伴奏の透明性:和声
弦楽器は最も透き通った音色を持ち、歌声をかき消してしまうリスクが最も少ないと言えます。次いで木管、金管の順に透明性が下がると共に、歌声の音量を凌駕しやすくなってきます。この性質は、金管の中でもさらにホルン、トロンボーン、トランペットの順番に強まると覚えておきましょう。弦楽器のpizzicatoとハープの組み合わせは、歌声と抜群に相性の良い背景を作ってくれます。基本的に、オーケストラが長い持続音を鳴らすと、短い音の場合よりもあっけなく歌声を圧倒してしまいます。また、弦楽器を木管や金管で重複したり、金管を木管で重複したりしても歌声を食ってしまいがちになります。また、ティンパニをはじめとする打楽器のトレモロはオーケストラの他の楽器すら凌駕する音量を出すわけですから、歌声など簡単にかき消してしまうことでしょう。同じ木管や金管楽器を2本ユニゾン重複で使って(つまりクラリネット2本、オーボエ2本、ホルン2本のユニゾン重複といった組み合わせ)和声の一声部を奏でるのもよくありません。これらユニゾン重複はどれも歌声を不明瞭にさせてしまいます。またこれとは別に、歌声のある所ではコントラバスのような重たい低音を長い持続音で何度も使うべきではありません。このような低音と歌声とが合わさると、ブンブンと唸るような感じに聴こえてしまいます。
さて前述したように、弦と木管を重複して使うと歌唱やレチタティーヴォが聴こえづらくなってしまいます。しかし、弦と木管のどちらか片方が持続音による和声を構成し、もう片方がメロディのような動きをする場合には、弦と木管を両方同時に使うことができます。例えば持続音による和声をクラリネットとファゴット、あるいはファゴットとホルンで鳴らしておいて、ヴァイオリンやヴィオラでメロディのような動きをするという場合です。弦と木管の役割を逆にして、和声の方をヴィオラとチェロのdivisiで演奏し、クラリネットでメロディ的な動きをするということも可能です。
持続音による和声について、その音域が第2オクターブから第3オクターブの途中くらいまでの場合、オケが声を圧倒してしまうことはありません。これは、まず女声に対しては音域が大きく異なるためです。男声の場合は同じ音域にかぶってきますが、それでも(特にテノールにおいて)歌声の方が一オクターブ高く聴こえるため、結果的にオーケストラと競合しないのです。大雑把に言って、声とオーケストラの音域が近くなってきた場合には、女声の方が男声よりもかき消されやすくなります。それぞれの楽器群を単独で、かつ適度な音量で使う場合には、どのパートの歌声ともうまく組み合わせることができるでしょう。しかし複数の楽器群を合わせる際には、これら楽器群が一つにまとまって強力な音量をだすような使い方は避けましょう。それぞれの楽器群が独立した別々の声部を演奏している場合であれば、複数の楽器群を使ったとしても歌をかき消してしまうことは少なくなります。また、4声の和声を絶えず鳴らし続けるのはよくありません。より印象の良い進行のさせ方として、ペダルノートをいくつか残して声部数を減らしていくという方法があります。また、広い音域に渡っていたり高音域で重複されていたりした和声が休符を挟んで一オクターブ以内に収まる、というのも良い進行です。
以上のことに注意して曲を書くということは、歌い手をオーケストラで援助するという発想につながります。援助というのは例えばcantabileの歌唱からレチタティーヴォに移る時のように歌声が小さくなりがちな場所ではオケによる和声を削るか無くすかしたり、逆に豊かな歌唱やクライマックスの部分ではオーケストラの方も厚くして歌をサポートしたり、といったことです。
色々な楽器を使って装飾的な伴奏としたり、多声部的な伴奏を作ったりする際は、それが複雑になり過ぎないように注意しなければなりません。いたずらに複雑にしてしまうと、同時に演奏する楽器数まで不必要に増えてしまいます。複雑な伴奏が必要になった場合には、その一部を弦楽器のpizzicatoとハープに割り振るのが良いでしょう。というのは、これらは歌声をかき消してしまうことがほとんどないからです。
第五章の内容を目次から紹介
第五章 歌声とオーケストラの組み合わせ
独唱の伴奏
概要
伴奏の透明性:和声
オーケストラによる歌声の重複
レチタティーヴォとデクラメーション
合唱の伴奏
ソロと合唱の組み合わせ
楽器の舞台上・舞台袖への配置
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