弦の音色を変えるには、弱音器と弓の位置をどう選ぶ?

弦楽器の音を柔らかくしたいとき、弱音器を付ける方法と、弓を当てる位置を変える方法は、同じように使えるでしょうか。どちらも音色を変えますが、得られる響きも、音量との関係も同じではありません。

弦の奏法を選ぶときは、小さくしたいのか、色を変えたいのか、発音の形を変えたいのかを分けます。 この三つを混同しないことが、特殊な指定を音楽の意図へ結び付ける出発点です。

普通の弦の音を、比較の基準にする

弦楽器には、音を連続的につなぐ能力と、暖かく歌うような性格があります。強弱も連続的に変えられるため、同じ奏法のままでも幅広い表情を作れます。

そこで、変化した音色を選ぶ前に、普通の弓奏で足りないものは何かを考えます。小さく歌わせれば足りる場面なのか、歌う音そのものを別の質感へ変えたいのかで、選択が違います。

静かな場面だから特殊奏法が必要、というわけではありません。普通の音色を弱く奏したときに残る暖かさや明瞭さを生かしたいなら、その性格が比較の基準になります。

反対に、音量を下げても響きがまだ直接的すぎると感じるなら、ヴェールのかかった音や、鈍い音へ変える意味があります。その不足を言葉にしてから奏法を選ぶと、指定の理由が明確になります。

弱音器は、音量だけでなく音色を変える

リムスキーコルサコフ著『管弦楽法の基本』では、弱音器によって弦楽器の音色が根本的に変わることが説明されています。澄んだ歌うような響きが、弱いパッセージでは鈍い音へ変化し、強く奏すれば少し笛のような性格も現れます。

そのため、弱音器を付けることを、元の音色のまま音量だけを下げる操作として扱わない方がよいでしょう。必要なのが音の小ささだけなら、普通の弱奏との違いを考える余地があります。

弱音器を付けた場合には、音量もかなり低下します。色が変わることと、周囲に対する強さが変わることの両方を配分に反映させます。

たとえば、同じ旋律をそれまでと同じ木管の伴奏に重ねても、弦の色だけでなく聞こえ方の釣り合いが変わります。弦のパートに指定を書き加えて終わるのではなく、同時に鳴る楽器の厚みを読み直しましょう。

弱音器付きでも、弱奏と強奏は同じ表情ではない

弱音器の音を一つの固定した色として覚えると、長いクレッシェンドの途中で起こる変化を見落としがちです。弱い音の鈍さと、強い音に現れる性格は、単純な大小の関係だけではありません。

静かな始まりに合う音色を選んだ場合には、頂点の強さでもその質感が合うかを確認します。旋律が盛り上がったときに、普通の弦の輝きを求めているのか、変化した色を保ちたいのかが判断になります。

逆に、弱いところから強いところへ進む間に色も変わることが、表現に合う場合もあります。その変化を意図して使うなら、弱音器の性格をより積極的に生かせます。

奏法の指定と強弱記号は、別々の情報ではなく、一緒に響きを決める条件です。 最初の一音だけで選ばず、フレーズの強さの変化を通して考えてください。

駒の近くで弾くと、金属的な色が加わる

sul ponticelloは、駒に近い位置で弓を使う指定です。金属的な音色が得られ、原典では主にトレモロで使うものとして説明されています。

ここで重要なのは、弓を使って音を持続させながら、その響きの性格を変えられることです。音符の高さやリズムが同じでも、普通の歌うような弦とは違う面が前へ出ます。

金属的な色を背景に置くのか、それ自体を目立つ効果にするのかによって、ほかの楽器との関係も変わります。持続するトレモロで使う場合には、始まりだけでなく、続いている間の色が音楽へどう働くかを考えます。

また、単に不穏な場面だから指定する、という決め方にしないでください。欲しいのが金属的な質感であることと、その質感が旋律や和声の流れに合うことを、別々に確認します。

指板の近くでは、ヴェールのかかった響きを考える

sul tasto、flautandoとして説明されている指板に近い位置での弓奏では、ぼんやりとした、覆いのかかったような音色が得られます。駒の近くでの金属的な響きとは、変化の方向が違います。

この指定を選ぶ場合は、明瞭な輪郭を保ったまま静かにしたいのか、輪郭そのものを柔らかくしたいのかを考えます。後者の色を求めるなら、指板寄りの響きが具体的な候補になります。

弱音器による鈍い音と、指板寄りのヴェールのかかった音を、どちらも柔らかいから同じ、とまとめないようにしましょう。変化の手段も、音量との関係も、同じ条件ではありません。

前後の普通の弓奏と比べたとき、何が変わって聞こえてほしいかを言葉にします。遠く感じるような色が欲しいのか、背景の輪郭をぼかしたいのか。その意図に対して、選んだ指定が合っているかを確かめます。

音色が変わると、旋律と伴奏の分かれ方も変わる

同じ弦楽器群の中でも、旋律と伴奏に異なる音色を持たせれば、両者の関係が変わります。原典には、ヴァイオリンのソロに対し、弦セクションのsul ponticelloと木管の和声を伴奏に使う例も挙げられています。

ここから考えたいのは、旋律を目立たせる方法が音量差だけではないということです。歌う線と、その周囲の金属的な背景が異なる性格を持てば、同じ弦の音でも役割を分けて捉えやすくなります。

ただし、音色が違えば必ず聞き分けられるというわけではありません。伴奏の厚みや高さが旋律を覆っているなら、奏法の違いだけに任せず配分も点検します。

主旋律が埋もれる場合の基本的な確認は、メロディが埋もれたら、音量を上げる前に何を見る?で扱っています。ここでは、その確認に音色の違いという選択肢を加えて考えましょう。

ハーモニクスは、別の音色として区別する

冷たく透明な響きが欲しい場合、ハーモニクスも候補になります。しかし、弱音器や弓の位置の変更と同じ効果ではありません。共鳴の仕方が変わり、独特の弱い響きになります。

ハーモニクスには、伸ばした音やトレモロ、ところどころの華やかな装飾など、それに合う使い方があります。柔らかい色が欲しいからと、どんな旋律にもそのまま置き換えるのは適切ではありません。

また、響きの弱さを見込んで、ほかの楽器に覆われないようにする必要があります。弓の位置を変えるか、弱音器を付けるか、ハーモニクスにするかという比較では、色だけでなく、音型とバランスも条件になります。

ハーモニクスの具体的な配分は、弦のハーモニクスが埋もれるのはなぜ?を参照してください。同じ柔らかさでも、何の性格を選んだのかを区別するための関連テーマです。

弓の木の側を使う効果では、持続も変わる

col legnoでは、弓の木の側を用いることで、音色を大きく変えます。原典では、シロフォンに近い性格や、ピッツィカートを虚ろにしたような性格が述べられています。

ここでは、単に色だけを変える場合と違い、音がほとんど持続しないことにも注意します。長く歌う線をそのまま置き換えれば、フレーズの時間的な形まで変わります。

したがって、普通の弓奏、弓の位置の変更、弱音器、持続の短い奏法を、一列に同じ目的の選択肢として並べない方が考えやすくなります。まず音を続ける必要があるかどうかで分け、そのうえで必要な色を選びます。

ピッツィカートへの置き換えにも同じ視点が役立ちます。詳しくはピッツィカートは、弓で弾く旋律をそのまま置き換えられる?で、速さや残響を含めて説明しています。

旋律の音符を変えずに、背景だけ替える場合

旋律を保ち、伴奏のトレモロだけを普通の弓奏から駒寄りへ替えると考えてみます。この場合、和音の構成音が同じでも、背景には金属的な性格が加わります。和声を変えずに場面の色を変える選択になりますが、その色が旋律の歌い方と合うかを確かめます。

一方、同じ伴奏へ弱音器を指定する案では、色とともに音量の低下も関わります。二つの案を比べるときは、どちらも普通の音と違う、という共通点だけで選ばず、旋律に対して背景がどの程度聞こえ、どんな質感で続くかを比べましょう。

同じ弱い場面でも、目的に応じて選ぶ

静かな和音を背景に置く場面を考えてみましょう。普通の弦の暖かさを残したいなら、まず普通の弱奏を基準にします。鈍い色へ変えたいなら弱音器、ヴェールのかかった響きを求めるなら指板寄りの弓奏、金属的な持続が欲しいなら駒寄りの弓奏というように、目的が分かれます。

次に、その和音が途中で強くなるかを見ます。弱いときだけでなく、頂点の音色も想像し、場面を通して必要な性格を保てるか、あるいは変化を表情にできるかを考えます。

最後に、旋律やほかの楽器との釣り合いを読み直します。奏法を替えたことで、伴奏がかえって目立ったり、聞かせたい線が弱くなったりしていないかを確認します。

この順序を踏めば、特殊な指定は雰囲気を何となく付け足す言葉ではなく、響きを選ぶ具体的な手段になります。普通の音から何を変えたいのかを明確にし、音色、強弱、持続の三つが目的に合うように配分しましょう。


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