フルート2本のオクターブは、必ずきれいに溶け合う?
フルート二本で同じ旋律を一オクターブ違いにすれば、同じ楽器なのだから自然に溶け合いそうに思えます。ところが、実際には上と下で音の力や性格が違い、思ったほど一つの旋律にまとまらないことがあります。
理由は、同じ楽器でも、使う声区が違えば音色と強さが変わるからです。楽器名を揃えることと、響きの条件を揃えることは同じではありません。フルート二本という組み合わせだけで判断せず、上下がそれぞれどこを吹くのかを見ていきましょう。
オクターブでは、二人が同じ条件で吹いているわけではない
同じ音高のユニゾンなら、二本は同じ声区で同じ旋律を奏することになります。一オクターブ離れると、上が高音域を吹いている間、下は中音域や低音域を受け持つことがあります。
そのとき、上と下は「同じフルートの音を二つ置いた」というだけの関係ではありません。明るさ、透明感、音の通り方などの条件が異なります。譜面上では同じ強弱記号が付いていても、同じ性格の音になるとは限らないのです。
たとえば、上側の旋律の方が強く感じられる場合、まず下の奏者だけに大きく吹かせようとする前に、二人が使う声区を確認します。音域による差を、奏者の人数や強弱記号の差と取り違えないようにします。
また、旋律は一音だけではありません。上と下が動いていく間に、それぞれ声区の境目へ近付くことがあります。フレーズの最初で釣り合っているように見えても、頂点や終わりまで同じ関係が続くかを読み直す必要があります。
音域図では、同じ旋律を二か所へ置いてみる
次の図のフルートの行には、低音、中音、高音、超高音の区分と、それぞれの音の特徴が示されています。上側の旋律が通る範囲と、その一オクターブ下に置く旋律の範囲を、別々に追ってみてください。

たとえば片方が中音域から高音域へ進むとき、もう片方はどこを吹くでしょうか。二つの線は同じ形で進みますが、音色の条件は必ずしも平行に揃いません。これが、同じ楽器を使っても均一な重複になるとは限らない理由です。
声区の境目は、ある音を越えると性格が突然切り替わる境界線ではありません。変化は連続的です。ただし、離れた声区へ跳躍すると、音色や力の差がはっきり現れやすくなります。
図の下の括弧は、強弱などを豊かに変化させられる最大表現音域を示します。クレッシェンドに似た記号は、そこで実際に音を大きくする指示ではなく、音域による音量の傾向です。記号の意味を分けて見ると、上下の条件を比べやすくなります。
図そのものの詳しい読み方は、木管は「出せる音」なら、同じように表情を付けられる?で解説しています。ここでは、上下の旋律を楽器名ではなく声区の組み合わせとして見ることが要点です。
「同じ楽器はだめ」という禁止にはしない
では、フルート二本のオクターブは避けるべきなのでしょうか。無条件に選べる組み合わせとはいえませんが、それだけで禁止する必要もありません。実際の音域、旋律の形、周囲の支え方によって、効果的に使える条件があります。
ここで区別したいのは、音色の差を気付かずに使う場合と、差を理解したうえで使う場合です。二本なら当然揃うと思って書くと、上下の性格の違いが問題になります。どこが違うかを確かめて選べば、その違いも含めた響きを作れます。
また、別の種類の木管を混ぜる場合に比べると、同じ楽器どうしの重複には、余計な色を加えないという面があります。上下の声区の違いはあっても、新しい楽器の個性を持ち込まない使い方ができるのです。
声区による差があることと、異種の楽器を混ぜた色にならないことは、両立します。 「同じ音色だから問題ない」「違いがあるから使えない」のどちらかに決めず、何を得たいかに照らして考えましょう。
弦が上下を支えると、組み合わせの条件が変わる
フルート二本だけで考えたオクターブも、上下それぞれを弦楽器が重複すると、響きの条件が変わります。木管だけに上下のまとまりを任せず、弦の音を伴った二つの線として作れるからです。
とくに中音域で、長い音や同音を繰り返すパッセージを、弦が上下それぞれで支える形は使いやすい例です。木管二本という名前だけで判断せず、周囲を含む組み合わせとして見ます。
弦の支えは、弓で弾く場合にもピッチカートの場合にも考えられます。ただし、両者の時間的な働きは違います。伸びる音で重ねるのか、短い発音を添えるのかによって、旋律の立ち上がりと持続の関係は変わります。
ここで大切なのは、「弦を入れれば何でも解決する」という使い方にしないことです。どの高さに弦が重なっているか、上下両方を支えているか、旋律と一緒にどんな動きをしているかまで見ましょう。
弦の人数を分ける場合には、一つの線を支える人数も変わります。フルートの上下へ弦を割り振ったつもりでも、弦の各声部がどのくらいの規模で鳴るかは別に確認が必要です。分割の基本は弦の和音は、divisiと重音をどう使い分ける?で扱っています。
長い音と同音連打を、まず考える理由
長い音や同音連打では、音域が急速に移り変わる旋律とは違い、上下の音がどこに置かれているかを把握しやすくなります。声区の条件を確認し、その場所に弦の支えを組み合わせる、という考え方ができます。
一方、広い範囲を動く旋律へ使う場合には、一つの音で成立する関係を全体へ延ばして考えないようにします。上下がそれぞれ違う声区へ移ったとき、釣り合いがどう変わるかを見る必要があります。
譜面を点検するときは、出だし、旋律の頂点、終わりの長い音というように、特徴的な場所を比べてみましょう。上だけが極端な高さへ達していないか、下が低い領域で弱くならないか。フレーズの形に沿って確認すると、楽器名だけの判断から進めます。
このように、旋律の種類は組み合わせを選ぶ条件の一つです。同じ楽器二本のオクターブがある場面でうまくいったとしても、その理由が音域や音の長さにあるなら、違う動きへ移すときには再検討が必要です。
短く区切れる伴奏で、色の薄さを生かす
同じ楽器二本による比較的素直な色は、不連続的な伴奏と組み合わせても生かせます。伴奏がずっと密に鳴り続ける場合と、短く発音して間ができる場合では、旋律が聞こえる条件が違うためです。
ここでは、旋律に別の木管を加えて色を複雑にすることよりも、周囲の鳴り方を選ぶことが重要になります。同じフルートの性格を生かしたいなら、伴奏側の持続や発音の形も検討してみましょう。
ただし、伴奏を切れば必ず上下のバランスが整うという意味ではありません。二本が使う声区の差は残ります。声区を確認したうえで、その色が見える伴奏を選ぶ、という順番で考えます。
旋律を先に決めて伴奏を選ぶ手順は、メロディが埋もれたら、音量を上げる前に何を見る?でも説明しています。重複する二本だけを調整し続けるより、周囲に解決の手がかりがないかを見てみましょう。
同族楽器のオクターブとは分けて考える
フルート二本のオクターブと、ピッコロとフルートのオクターブは、同じ種類の選択ではありません。前者は同じ楽器の異なる声区を使い、後者は音域を分担する同族楽器を組み合わせます。
クラリネット二本と、クラリネットとバスクラリネットの組み合わせも同様です。楽器の名前が近いからという理由で、同じ条件として扱わないようにします。それぞれが自然に担当する高さに沿って組み合わせる考え方があります。
同族楽器を使う場合の詳しい比較は、ピッコロとフルートのオクターブが自然なのはなぜ?で扱います。このページでは、同じ楽器を二本使うときには、声区の差をとくに見落とさないことを押さえておきましょう。
音がまとまらないときの、二つの見直し方
たとえば、二本のフルートで長い音を重ねたとき、上ばかりが目立つと感じたとします。まず二本だけの関係を見て、上と下がそれぞれどの声区にあるかを確認します。次に伴奏を見て、下側のフルートと同じ高さに別の音が集中していないかを調べます。
前者は二本の音色の関係、後者は周囲に覆われる問題です。二つを区別すると、上下の配置を変えるべきか、伴奏を選び直すべきかを考えられます。一度に音域と楽器と伴奏をすべて変えるより、何が聞こえ方を変える条件なのかを把握しやすくなります。
二本にする前に、上下の役割を言葉にする
最後に、なぜオクターブで重ねたいのかを確認します。一つの旋律を広い高さで聴かせたいのか、同じ楽器の素直な色を保ちたいのか、それとも高い旋律を下から支えたいのか。目的が決まれば、上下へ求める働きも分かりやすくなります。
次に、それぞれの声区と旋律の動きを確認し、弦の支えや伴奏の鳴り方を考えます。二本とも演奏できる音域に収まるという確認だけで終わらず、上下の音色がどんな関係になるかまで見ることが大切です。
フルート二本のオクターブは、自動的に溶け合う便利な型ではありません。しかし、声区、音の長さ、支える楽器を選べば、余計な色を加えずに旋律を広げる手段になります。同じ楽器だからこそ、実際に使う音の場所まで具体的に考えてみましょう。
同族楽器や異なる木管を重ねる場合との違いは、『管弦楽法の基本』の書籍版・PDF版で扱っています。
この記事は『管弦楽法の基本』の記述・補足に基づく解説です。参照:木管楽器のオクターブ重複、3オクターブ以上に渡る重複、三度あるいは六度による重複、三度と六度の共存。声区の図は第一章「木管楽器」から引用しています。Amazonへのリンクにはアソシエイトリンクを使用しています。

