ソロで歌える音域を、そのまま合唱にも使っていい?
独唱者が出せる音だからといって、その音域を合唱の全員に同じように使えるとは限りません。合唱では、少数の人の限界より、パートとしてそろって歌える範囲と、その響きの釣り合いを考えます。
音域表の端を使えるかどうかだけでなく、どの高さをどれほど続け、何人で担当するかを確認します。 独唱の旋律をそのまま合唱へ移す前に、音域、動き、分割の三点を見直しましょう。
通常音域と予備音域を分けて読む
声の音域を考える際には、ふだん中心として使う通常音域と、その外側の予備音域を区別します。最低音から最高音までを、すべて同じ条件で使える範囲として扱わないことが大切です。
通常音域を外れた高い音は頂点に、低い音は下降する旋律の中などで使うことが考えられますが、その場所に長くとどまれば、通常の範囲とは違う負担や表情になります。
合唱の声域は独唱より少し狭く、予備音域も通常音域から上下に二音程度という考え方が示されています。独唱の広い予備音域を、そのまま合唱の常用範囲へ移さないようにします。
同時に、人の声の限界は歌手によって異なることも忘れないでください。表は譜面を判断するための目安であり、声種の名前だけで全員の能力を同じに決めるものではありません。
原図では、合唱と独唱の欄を見比べる

図の上がコーラス、下がソロです。どちらにも通常音域と予備の表示があり、単に最も低い音と高い音を並べただけの表ではありません。
まず、同じ声種の通常音域を見て、その外側へどれほど予備の範囲が延びているかを比べてみましょう。合唱へ独唱の旋律を移すとき、確認すべき違いがここにあります。
次に、自分のフレーズの中で、通常音域から外れる箇所に注目します。最高音を一度だけ通るのか、その近くを何小節も歌うのかでは、同じ最高音でも書き方の条件が違います。
図の端の音を目標にするのではなく、通常の範囲を中心に、予備をどう使うかを考えます。表が広く見えるほど、その区別を保つことが重要になります。
特別な音域を持つ数人を、全員の基準にしない
大きな合唱には、独唱に匹敵する広い音域を持つ人が数名参加している場合があります。しかし、その人たちが出せる音を、パート全体の標準として扱うことはできません。
譜面上では同じ一行でも、実際にその音へ参加できる人数が大きく変われば、響きの条件も変わります。「誰かが出せる」と「そのパートとして充実して鳴る」を区別します。
たとえば、長い旋律の頂点だけを限界付近へ置く場合でも、そこを誰が歌う想定なのかを確認します。偶然参加している例外的な歌手に依存した書き方になっていないかを見ることが大切です。
特別な能力を意図して使う場合には、その条件を理解したうえで選びます。通常の合唱の音域と、限られた条件で使える音域を、同じ表の中でも分けて読んでください。
非常に低いバスには、さらに条件がある
バスの中には、通常の予備音域よりさらに低い音を出せる歌手がいる場合があります。しかし、このような低音を、どんな長さや音量でも自由に使えるわけではありません。
『管弦楽法の基本』では、こうした音は適度に伸ばし、合唱全体が非常に弱く、主に無伴奏の条件で使うものとして扱われます。
したがって、強いオーケストラの下を支えるために、極端な低音を合唱へ足すという発想には、そのまま当てはまりません。低い音が存在することと、大きな合奏を支える力があることは別です。
限界音を使うときほど、音高以外の条件を確かめます。 音の長さ、全体の強弱、伴奏の有無、実際に担当できる人数を、一組として考える必要があります。
第一と第二へ分けても、音域が無限に広がるわけではない
合唱の各パートを第一と第二に分ける場合、第一は通常音域と高い側の予備、第二は通常音域と低い側の予備を中心に考えます。高い声と低い声へ分担することで、それぞれに合う位置を選べます。
ただし、第一と第二という名前を付ければ、独唱と同じ広さが自動的に得られるわけではありません。どちらにも、その集団として無理なく歌える範囲が必要です。
また、分けた二つを長くオクターブで動かす場合にも注意します。同じ声種の中でオクターブを保つと、上側と下側がそれぞれ端の音域へ寄りやすく、動きの余地が少なくなります。
分割は、単に音数を増やす手段ではありません。どの声部をどの高さへ置き、何人で支えるかを変える操作だと捉えると、音域と釣り合いを一緒に確認できます。
divisiでは、一声部を受け持つ人数が減る
各パートを二つ、三つへ分ければ、書ける声部数は増えます。その反面、一つの線を歌う人数は減り、音量も弱くなります。和音の音が増えたことと、各声部が強くなったことは逆の方向になる場合があります。
たとえば、ソプラノだけを二分し、ほかのパートを全員のままにすると、上の各声部と下の声部で人数の条件が変わります。その配置で和声の釣り合いが保てるかを見ます。
合唱では、指導者が人数や強弱を調整してバランスを整える余地があります。しかし、だから作曲側で配分を考えなくてよいわけではありません。どの声部を明瞭に聞かせたいかが伝わる書き方が必要です。
とくに、中声部が弱くなりすぎると、上の旋律だけは目立っても和声が十分に響かなくなります。分割後の各声部を、音符の数ではなく実際の人数も含めて見直します。
少人数や分散した合唱では、条件を改めて見る
合唱全体が舞台上で二つ、三つの集団に分かれる場合、小編成ではそれぞれが独唱に近い人数になってしまうことがあります。全体の人数だけを基準にした配分では、実際の響きを捉えきれません。
各集団がどの声部を受け持ち、何人で歌うのかを確認します。大人数で一つの線を支える想定と、分かれた少人数が別々に歌う想定は、同じ合唱譜でも条件が違います。
この点は、divisiとも重なります。声部の分割と集団の分散が同時にあるなら、一つの線を担当する人数はさらに少なくなります。広い音域や複雑な動きを要求する前に、その実態を見ます。
伴奏の厚みについても調整が必要です。合唱の種類、人数、舞台上の位置と伴奏の関係は、合唱の全声部を楽器で重ねるべきかで詳しく扱っています。
独唱と同じ機敏さを、当然の前提にしない
合唱の旋律には、独唱よりも音域と動きの制約があります。独唱で自然な細かさや自由なフレーズでも、集団として同じように扱えるかを確認する必要があります。
音域だけを合唱向けに狭めても、細かなリズムや跳躍、音節への音の載せ方がそのままなら、十分な見直しとはいえません。複数の人が一つの線を歌う音楽として読んでみます。
合唱では、より単純なリズムや短いフレーズの反復が使われる場合が多くあります。ただし、常に単純にしなければならないという意味ではなく、その合唱で実現できる動きと表現を選ぶことが要点です。
独唱の旋律を移す場合には、音高だけでなく、速さ、音の長さ、跳躍、言葉の置き方も一緒に確認します。一つの音が出ることと、一連の旋律として自然に歌えることは別です。
ずらして息を取れることは、音域の無制限さではない
合唱では、全員が同時に息を取る必要がないため、各人が異なるタイミングで短く休むことができます。そのため、独唱と同じ場所に必ず全体の休符を置く必要はありません。
しかし、この利点は、どんな高さでも長く続けてよいという意味ではありません。息の受け渡しと、通常音域から外れた場所を歌い続ける問題は、別の条件です。
たとえば、高い予備音域の持続を、人数が多いから可能とだけ判断しないでください。音をつなぐことができても、その高さで求める音色や釣り合いが保てるかは、改めて考える必要があります。
集団だから可能になることと、集団だから慎重になることを分けます。 息の分担は前者であり、全員の音域と動きをそろえることは後者の課題です。
移調や反復では、担当も配り直す
同じフレーズを高い調で繰り返すと、元の担当をそのまま保てなくなる場合があります。初めはソプラノとアルトで旋律を重ねられても、高くなった反復ではソプラノだけへ任せ、アルトを和声へ回すことがあります。
その変更に合わせて、テノールやバスのdivisiも見直します。旋律だけを移すのではなく、合唱全体の釣り合いを作り直す必要があるためです。
ここでも、同じ音型だから同じ配分という考え方から離れます。高さが変われば、各声の自然な役割も変わることがあります。
合唱へ移すときは、音域表の範囲内に収まったかで確認を終えないでください。 通常音域と予備音域、人数とdivisi、動きと息の条件まで確かめることで、歌える音を、よく響く合唱の音楽へつなげられます。
声域の重なり方を独唱どうしの組み合わせから考えるなら、ソプラノとバスの二重唱を、近い音で重ねてもいい?をあわせてお読みください。
合唱とソロの音域を区別したうえで、独唱の高い音へどう進むかを考えることも大切です。詳しくは、歌の高音や大きな跳躍は、どう準備すれば自然になる?をご覧ください。
声域に合う音を選んだら、次は各声部をどのように分け、和音として釣り合わせるかを考えます。詳しくは、合唱を三声・四声に分けるとき、和音のバランスをどう保つ?をご覧ください。
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この記事は『管弦楽法の基本』の記述・補足に基づく解説です。参照:コーラス。音域表および通常音域の説明には、同書「ソロ」の節も参照しています。Amazonへのリンクにはアソシエイトリンクを使用しています。

