲気が変わる?真剣な歌がコミカルになる例

低音の音符は変えていないのに、担当楽器を替えたら場面の表情まで違ってしまった。そんな編曲上の迷いを、歌劇『ヴェーラ・シェローガ』の具体例で考えます。低音が和声を支える仕事と、劇の性格を作る仕事は切り離せません。

クマニコル:博士、真剣な歌の場面なのに、低音を別の楽器へ渡すと少しコミカルに感じるんです。同じ高さの音を鳴らしているだけなのですが。

リムコフ博士:クマ君、同じ音高でも、発音や音色が変われば場面の性格は変わるよ。とくに歌を支える低音は、和声の根拠を示すだけではない。どんな質感で鳴るかが、歌の表情にも関わってくる。

クマニコル:低音がちゃんと聞こえて、和音にも合っていれば、それでよいと思っていました。

リムコフ博士:その二つは必要な確認だね。でも、それだけで選択は終わらない。ここでは、ソプラノが低音域から中音域で語るように歌う場面と、チェロ、コントラバスのピッツィカートによる低音を考えてみよう。

ソプラノの語りを支える、弦のピッツィカートの嬰ヘ音

原典のNo.175は『ヴェーラ・シェローガ』練習番号35の前の例です。本文では、実際の曲と編曲例を比較したうえで、さらに別の置き換えをすると何が変わるかを説明しています。以下は、その説明に明記された担当と比較です。

役割・位置楽器と鳴らし方
歌の担当と高さソプラノ。低音域から中音域のレチタティーヴォ。
検討されている低音チェロとコントラバスのピッツィカートによるF♯(嬰ヘ音)。
低音を弓奏へ替える案この作例では響きが悪くなるとされる。
同じ低音をファゴットへ渡す案この作例ではコミカルな性格になるとされる。
同じ低音を金管へ渡す案この作例ではざらついた響きになるとされる。
和音を金管へ渡す案全体が重くなり、この高さのソプラノの語りを覆ってしまう。

クマニコル:低音をファゴットへ替えるだけで、コミカルになる例があるんですね。

リムコフ博士:あるんだ。ただし、ファゴットはいつでも滑稽だ、という意味ではないよ。この歌、この高さ、この伴奏の中で、その置き換えがどんな表情になるかという話だ。楽器に一つの感情を固定してしまわないようにしよう。

同じ音符でも、弾く方法が変われば別の選択

クマニコル:別の楽器へ替えないで、チェロとコントラバスを弓奏にすれば安全でしょうか?

リムコフ博士:この例では、その変更もうまくいかない。ピッツィカートのF♯を弓奏へ変えると、響きが悪くなると判断されている。同じ弦楽器だから表情を保てる、とも限らないんだ。

クマニコル:音の高さと楽器名が残っても、奏法が違えば、もとの伴奏を保ったことにはならないんですね。

リムコフ博士:そう。音の出方や続き方を含めて、その低音は場面を支えている。奏法の指定を飾りのように扱わず、配分の一部として読もう。

クマニコル:では、「真剣な歌には必ず低い弦のピッツィカート」と覚えればよいですか?

リムコフ博士:そこまで一般化はしないこと。この作例で成り立っている選択を学び、別の曲では、その曲の歌と伴奏の条件を見よう。一つの成功例を、すべての場面の規則に変える必要はない。

低音だけでなく、和音を替えた場合も比べる

クマニコル:もっと堂々とした支えが欲しくて、和音を金管へ渡したくなることもあります。

リムコフ博士:その変更では、今度は低音の性格だけでなく、伴奏全体の重さが変わる。この例のようなソプラノの低音域から中音域のレチタティーヴォでは、金管の和音が歌を覆ってしまう。

クマニコル:ソプラノだから強く高く歌う、と考えてはいけないんですね。

リムコフ博士:そうだね。声種の名前だけでなく、その瞬間にどの高さで、どのように歌っているかを見よう。語りを聞かせたいところで、伴奏を立派にすることが目的になってはいけない。

変更を比べるときは、何を保ちたいかを先に決める

クマニコル:編曲を比べるとき、どこから聴き直せばよいでしょう?

リムコフ博士:まず、その場面で保ちたい表情を言葉にする。それから歌の高さと性格、低音の発音、和音の厚さを分けて考えるとよい。低音を替えた結果がコミカルなのか、ざらつくのか、伴奏全体が重いのかは、それぞれ別の変化だ。

クマニコル:一つにまとめて「なんとなく違う」と感じるのではなく、何の変更で何が変わったかを比べるんですね。

リムコフ博士:うん。和声上の音が同じだから同じ意味を保つ、という見方から離れよう。劇の中の一つの低音には、音高以外にも役割があるんだ。

別案が多いほど、よい編曲とは限らない

クマニコル:同じ曲を何通りにも編曲できる方が、自由でよいと思っていました。

リムコフ博士:自由に替えられる部分が多い楽想もある。でも、旋律、和声、表情が特定の条件を求めていると、よく合う配分は絞られる。別案が少ないこと自体を、欠点と思わなくてよい。

クマニコル:この例なら、ピッツィカートの低音を残すことにも、ちゃんと理由があるんですね。

リムコフ博士:その通りだ。変えられるから変えるのでなく、変えても残したい表情が保てるかを判断する。真剣な場面が意図せずコミカルになったときは、低音の音高だけでなく、誰がどう鳴らしていたかへ戻ってみよう。

配分表は原典本文の比較説明を整理したものです。本文で説明されていない和音の全構成音や担当楽器を補って、完全な総譜として再現したものではありません。

歌の明瞭さを確保するために伴奏を減らす手順は、通常解説の「歌が埋もれたら、伴奏のどこを減らす?」で扱っています。

出典:『管弦楽法の基本』第4章「管弦楽法の実践」同じ音楽を様々にオーケストレーションする(No.175『ヴェーラ・シェローガ』)。作曲場面を設定した会話は、記述をもとに構成しています。

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