ソプラノとバスの二重唱を、近い音で重ねてもいい?

ソプラノとバスの二重唱を、響きをまとめるために近い音へ集めると、かえって歌いにくい配置になることがあります。高い声と低い声を近づけるには、ソプラノを低く、バスを高く使わなければならないためです。

二重唱の距離は、音程の形だけでなく、二人がそれぞれ自然に歌える高さから考えます。 三度ならいつもよく混ざる、という発想だけで声を配置しないことが大切です。

声種の距離と、実際に歌う音程を区別する

ソプラノとバスは、もともと得意とする音域が大きく離れています。二人を組み合わせるときには、この違いを出発点にします。

ここでいう声種の距離は、全ての音を一定の音程で並行させるという意味ではありません。各声が自然に動ける場所の関係を表すもので、実際の二声の間隔は旋律の進行に応じて変わります。

たとえば、ソプラノとテノールのような組み合わせで扱いやすい距離を、そのままソプラノとバスへ移すことはできません。どちらも男女の二重唱ですが、声域の関係が違うからです。

まず二つの旋律を別々に読み、各声部がどの高さを中心に動いているかを確かめます。その後で、同時に鳴る二音の距離を調整する順序にすると、声の自然さを見失いにくくなります。

三度へ近づけると、どちらかに無理が生じやすい

ソプラノとバスを近い三度に置こうとすると、二人の音域を互いに寄せる必要が生じます。その結果、ソプラノは低い側、バスは高い側へ押されやすくなります。

音程だけを見れば整った三度でも、各声にとっての条件は整っているとは限りません。二声の間が狭いことと、二人が均等に自然な声を出せることは別です。

リムスキーコルサコフ著『管弦楽法の基本』では、この組み合わせをユニゾンや近い三度へ押し込むことを避け、六度、十度、十三度などで考える方向を示しています。

これは、広ければ広いほどよいという意味でもありません。各声の旋律が自然に進み、二人の関係が音楽として明瞭になる範囲を選びます。狭い配置を機械的に広げるだけでは不十分です。

六度、十度、十三度を、進行の中で使う

ソプラノとバスの組み合わせでは、離れた配置を許すことで、双方の声域を生かしやすくなります。六度、十度、十三度といった関係を、旋律の流れに応じて考えます。

大切なのは、一つの音程を最後まで固定しないことです。二人の旋律が上がったり下がったりするにつれ、自然な距離も変わります。始めの和音だけでなく、フレーズ全体を確認します。

たとえば、ある箇所を近づけるために、バスの線だけが高いところへ飛んでいないかを見ます。逆に、距離を広く保つためだけに、ソプラノの旋律が不自然な方向へ動いていないかも確認します。

縦の間隔を整えるために、横の旋律を壊さないことが重要です。 響きの配置と各声部の進行を、交互に確かめる必要があります。

離れていても、二人だけで音楽が成立するように書く

声が大きく離れていると、その間をオーケストラで埋めればよいと思うかもしれません。しかし、歌声は伴奏の中でも、声だけで一つの音楽を作っているように聞こえる側面があります。

そのため、二声の関係が不自然なのを、間に器楽の音を足して解決することはできません。歌の進行が誤っていたり、声どうしの関係が曖昧だったりする問題は、歌の書き方で整えます。

伴奏を外して二人の線を読むことが役に立ちます。各旋律が明快に進み、二声の関係に意味があるかを確認してから、オーケストラによる支えを加えます。

これは、伴奏に和声の役割を持たせないという意味ではありません。歌声自体の不備を、楽器の厚みで隠さないということです。歌と伴奏の両方が、それぞれ適切に書かれている必要があります。

不協和音は、そこへ来る道筋と行き先を見る

二重唱には不協和音も現れます。その場合、一瞬の音程名だけで判断するのではなく、どのように準備され、どこへ進むかを確かめます。

共通音によって準備される場合もあれば、別々の音から適切な進行のもとで生じる場合もあります。いずれも、そのあとの解決を含めて二声の線を読みます。

二人がそれぞれ歌いやすい高さにいても、声部の進行が曖昧なら、よいアンサンブルにはなりません。音域の条件を満たすことは、和声や対位法の確認を省けるという意味ではありません。

オーケストラの和音が正しいから歌の二声もよい、と判断しないことが大切です。声だけを取り出したときにも、進行が明快に聞こえるかを点検しましょう。

四度や五度は、置く場所と役割に注意する

二声を同じ音価で重ねるとき、四度や完全五度、またそれを広げた十一度や十二度を強拍へ置くと、響きが乏しく感じられる場合があります。単に広い距離を確保するだけでは、十分ではありません。

とくにソプラノとバスでは、離れた音域を使いやすいからこそ、その距離がどのような和声の性格になるかを確認します。声種が離れていることと、十二度を常に選ぶことは別です。

ただし、一方が旋律を歌い、もう一方が語るように和声的な支えを作る場合には、同じ条件で避ける必要はありません。二人が対等なリズムで一緒に動く場合と、役割が異なる場合では判断が変わります。

音程の一覧だけを覚えるより、「どの拍で、どの長さで、どんな役割の二声が鳴るか」を一緒に見ると、使い分けを理解しやすくなります。

声部の交差を、隙間を縮める手段にしない

歌の配置は基本的に自然な音域の順序に従います。ソプラノとバスのように大きく離れた声種で、上下を交差させて近づけることは、この配置の考え方に合いません。

声部の交差は、近い声種どうしで短く使う場合とは条件が違います。たとえば、似た高さを持つ二つの声では、旋律の動きの中で交差を避けにくいことがありますが、その事情をソプラノとバスへ当てはめることはできません。

二声が近づきすぎる箇所を見つけたら、交差させて通過させる前に、それぞれの旋律が自然な位置を保っているかを見直します。音の上下だけでなく、声種の役割が保たれているかを確認します。

近い声種の書法をそのまま使わないことが、ここでも重要です。二重唱という形式が同じでも、組み合わせごとに使える動きの幅は異なります。

同じ動きを続けず、二人の個性を残す

重唱の魅力は、複数の独唱者がそれぞれの特徴を残したまま一緒に歌えることにあります。ずっと同じリズムの和声として重ねると、各声の旋律的な性格が単純になりすぎます。

反対に、二人がずっと複雑に独立して動けば、聴き手がそれぞれの線を追いにくくなります。和声的なまとまりと、別々の旋律の動きを使い分けます。

ソプラノとバスの距離を考えるときも、毎拍きれいに並べることだけを目的にしないでください。ある箇所では一緒に進み、別の箇所では一方が旋律、他方が支えになるといった役割の変化があります。

こうすると、二人を無理に近づけなくても、音楽的な関係を作れます。物理的な音の近さと、フレーズとして一体であることは同じではありません。

ほかの二重唱の配置を、そのまま移さない

ソプラノとテノール、メゾソプラノとバリトン、アルトとバスのような組み合わせは、声域の関係がソプラノとバスとは異なります。扱いやすい間隔や動き方も同じではありません。

また、ソプラノとアルト、テノールとバスのように比較的近い声域の組み合わせでは、三度や六度などの近い距離が重要になります。同じ声種どうしなら、さらに別の条件があります。

そのため、よい二重唱の譜面を参考にするときも、誰と誰が歌っているかを確かめます。音符の形だけを写し、声種を置き換えると、片方の歌いやすさを失うことがあります。

ここで必要なのは全ての組み合わせを一度に暗記することより、声種の距離が配置を制約するという理解です。ソプラノとバスでは、近い二声の書法をそのまま使わないことが出発点になります。

配置を見直すときは、二つの旋律から始める

まずソプラノだけ、次にバスだけを読み、どちらも自然な音域と進行を持っているかを確かめます。近づけるために低すぎるソプラノ、高すぎるバスになっていないかを見ます。

次に二声を同時に読み、六度、十度、十三度などの関係がフレーズの中でどう変わるかを確認します。不協和音の準備と解決、強拍に置かれた音程、同じ音価での重なりも点検します。

最後に伴奏を戻し、歌の二声の役割を支えているかを見ます。歌の不自然さを楽器で埋めようとしていないか、声の個性を覆っていないかを確かめます。

歌に楽器を重ねることについては、歌の旋律をなぞる伴奏と歌い手の自由も参考になります。二重唱自体の配置を整えてから、必要な支えを選びましょう。

ソプラノとバスを自然に合わせるには、二人の距離を縮めるより、それぞれの声が生きる位置を尊重します。 そのうえで進行と役割を結びつければ、離れた二声でも明確なアンサンブルを作れます。

二人の声の関係が整理できたら、三人以上で歌うときの役割の分け方も見てみましょう。詳しくは、三重唱・四重唱で、それぞれの声を聞き分けやすくするには?をご覧ください。


声種ごとの二重唱や重唱の組み方を学ぶには、『管弦楽法の基本』の書籍版・PDF版へ。

書籍版をAmazonで見る / PDF版を見る

この記事は『管弦楽法の基本』の記述・補足に基づく解説です。参照:重唱。Amazonへのリンクにはアソシエイトリンクを使用しています。

Follow me!