装飾した旋律を、元の形でも重ねると音がぶつかる?

装飾した旋律を目立たせるために、その元の形を別の楽器で重ねると、かえって音がぶつかることがあります。装飾を除いた線だから安全、というわけではありません。

装飾された線と元の線は、同時に鳴る瞬間には別の音になることがあります。 支えのつもりで足した音が、旋律の非和声音と近くでぶつかっていないかを確かめましょう。

元の形を重ねても、完全な重複にはならない

旋律に経過的な動きや装飾が含まれるとき、その土台には比較的単純な音の進み方を見いだせます。しかし、その骨格だけを別の楽器で鳴らすと、旋律が動いている間にも骨格の音は残ります。

たとえば、骨格が一つの和声音を保っているところで、旋律が隣接する非和声音へ動くと、二つの異なる音が同時に鳴ります。譜面では同じ旋律の詳しい形と簡単な形でも、響きとしては単なるユニゾンではありません。

この違いを見落とすと、「元の音を支えているだけなのに、なぜ濁るのか」という疑問が生まれます。問題を見つけるには、二つの線を横に追うだけでなく、各瞬間を縦に見てください。

とくに、非和声音がある程度の長さを持つ場合には、骨格の音とのぶつかりを無視できません。ほんの短い通過と、しばらく保たれる音を、同じ条件として扱わないことが重要です。

原図で、旋律が動く間の骨格を確認する

動きのあるメロディと長い音価の和声骨格を同時に鳴らすと音がぶつかる譜例
リムスキーコルサコフ著『管弦楽法の基本』より。上段の動きに対して、下段のどの音が残っているかを確認する。

上段が動きのあるメロディ、下段がその骨格です。下段は上段のすべての動きを追わず、長い音価で基本となる音を保っています。

上段の音符を一つずつ見るとき、同時に下段で何の音が続いているかを確認してみましょう。二つの線が対応して見えることと、どの瞬間にも同じ音を鳴らしていることは違う、とわかります。

原図では、この組み合わせに音のぶつかりがあることを示しています。装飾の少ない下段を加えれば旋律が整理されて聞こえる、とは限らないわけです。

自分の譜面を点検するときも、旋律が骨格から離れている箇所に印を付け、その間に骨格の音が残っているかを見ます。重複したつもりの場所から、実際には別の音が共存する場所を拾い出すことができます。

長さだけで、許容範囲を決めることはできない

ぶつかる音が短く通り過ぎれば、その印象は小さくなりやすく、遅いパッセージで長く残れば感じやすくなります。しかし、「この音符の長さまでならよい」という一律の規則は作れません。

同じ八分音符でもテンポによって実際の長さが違いますし、音域や音色が違えば、同じ時間でも響きの鋭さは変わります。記譜上の音価だけで判定することはできないのです。

また、和声音は近接する非和声音より目立って聞こえます。そのため、旋律を支えるつもりで置いた骨格の音が、むしろ装飾された旋律の聞こえ方を妨げる可能性があります。

見直すときは、ぶつかりが何拍続くかだけでなく、どの音が前に聞こえるかも確かめます。主役のはずの旋律が、支えの音に押し戻されていないかという視点が役立ちます。

オクターブの距離で、ぶつかり方を変える

不協和な二音が音域的に離れると、その鋭さは薄れます。原図のメロディを一オクターブ下げた場合にも、近くでぶつかる状態を避け、不協和を感じにくくする方向になります。

ただし、オクターブを離せば、どんな場合でも問題が消えるわけではありません。遅いパッセージでは、離しても不協和が意識されやすく、素早い動きほど気になりにくくなります。

音域を離すことは、音程関係をなくす操作ではなく、ぶつかりの聞こえ方を変える操作です。 音を移したあとにも、テンポと音の長さを含めて判断する必要があります。

さらに、移動によって旋律の表情や伴奏との関係も変わります。衝突を避けるためだけに高さを変え、もともと必要だった旋律の位置を失っていないかも確認しましょう。

楽器が違えば、同じ音程でも同じ鋭さではない

同じ近接した不協和でも、担当する楽器によって鋭さは変わります。たとえば、二本のトランペットによる短二度と、弦楽器による同じ音程を、同じ性格として扱うことはできません。

このため、譜面上の音程だけを見て「必ず同じ程度にぶつかる」と決めるのも不十分です。どの音を誰が鳴らすかを、音の高さや長さと一緒に確認します。

金管の不協和な二音の割り振りについては、同じ不協和音でも楽器の配分で鋭さが変わるかで詳しく説明しています。ここでは、それを装飾旋律と和声骨格の関係へ広げて考えます。

注意したいのは、音色で違いが生まれることと、音色が違えば何を同時に鳴らしてもよいことは、同じではないという点です。選択肢が増えるほど、実際の響きに対する判断が必要になります。

旋律と骨格の音色を分ける

オーケストラでは、旋律と和声骨格の音色を分けることで、非和声音の衝突を感じにくくする方法があります。音色の多様性が、二つの役割を区別する助けになるのです。

歌声とオーケストラは、その効果がよく見られる組み合わせです。また、弦、木管、撥弦、打楽器などの異なる性格を用いる組み合わせも、この観点から考えられます。

ここで求めているのは、主役を単に大きくすることだけではありません。装飾を持つ線と、それを支える骨格を、同じ色の近接した音として一塊にしないことです。

旋律と伴奏の音色を分ける一般的な考え方は、旋律と伴奏を別の楽器群へ分ける意味にまとめています。この場合には、とくに非和声音が残る瞬間を中心に点検してください。

木管と金管なら、それだけで十分とはいえない

旋律が木管、骨格が金管というように楽器群を分けても、その音色差だけでは、ここで問題にしている衝突を避けるのに不十分です。異なる群だから安心、と考えないようにします。

木管と金管の組み合わせでは、和声骨格を旋律から一オクターブずらし、音量も旋律より控えめにする方法が示されています。音色だけでなく、距離と強さも同時に調整するわけです。

この順序で考えると、「別の楽器に替えたのに、まだぶつかる」という場合にも次の検討ができます。高さが近すぎないか、骨格の音が強すぎないか、非和声音が長く残っていないかを確認します。

反対に、音色差を求めて楽器を替えた結果、その音域で必要な響きが得られなくなっていないかも見ます。衝突の処理と、各楽器に適した配分の両方を満たす必要があります。

三度や六度で旋律を重ねると、問題が増える

装飾された旋律をさらに三度や六度で重ねる場合には、ぶつかる二音を一組だけ調べれば済むわけではありません。旋律側にも複数の音が生まれ、もとの和声に別の和音的なまとまりを重ねることになります。

そこで、一本の旋律では許容できた動きでも、複数声部になると、同時に生じる関係が複雑になります。各線がそれぞれ美しく動いていることだけでは、全体の響きを判断できません。

まず、装飾を持つ声部どうしの関係を見て、次に、それらと骨格の各音との関係を確認します。問題の箇所だけを取り出す際にも、都合のよい二声だけでなく、同時に鳴っている音をそろえます。

厚みを出すために重ねた結果、旋律と和声の役割が不明瞭になっているなら、重複の目的を見直します。人数や声部を増やすことが、必ずしも旋律の明瞭さにつながるとは限りません。

自分の譜面では、どこから直すか

最初に、装飾された旋律と骨格を別々の線として書き出してみます。次に、旋律が非和声音へ動く瞬間に、骨格のどの音が残っているかを確かめます。

その箇所について、長さ、音域の距離、音色、強さの順に条件を見ます。短く通過するのか、長く保たれるのか。近接しているのか、離れているのか。役割を聞き分けられる色か、骨格が前へ出すぎないかを確認します。

一度にすべて変えると、何によって改善したのかがわかりにくくなります。たとえば、骨格を控えめにする案、音域を離す案、音色を変える案をそれぞれ考え、フレーズの目的に合うものを選びます。

そして修正後には、その部分を前後へ戻して見ます。一瞬の衝突が減っても、旋律の位置や和声の流れが不自然になれば、別の問題を作ったことになります。

「違う音色なら自由」という結論にしない

音色の違いは、管弦楽で和声を扱うための大切な資源です。しかし、それを根拠に、個別にはよい二つの音楽を重ねれば必ずよい結果になる、と考えることはできません。

『管弦楽法の基本』でも、どの程度の不協和をどれほどの時間使えるかに、厳密な一律の答えは置いていません。配置と音色を知ったうえで、音楽として判断する課題が残ります。

骨格を重ねる前に、その音が旋律を支えているのか、装飾と競合しているのかを確かめましょう。 元の形だから安全と考えず、実際に同時に鳴る音から見直すことが、自然な重ね方につながります。


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この記事は『管弦楽法の基本』の記述・補足に基づく解説です。参照:様々な装飾。Amazonへのリンクにはアソシエイトリンクを使用しています。

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