低音を厚くしたいとき、何オクターブも重ねていい?
低音をもっと厚くしたいとき、チェロとコントラバスに加えて、ヴィオラにも同じベースラインを一オクターブ上で弾かせたくなることがあります。さらにヴァイオリンまで加えれば、もっと力強くなるように見えるでしょう。
確かに響きは大きく変わります。しかし、オクターブを増やすと、低音の量だけでなく、曲の中での存在感も変わります。 土台を補強するつもりが、重い旋律を前面へ押し出す配置になることがあるのです。
まず「低音が不足している」のか、「ベースラインそのものを重く聴かせたい」のかを分けて考えましょう。この違いが、何オクターブに広げるかを決める手がかりになります。
基本になるのは、チェロとコントラバスの関係
弦の低音では、チェロとコントラバスが一オクターブ離れて同じ線を進む組み合わせがよく使われます。チェロの下をコントラバスが支え、二つの高さで低音の動きを示す形です。
この場合、総譜に二つのパートがあっても、和声上の低音が二種類に増えたわけではありません。基本的には一つのベースラインを、別の高さで重複しています。音の役割と、鳴らしているパートの数は分けて見ます。
また、チェロが細かく動くときに、コントラバスがその動きをすべて写す必要があるとは限りません。コントラバス側を簡単な形にし、低音の重要な動きを支える書き方もできます。
ここで一度、低音だけを二段の譜面として見直してみましょう。チェロが何を歌い、コントラバスがどの音を支えているか。両者の仕事を確かめると、さらに上の楽器を加える前に、すでにある低音の構造が見えてきます。
「厚みが欲しい」という印象だけで新しい段を作るより、現在の二つのパートがどのように聞こえるはずなのかを先に整理することが大切です。
三つの高さへ広げると、中音域まで低音の線が入り込む
チェロとコントラバスの上へヴィオラを加え、三つの高さで同じ動きをさせた場合を考えます。下からコントラバス、チェロ、ヴィオラという並びで、それぞれ一オクターブずつ離れている状態です。
この配置では、低い位置だけが強化されるのではありません。ベースラインと同じ動きが中音域にも現れます。それまで和声の内側を支えたり、別の線を担当したりできたヴィオラが、低音の動きへ参加することになるのです。
音域を広げることは、同じ場所の音を増やすこととは違います。 同じ音高へ奏者を集めるユニゾンでは、その高さの響きを充実させます。オクターブ重複では、違う高さにも同じ動きを置きます。
したがって、低い音の支えが不足していると感じた場面でも、上へ重複を増やせば目的に合うとは限りません。上に現れた動きが、旋律や内声とどんな関係を作るかまで考える必要があります。
たとえば、主旋律は静かに歌い、低音は足元で進行を示していればよい場面なら、ベースラインを広い音域へ押し出すことが必要かを問い直せます。一方、低音の動きそのものが曲の主役になる場面なら、その広がりが表現につながります。
ヴィオラを、低音の増員係にしない
ヴィオラは、ふだんからベースラインを重複するために空いているセクションではありません。アルトからテノールにかけて旋律を歌い、和声の内側を支えるなど、中間の領域に仕事があります。
チェロとコントラバスを補強したいからという理由だけでヴィオラも同じ線へ集めると、低音側の存在感を増す一方で、別の声部へ使えた音色を手放すことになります。
たとえば、ヴィオラがそれまで一つの内声を受け持っていたなら、その声部を誰が引き継ぐのかを確認します。低音を重くした結果、和声の中間が薄くなれば、総譜全体で得られる響きは単純な加算になりません。
ここで大切なのは、ヴィオラに低音の重複をさせてはいけないという禁止を作ることではありません。ヴィオラも使って低音を重くする必要があるかを、音楽上の役割から判断することです。
中音域に独立した旋律を残したい場合の考え方は、中音域のメロディが目立ちにくいのはなぜ?で説明しています。低音を増やす場面でも、中央にどんな線を残したいのかを忘れないようにしましょう。
本当に重いベースラインが欲しいなら、広い重複が生きる
三つ以上の高さで同じ線を重ねる書き方は、極めて重いメロディを表現したい場合に意味を持ちます。いつもの伴奏を少し補強するというより、低音の動きへ強い存在感を与える選択です。
各楽器の低い領域を使った広い重複は、荒々しく過酷な雰囲気を作ることにもつながります。ここでは、響きが重くなること自体が目的に含まれています。日常的な伴奏の書き方とは、狙いが違うのです。
判断の助けになるのは、「その低音の線を聴き手に追わせたいか」という問いです。和声の土台として感じられれば十分なのか、重い歩みそのものを前へ出したいのか。後者なら、複数の音域を同じ動きへ集める理由が明確になります。
ただし、大きく広げた響きが必要な場面でも、上に置かれた旋律や和音との関係は確認します。低音だけで完結した効果を想像するのではなく、その重さを受け止める全体の構成があるかを見ましょう。
強い特徴を持つ配置は、使う場所を選ぶことで効果が分かりやすくなります。ずっと同じ重さで進むのか、ここだけ重くしたいのか。その時間的な違いまで考えると、重複を始める場所と終える場所にも理由を持たせられます。
管楽器を重ねれば、三オクターブでも普通になる?
弦だけで重すぎるなら、木管や金管を重ねれば自然になるのではないか、と考えるかもしれません。しかし、ほかの楽器が加わったからといって、ベースラインを広く重ねる目的が変わるわけではありません。
管楽器が加われば、響きの色や強さは変わります。それでも、同じベースラインを三つの高さへ置いている事実は残ります。低音の線を大きく取り上げる配置として、必要かどうかを判断します。
「管楽器の支えがあるからよい」ではなく、「この重さが欲しいから使う」と考えると、編成の見た目に判断を任せずに済みます。支える楽器の有無は、その後に検討する条件です。
一方、チェロとコントラバスの低音へファゴットを加える場合には、音域をさらに広げることと、同じ領域へ色を足すことを区別しましょう。ファゴットの追加による性格の変化は、チェロとコントラバスの低音に、ファゴットを足すと?で扱います。
旋律を広く重ねる書き方とは、目的を分けて考える
弦を複数のオクターブへ分ける方法には、第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、その下にヴィオラやチェロを置き、豊かなcantabileを作る使い方もあります。緊張感のある、主として強奏の旋律に用いる配置です。
同じように音域が広くても、こちらは旋律を豊かに歌わせることが中心です。低音を補強したい場面へ、形だけを移してよいということではありません。まず、それが旋律の重複なのか、ベースラインの重複なのかを確認します。
さらに高音と低音へ広げ、弦の各セクションをそれぞれ別のオクターブへ置くと、配置自体の性格が非常に強くなります。広いから充実している、五つのセクションを使ったから完成している、と考えないようにします。
大切なのは、使っているセクションの数より、それぞれがどの高さで同じ線を支えているかです。上を充実させたいのか、下へ重みを集めたいのか。重複の範囲を選ぶことは、音楽の力を置く場所を選ぶことでもあります。
譜面を直すなら、三つの案を比べてみる
低音が弱いと感じた箇所では、まずチェロとコントラバスの二つの高さを基本にして考えます。その状態で、低音の音域、動き、上声との関係を読み直します。低音以外の音が厚く、相対的に弱く感じられる可能性も検討できます。
次に、同じ音域の低音へ別の楽器を加える案を考えます。この場合は、どの色が加わり、低音の性格がどう変わるかを見ます。音域を広げる案とは、別の比較です。
最後に、ヴィオラなどを上のオクターブへ参加させる案を考えます。こちらは、ベースラインの動きをより広い場所へ置く変更です。低音が聞こえるようになったかだけでなく、重さが曲の狙いに合うかを確かめます。
この三つを別の案として見ると、「楽器を足したらよくなった」という漠然とした評価から進めます。現在の配置を整える、色を加える、重複する音域を広げる。それぞれで変えているものが違います。
低音の厚さと、和音の充実を混同しない
ベースラインを何オクターブにも増やしても、和声の内声が不足している問題は別に残ります。低音と上声の間隔に原因があるなら、同じ低音の音ばかりを増やす前に、各声部の配置を見る必要があります。
低音の和音を広めに、高音の和音を狭めに置く考え方は、低音の和音と高音の和音で、音の間隔を変えるのはなぜ?で扱います。ベースラインの重複と、和音全体の音間隔は、関連していても同じ問題ではありません。
重複を決めるときは、最後にもう一度「何を重くしたいのか」へ戻りましょう。低音の支えが欲しいのか、ベースラインを主役のように聴かせたいのか。その答えが明確なら、二つの高さにとどめる判断にも、あえて広く重ねる判断にも、音楽上の理由を持たせられます。
低音の厚みに加えて、弦全体でオクターブを作る際の人数配分も整理しておくと、重ね方を選びやすくなります。詳しくは、弦のオクターブは、二つのセクションとdivisiをどう使い分ける?をご覧ください。
弦のオクターブ重複を音域別に学ぶには、リムスキーコルサコフ著『管弦楽法の基本』の書籍版・PDF版へ。
この記事は『管弦楽法の基本』の記述・補足に基づく解説です。参照:弦楽器の2オクターブ重複によるメロディ、3または4オクターブ重複の重複、三度または六度による重複。併せて第二章「弦楽器のオクターブ重複」を参照しています。Amazonへのリンクにはアソシエイトリンクを使用しています。

