【会話で学ぶ】派手な音色を使わないオーケストラ編曲は、失敗なの?
クマニコル:博士、落ち着いた曲のオーケストラ編曲を作ったのですが、派手な音がほとんどありません。ハープや打楽器を足した方が、ちゃんと編曲した感じになるのでしょうか?
リムコフ博士:クマ君、派手さが少ないというだけでは、失敗とは決められないよ。まず、その曲にどんな表情を求めていたかを思い出そう。色彩の華やかさを求める曲もあれば、それを前面に出さない曲もある。華やかさの量だけで、編曲の良し悪しを測ることはできないんだ。
「落ち着いている」と「伝わらない」を分けてみる
クマニコル:静かで素朴な雰囲気にしたかったんです。でも、ほかの曲のきらびやかな響きを聴いたら、自分の曲が足りなく思えてきました。
リムコフ博士:その比較では、目指している表情が同じかを先に確かめたいね。君の曲を華やかにしたとき、最初に欲しかった素朴さは保てるだろうか。別の作品の長所を見つけることと、その長所を自分の曲にも必ず加えることは、一つの判断ではないよ。
クマニコル:派手にしなくてよいなら、今のままで完成と考えてよいですか?
リムコフ博士:そこも急がないでほしい。「派手ではない」と「必要なものが聞こえない」は別の問題だからね。旋律が埋もれていないか、和声の線が適切に進んでいるか、欲しい強さやまとまりが得られているかを見よう。落ち着いた表情を選んでも、技術的な問題まで放置してよいわけではないんだ。
クマニコル:地味かどうかだけを気にしていると、本当に直すべき所も、そのままでよい所も分からなくなりますね。
リムコフ博士:そうだね。「何か足りない」という感想を、もう少し具体的な問いにしてみよう。旋律が伝わらないのか、和声が不明瞭なのか、それとも必要な音楽は聞こえているけれど、派手な色がないことだけが気になっているのか。その区別で、次にすることが変わるよ。
音色の華やかさと、書き方の確かさは同じ物差しではない
クマニコル:華やかな編曲ができる方が、管弦楽法が上手いのだと思っていました。
リムコフ博士:色彩の豊かさは大切な魅力の一つだが、それだけが巧さを示すわけではない。華やかな色彩を強く求めない作曲家でも、管弦楽の扱いをよく理解していることはある。たとえばリムスキー=コルサコフは、ブラームスが派手な色彩を追わないことを、管弦楽法を知らない証拠にはしていないんだ。
クマニコル:同じ管弦楽でも、何を大切にするかで、目指す姿が違うんですね。
リムコフ博士:そのとおり。ある音色の使い方が優れていても、すべての音楽にその使い方を当てはめる必要はない。君が作る一節の意図と、その色が実際にもたらす表情を結び付けて判断しよう。
楽器を足す前に、追加の目的を言葉にする
クマニコル:では、ハープを試すこと自体はしてもよいですか?
リムコフ博士:もちろん試せるよ。ただ、加える前に「ここでどんな変化が欲しいか」を決めておこう。いまの素朴さを保ちたいのか、ある瞬間だけ違う色を感じさせたいのか。目的があれば、加えた案を聴いたときに、その変更が必要だったかを判断できる。
クマニコル:「何かを足した証拠が欲しい」という理由だけだと、聴き比べる基準がないですね。
リムコフ博士:うん。しかも、よい響きが一つできても、それが曲の中のその場所に必要かは別に考えたい。静かな流れの一部として置く音と、対照的な場面を始める音では、求めるものが違う。楽器を増やした結果を、その一節の役割へ戻して聴いてみよう。
クマニコル:試した音は魅力的でしたが、曲が少し華やかになりすぎました。この場合、足さない案を選んでも手抜きではないですよね。
リムコフ博士:欲しい表情に照らして選んだのなら、立派な判断だよ。ただし、なぜ足さないのかを「少ない方がいつでも上品だから」と別の公式にしないこと。別の曲や別の場面なら、その華やかな色が必要になることもあるからね。
派手さを加える前に、原曲の表情が伝わるか確かめる
クマニコル:自分の曲なら意図を思い出せますが、人のメロディを編曲するときはどう考えればよいですか?
リムコフ博士:元の音楽がどんな性格を持ち、何を伝えようとしているかを理解することから始めよう。編曲は創造的な仕事だけれど、自分の得意な音色を見せることだけを目的にすると、元の曲の大切な性格から離れてしまう。楽器を選ぶ判断も、その音楽に合わせるんだ。
クマニコル:今回の曲なら、柔らかい旋律を素朴に聞かせたい。そのための線が聞こえていて、前後にも合っているかを確認すればよいのですね。
リムコフ博士:そうだね。もし線が伝わっていなければ、その原因を直す。十分に伝わっているなら、さらに色を足すことで何を得たいのかを考える。「派手にしないと未完成」という理由だけで、狙っていた表情を変える必要はないよ。
クマニコル:まず、派手さへの不安と、実際の書き方の問題を分けて聴き直します。足すかどうかは、素朴な曲として何が必要かで決めます。
リムコフ博士:それでよい、クマ君。目標は、使った音色の多さを示すことではなく、その曲の表情を伝えることだ。華やかにする案も、落ち着いたままの案も、その目的に合うかで選ぼう。
旋律そのものが聞こえにくい場合は、通常解説の「メロディが埋もれたら、音量を上げる前に何を見る?」で、具体的な配分を確認できます。
出典:『リムスキーコルサコフ著「管弦楽法の基本」』著者による前書き(1891年版)と第四章「同じ音楽を様々にオーケストレーションする」。相談の場面は創作し、説明は本文および補足の考え方に基づいて構成しています。
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