木管は「出せる音」なら、同じように表情を付けられる?

木管の旋律を書くとき、音域表の最低音と最高音だけを確かめて安心していないでしょうか。その範囲に収まっていても、弱く始める、次第に膨らませる、柔らかく消えるといった表情が、どこでも同じように付くとは限りません。

音を出せる範囲と、多くの表現を自由に使える範囲は、分けて考える必要があります。

木管は、同じ一本でも使う音域によって表情の付けやすさが変わります。最低音と最高音を調べたら、次は旋律の中心がどこにあり、そこで必要な強弱や音色が得られるかを見ていきましょう。

最大表現音域は、演奏可能な全音域ではない

最大表現音域とは、フォルテ、ピアノ、クレッシェンド、ディミヌエンドなど、最も多くの音量表現が可能な範囲です。単に大きく鳴る範囲でも、音が出しやすい場所を大まかに指すだけでもありません。

強くする、弱くする、その間を変化させるといった選択の幅に注目した考え方です。

この範囲の外に出たからといって、直ちに使えない音になるわけではありません。その外側では、強弱の自由さよりも、楽器の特徴的な色彩を生かすことを考えましょう。

同じ楽器の中で、表情の自由さを生かす使い方と、特有の色を生かす使い方を分けるのです。両者を一つの「使える音域」にまとめると、選択の理由が見えなくなります。

たとえば、長い旋律を一息のように膨らませたい場合には、その旋律がどの範囲に滞在するかが重要です。一方、ある一音の特殊な色を響かせたいなら、同じ条件を最優先にするとは限りません。

前者では音量表現の幅、後者では音色の特徴が選択の中心になります。旋律の輪郭だけでなく、そこで何を聴かせるかを決めることで音域表の読み方も変わります。

同じ楽器の中にも、四つの声区がある

木管の音域は、低音、中音、高音、超高音という四つの声区に分けると整理しやすくなります。各声区では音質も力も変わります。木管楽器は、楽器どうしの音色の違いが大きいだけでなく、同じ一本の中にも違いがあるということです。

フルートの音、クラリネットの音、と一語で呼んでも、それだけで響きの条件は決まりません。

弦楽器群は比較的均一な音色を持っています。木管では、楽器を替えたときだけでなく、同じ楽器の音域を変えたときの違いにも注意が必要です。そのため、弦で連続的に歌えていた旋律を木管へ移す際にも、音域が収まることだけで同じ効果を期待できるわけではありません。

声区を使って旋律を見るなら、最高音だけを囲むのではなく、旋律全体が低音中心なのか、中音と高音を往復するのか、超高音へ一時的に達するのかを調べます。最後に一度だけ高い音が現れる旋律と、高い場所に長くとどまる旋律は、同じ最高音を持っていても違う書き方です。

音域の端だけではなく、どの声区がフレーズの中心かを見ることが役立ちます。

声区の境目は、切り替えスイッチではない

四つに分けると、境界の音を越えた瞬間に性質が完全に入れ替わるように思えるかもしれません。実際の音色は連続的に変化するため、厳密な境目を定めることはできません。

図で隣り合う声区の音が重なっているのも、この曖昧さを表すためです。

この注意が効いてくるのは、音域表から機械的な規則を作ろうとするときです。境目より一音下だからこの音色、一音上だから別の音色、という二者択一で譜面を読むと、連続的な変化を見失います。

四つの区分は、音色や力の変化を把握する目安として使いましょう。

さらに、声区の違いは、旋律がどう移動するかによって現れ方が変わります。順々に声区を移るときには違いを感じにくくても、別の声区へ跳躍すると音質と力の差がはっきり現れます。

同じ二つの高さに到達するとしても、順々に近付くか、急に飛ぶかで、その間の色の差の感じ方が違うのです。

したがって、大きな跳躍がある旋律では、跳ぶ先が演奏可能かだけでなく、そこで急に音の性格が変わるかにも目を向けます。変化を意図しているなら特徴になりますし、均一につながるつもりだったなら再検討の手がかりになります。

跳躍をなくすことが目的ではなく、跳躍が音高以外にも変化を生むと知ることが大切です。

「明るい木管」「暗い木管」だけでは選べない

音色を大きく分けると、オーボエとファゴットには鼻にかかった暗い響きがあり、フルートとクラリネットには胸声のような明るさがあります。ただし、この特徴がはっきり聴かれるのは主に中音域と高音域です。

この印象を全音域へそのまま広げないようにしましょう。

オーボエとファゴットは低音へ行くと、鼻にかかった性質を残しながら太く荒い音になり、超高音では硬く乾いた性格を帯びます。フルートとクラリネットも、中高音の透明感に対し、低音では暗さや鼻にかかった感じが加わり、超高音では鋭さが出てきます。

同じ楽器でも、声区によって印象を表す言葉は変わるのです。

ここから分かるのは、楽器を選ぶ順番に音域の検討を含める必要があることです。欲しいのが明るさだからフルート、と決めた後で低い場所に置いた場合、その判断の前提と実際の声区が合っているかを確認します。

楽器の名前を音色の保証として使わず、具体的な音の位置まで落として考えます。

音色の言葉を感情の名前へ直接置き換えることにも注意が必要です。暗い音色だから悲しい曲、明るい音色だから楽しい曲、とまでは決まりません。この問題は「『悲しい旋律だからオーボエ』で決めていい?」で、旋律や和声との関係から扱います。

ここではまず、同じ楽器の中で音の性格が変わることを押さえておきましょう。

音域図では、三種類の情報を読み分ける

次の図では、出せる音の範囲、声区の区分、最大表現音域を一緒に確認できます。この三つを分けて見ると、譜面を確かめる順番が作れます。まず音の範囲に入り、次にどの声区に属し、さらに求める表情に適した範囲に位置するか、という順です。

木管楽器の音域、声区ごとの音色、最大表現音域を示す図
リムスキーコルサコフ著『管弦楽法の基本』第一章「木管楽器」より。括弧は最大表現音域を示します。画像を押すと拡大できます。

図の下側にある括弧は、最大表現音域を示します。また、クレッシェンドやディミヌエンドに似た形の記号は、その場所で実際に強弱を変える指示ではありません。音域に伴って音量が変化する様子を説明したものです。

音域図をそのまま演奏指示として読まないことが、この図を使ううえで重要です。

最高音の限界は楽器や奏者の唇の使い方などにも関係するため、一つの音で厳密に区切れるものではありません。図の端を、あらゆる状況で同じ条件が保証される線として見るべきではありません。

ここで読み取りたいのは、どこまで音符を書けるかという限界だけでなく、どのあたりで音質と表現の条件が変わるかです。

図中の音色の形容も、厳密な測定値ではありません。乾いた、鋭い、突き刺すようなといった言葉は、音の印象を伝えるために、ほかの感覚から借りた比喩です。その音を使うべきでないと断じるための言葉ではなく、芸術的な特徴をつかむための説明として読む必要があります。

同族楽器にも、まったく同じ条件を当てはめない

フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットの四種は、大まかな比較では同程度の力を持ちます。しかし、補助的な同族楽器まで同じ条件ではありません。ピッコロやイングリッシュホルン、バスクラリネットなどへ持ち替えれば、単に音域の端だけが移るのではなく、響きの条件も検討する必要があります。

とくにピッコロとコントラファゴットは、オーケストラの両端の音域で強い色彩を生みます。ここでは最大表現音域による強弱の自由さよりも、その特徴的な色を生かす役割から考えましょう。

通常のフルートやファゴットについての説明を、そのまま同族楽器全体の規則にすることはできないのです。

同族楽器の組み合わせを考えるときにも、この差は役立ちます。楽器の系統が近いことと、同じ高さで同じ表情を付けられることは別です。オクターブの組み合わせについては「ピッコロとフルートのオクターブが自然なのはなぜ?」で扱いますが、まず各パートがそれぞれどの声区を担当するかを把握することが、その前提になります。

旋律を選び直すための、具体的な見方

思いどおりに表情が付かない旋律があれば、最初に強弱の変化が大事な箇所を探します。弱く始めたい場所、膨らませたい長い音、消えるように終わりたい場所などです。

そのうえで、そこが選んだ楽器の最大表現音域とどう重なるかを確認します。単に旋律全体の最低音と最高音を調べるより、表情を必要とする位置が見えます。

次に、大きな跳躍で声区が変わるところを見ます。強さや音色の差を効果として望んでいるのか、連続した歌として揃えたいのかを考えます。最後に、範囲の外側を使う部分では、表情の自由さに代えてどんな色彩を得たいのかを確認します。

これで、出せる音かどうかの点検が、音楽上の役割を考える点検へ変わります。

木管の音域表は、書いてよい音を囲んだ枠としてだけ使うには、情報が豊かです。音高、声区、表現の幅を読み分ければ、同じ楽器を選んだままでも旋律の聴こえ方を考え直せます。

楽器名と音符の高さの間にある、この具体的な条件を扱うことが、木管らしい表情を引き出す手がかりになります。

音域が適切でも、息を継ぐ場所がなければフレーズは保てません。旋律を実際に吹ける形へ整えるには、木管の旋律に休符を入れるのは、なぜ大切?をあわせてお読みください。


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この記事は『管弦楽法の基本』の記述・補足に基づく解説です。参照:木管楽器。Amazonへのリンクにはアソシエイトリンクを使用しています。

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